第101話 怪媛現る!
前回のあらすじ:サシコの目の前についにマガタマが姿を現す!
※一人称視点 サシコ→アカネ
目の前に現れた青白い光を放つ球体……いや、あまりにも光が強すぎて真球かどうかは判断できないけど……ともかく、ソレは掌に収まりそうなその大きさに比較して異様なまでの存在感を示していた。
ごくり……と無意識に唾を飲む。
こ、これがあの伝説のマガタマ……言葉の真偽を確認する術はないけど、眼の前にしてみれば信じるほかは無い。
はじめてアカネさんの陰陽術を見た時以上の威圧感に。それほど迄に凄まじく迸る熱気と呪力に。アタシは言葉を発する事を忘れるほどに魅入られていた。
「ヒェッヒェッヒェ!これでもアレの力は百分の一ほどに抑えておる!完全無修正のアレの力はこんなものじゃないぞぇ!」
いっ……!?
こ、これで百分の一だというの!?
「生のままでは、例え君の【龍の玉視】をもってしても直視する事は出来んだろうからの。六行を無害化する鉱物・殺生石を加工した特殊な台座で力を封じておる。ほれ、ちょうど君の持っておった天羽々切。あれと同じ素材じゃ」
天羽々切と同じ素材…………なるほど、確かに天羽々切も刃に触れた六行の力を分解する作用があるし、マガタマの台座も天羽々切の刀身と同様に光沢のある真っ黒な色合いだ。信憑性の高い話ではあるけど、今まで不明とされた天羽々切の素材とその採掘場所を当たり前のように知っているなんて、金鹿馬北斎……やはりただの絵師じゃない。
「アレには万物をこの世に生み出した創造の力と、対になる破壊の力が秘められておる。その凄まじい力を剥き出しのままに扱うのは、いかに吾輩といえども不可能。ゆえに殺生石で常に力を抑え込んでおかねばならぬ」
マガタマが神話の通り、本当にこのジャポネシアを創造した神器であるならばそれくらいの対策は必要だろう。いや、むしろ人間が制御できると考える方がおかしい。
金鹿馬北斎は新世界を創るために神の領域に入らねばならないと言ったが、まさにそのような超規格外の物体を操る事ができれば、それは人間ではなく神だ。
「……しかし、アレを抑えるというのは口で言うほど容易くはない。何せ、アレに触れ続ければいかに殺生石といえどすぐに摩耗して封呪効果が弱まってしまうからの。じゃから、こうして殺生石を唯一採掘できる山のある旧トッチキム領に本拠を置き、殺生石の在庫を切らさんように苦心しとるのじゃ」
殺生石の採掘できる山がこのトッチキムに…………あ、そういえば太刀守殿が熊野古道伊勢矢の術を解除するのに入ったというキヌガーの奇跡の湯も、天羽々切の素材と同じような成分が含まれている可能性が高いと、アカネさんが言っていたな。
奇跡の湯は天羽々切と同様、どす黒い墨汁のような色の温泉だったと聞くし、案外殺生石というやつは旧トッチキム領では珍しくないのかしら……と、それはさておき……
「しかし、その必要ももう……………て、ん?」
アタシも金鹿も、ほぼ同時に気づく。
アタシのすぐ隣にいるはずの彼女の姿が見えない事に……
「あっ!」
コジノさんは手錠されたまま駆け出し、マガタマの方に迫っていた!
おお……金鹿が説明に夢中になっているスキをついてマガタマを奪還するつもりなのね!相変わらず抜け目のない動き!
しかし……
「……ぐむっ!?」
コジノさんはマガタマに辿り着く前に床にベタンと倒れ込んだ。
足がもつれて転んだ、というより何か重いものにのしかかられて地面に叩きつけられた様に見えたけど…………もしやこれってアタシがオウマの見張り棟で阿羅船牛鬼に食らった土行の重力操作の技!?
「オイタは駄目よぉ。お嬢さん」
部屋の奥から女性の声がする。
「おおー、百合沢くん!良いところに来たね」
現れた女性はおでこの空いた黒の長髪に、黒いつなぎの着物を纏う妖艶の美女。しかし、血色は悪く、頬もこけ気味。薄暗い部屋でマガタマの青白い光で浮かび上がるその表情は目の下の濃い隈と合わせて非常に不気味な印象を感じた。
「紹介しよう!彼女は吾輩の共同研究者兼助手で、わが最大の理解者!"マグチフの怪媛"の異名を取る西ジャポネシア随一の智者にして、土行の陰陽術士で最高の…」
「百合沢喪奈よぉ……よろしく」
百合沢喪奈は熱狂的な金鹿とは正反対に脱力系の雰囲気だ。彼女は手に持つ何やら地図らしき絵図が描かれた球体を地に伏せるコジノさんに向けると、今度はコジノさんの体がふわりと浮いた。
「先生ぇ……この娘たちを我々の計画に利用するのですね?」
「おお、おお!そうじゃった!」
金鹿は宙に浮かされたコジノさんの顔をガシッと鷲掴みにする。
「コジノさん!」
「くっ……!」
金鹿はコジノさんの顔を掴んだまま移動し、白い磔台のような器具に背中向きに拘束する。
「コジノちゃん。まずは君から行くかの…………百合沢くん、転妖の術式の準備をしたまえ」
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「" 重 炎 雪 崩 "ォッ!!」
「ぬわああっ!」
赤黒の金剛石の技を食らい、甲斐田震源の小懸騎士・山火林風は地面に叩きつけられ機能を停止した。
「そこまで! 山火林風・戦闘不能! よって勝者……マツシタ・アカネ!」
ふぅ……甲斐田震源、かなりの強敵だった。
風・識・火・土の4属性の技を使える小懸騎士の性能にも驚きだったけど、真価はその4属性を使いこなし適所で発揮する判断力!全部の属性を見切るのには相当てこずったけど……惜しむらくは1つ1つの属性の持久力が低いこと。
遠距離からの三段撃ち戦法には対抗し切れなかった様ね……【富岳杯】2回戦突破!!




