第99話 玉視の瞳!
前回のあらすじ:サシコの異常な成長速度の秘密は寿命を犠牲にした黄泉の狭間での修行の成果であった!
※一人称視点 サシコ→アカネ
人とは──創世記に神々によってマガタマの力で生み出された存在であり、人間が使う呪力はその時に身体に宿ったマガタマの力の残滓である。
呪力は血液と同様、どんな生物にも生来存在するものだが、その含有量には個体によって大きな差がある。この呪力の含有量が突出して多い者の眼は宝石のような美しい色と輝きを持つとされ、マガタマの監視者たる【統制者】はそのような眼を【玉視】と呼んだ。
【玉視】を持つ者は持たざる者に比べ六行の力に覚醒しやすく、また一度覚醒すれば剣士であれ術士であれ、絶大な力を得る事ができる。特に黄金色に輝く【玉視】は非常に稀少であり、常人に数倍する呪力を秘めた【玉視】の中でも更に桁違いの呪力を誇るとされる。
この当代に1人持つ者がいるかいないかの至高の【玉視】を【龍の玉視】と呼び、両眼ともにこの【龍の玉視】を持つ者は世界を揺るがす稀代の傑物として、善悪に関わらず必ず歴史に名を刻んできた……
「……古くは大エドン帝国を建国した聖帝・徳川佐宇座、その大エドンを分裂させ時代を群雄割拠の戦乱に陥れた戦禍の女王・範ノ馬美酉、そして戦国時代後期に最強の名を恣にしたが、どの国にも属さず、ただ己の武芸のみで強国による統一を阻止し続けた先代太刀守・朝青編竜。彼らのその両の眼は【龍の玉視】であったと言われているわ」
コジノさんの人類の起源に始まる壮大な説明を一通り聞き、何やらすごい人たちの名前も出てきたけど…………要するに……?
「ま、要するにサシコちゃんの眼には凄い力が宿ってるって事たい」
おお……やっぱりそういう事だよね!
アタシの眼がそんなシロモノだったなんて全然実感がなかったけど……よくよく思い返せば熊野古道伊勢矢に攻撃を受けた時に六行に覚醒した事やその後貧弱ながらすぐに技を出せたのも、その【龍の玉視】というのの影響だと考えれば合点がいく。
「ちなみにウチの眼も【玉視】たい」
「え? そうなの?」
「【玄野伊弉冊の像】も【玉視】を持つ程の呪力がなければ反応せんからね。ウチのはサシコちゃんの眼ほど大層なものじゃないけど……」
あ、なるほど。紅鶴御殿では誰もあの銅像の真の力を知らない様子で、目立たないとはいえ中庭に堂々とあるのに誰も気付かないなんてこと有り得るかな?と今まで疑問に思っていた。しかし、非常に希少だという【玉視】を持つ者にしか反応しないというならそれも頷ける。
「元々はあの力を知っている者があそこに置いたんやろうけど、長らく【玉視】を持つ者が現れん内に失伝してしまったんだろうね。まあ、そもそも【玉視】については【統制者】以外にはほとんど知られてないから、最初に置いた本人すら使用条件をよく理解してなかったのかもしれんけど」
うーん、そうだとしたら凄く勿体ない話ね……使い方によっては凄く役に立つのに…………
まあ、もしかしたらアタシやコジノさんのように秘密で使った者はいたのかもしれないけどね。
「それにしてもコジノさんは、何故そんなにあの像の事に詳しいんですか?」
「ん? ああ、ウチも後から知ったことたい。御庭番十六忍衆の任務で集めた【統制者】の持つ書物をいくつか読ませてもらったけん。【玉視】についても【玄野伊弉冊の像】についてもそこに載っていたんよ」
【統制者】……て、太刀守殿から聞いたマガタマの管理者の事よね。話の流れ的に。これって、マガタマの研究者でもあるあの吉備牧薪ですら知らない情報よね?御庭番で資料を集めてるって言うけど、一体なんのため?
というか、いくら何でもサシコちゃん、重大な情報話し過ぎじゃない?敵組織の人にこんな心配するのもおかしいけど、仮にも帝の親衛隊が部外者にこんなベラベラ喋っちゃまずいんじゃ……
「あっ」
今まで軽快に話していたコジノさんが突然、顔を曇らせる。
「えっ!?」
「……喋っちゃダメなこと話しすぎたたい」
あ、やっぱりぃ!
そうよね!そりゃマズいよねー!
「今のちょっと忘れて…」
「先生!話し過ぎですよ!」
コジノさんが今更なごまかしを行おうとした時、牢屋の外から男の人の会話が聞こえた。
「今はまだ選別の段階!我々の計画は部外者に気取られてはマズい!」
「ヒェッヒェッヒェ!どうせ遅かれ早かれバレるのじゃ!ビクビクしても仕方あるまいて!」
この声……片方の男は金鹿馬北斎だ!
会話はどんどん牢屋の方に近づいてくる。
「いや、しかしですな。この計画が共和国側に露見すれば我々の投資も…………ん?」
牢屋の前に姿を表したのは二人の男。
一人は金鹿馬北斎で、もう一人は身なりのいい小太りの老人……誰だかは分からないけど金鹿の仲間よね。
「ほぉ。この娘たちが町で捕えたという……」
小太りのおじさんが品定めするように牢の中をのぞき見る。
「おほっ。これは中々の別嬪さんたちじゃないですか」
うっ……またまた下衆の目……!
なんなのよ、もう……
「ちょっと!ジロジロ見ないでよ!」
「おっと。随分と威勢もいいようだ…………よろしいよろしい。新世界に適応するにはそれぐらい元気で無いとな」
「ハァ!?」
こいつら……新世界新世界て一体何の事を言ってるの!?
「へっへっへ。何せワシらの子をたくさん産んでもらわないと困るからのお」
……背筋がゾッとする。
え? 嘘? このオジサン、今なんて言った?
何かとんでもなく悍ましい事を口走ったような気がするけど……
「この娘たちは繁殖用ではない」
金鹿が小太り爺さんに口を挟む。
「この娘はもっと高度な目的の為に使う。繁殖用は別で調達する」
「別で調達と言いましても、当初予定していたカワーグ地区からの誘拐計画は頓挫しましたし、数少ない雌……いやご婦人は有効活用しないと……」
「黙れ!!」
「ひっ……」
金鹿が一括すると小太りの爺さんは怯んでそれ以上は喋らなくなった。
「サシコちゃんにコジノちゃん。君たちには今から吾輩の研究室に来てもらおうかの」
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「" 七彩花火 "ォ!!!」
「うわああっ!」
赤黒の金剛石の技を食らい、駝場文鳩の小懸騎士・白鵬の翔王は場外までふっ飛ばされた。
「そこまで! 白鵬の翔王・戦闘不能! よって勝者……マツシタ・アカネ!」
ふぅ……駝場文鳩、なかなかの強敵だった。
攻撃一辺倒のパワータイプと思いきや、スピード・テクニックともに高い水準を持ち、それでいて土俵際では執念の粘り腰……あわやウッチャリを食らうところだったわ。まさに盤石の横綱相撲。優勝候補の呼び声に恥じぬ強さだった。
でも、最後にキンボシを掴んだのはわたし……【富岳杯】初戦突破!!




