9、花も恥じらう学園祭!(ウソでしょ、この衣装!)
高校生の一大イベント・学園祭。
その後夜祭のステージで、美園のE組とライバルの渋水理穂のG組がダブル・ブッキングしてしまう。
どちらが後夜祭のステージを獲得できるか、
それは互いのクラスの模擬店の売上で決める事となった。
美園達はG組に負けないように、クラス一丸となって作戦を練る。
美園はその中でもメニュー・調理担当となり、得意の唐揚げとコロッケを作ったところ、
初日は大変好評であった。
そしていよいよ2日目、この日から外部の来客もやって来る。
売上も大きい。
この二日間の売上で、勝負が決まる。
翌日、土曜日。
あたしたちはほぼ徹夜の状態で、コロッケと唐揚げを作り続けていた。
だが一度に全ては作りきれない。
よって第一弾として、コロッケ200個と唐揚げ300個を、3人の女子が十時までに学校に届ける。
後から第二段として、昼頃にコロッケ150個と唐揚げ300個を、あたしともう一人の女子で運ぶのだ。
そして正午ちょっと前、あたしは残りのコロッケと唐揚げを無事に教室まで届けた。
「ふぅ~」
あたしは思わずイスに倒れ込む。
「お疲れ~、今日も売れ行きはだいぶイイよ。もう朝に持ってきたコロッケと唐揚げも大半は売れちゃったし。お好み焼きと焼きそばも順調だしね。今日は女性客も多いから、小倉餡トーストもよく出てるしね」
あたしはグッタリしながら、その言葉を聞いていた。
「そう、良かった。じゃあ一休みしたら、あたしも予定通りビラ配りに回るね。それまでちょっと休ませて」
すると一緒にコロッケと唐揚げを持って来た女子が言った。
「あ、じゃあ先にわたしがビラ配りに行くよ。美園は疲れてるでしょ。ちょっと休んでからでいいよ」
「悪いね、ゴメン」
七海が教室の隅を指差した。
「そのダンボールの中に宣伝用のコスチュームが入っているよ。着替えスペースは裏にあるから、そこで着替えて。チラシはコッチにあるから、それを持って行って」
七海のその言葉を聴きながら、あたしはしばらく目を閉じていた。
三十分ほど休憩を取り、あたしもビラ配りに行くことにする。
さっき七海が言っていたダンボール箱を除くと、中には白いワンピースの衣装しか残ってなかった。
・・・他のコスチュームに比べると地味だな。ま、地味な方があたしらしくていいか・・・
あたしはその衣装を持って、着替えスペースに入った。
三分後・・・あたしの目は点になっていた。
・・・なんじゃ、こりゃ?・・・
あたしのコスチュームは『白い妖精』
・・・ではなくて『白衣の天使』、
つまり『看護婦』のコスチュームだったのだ。
しかもなぜか胸元が菱形に大きく開いている・・・。
背中も大きくU字型に開いている。
これではブラジャーが着けられない!
(なぜか首元だけは、襟のみで閉めるようになっている)
そしてトドメはスカート丈。
お尻が隠れるギリギリくらいの長さしかない。
あの渋水理穂のスカート丈より、さらに短いじゃないか!
「七海、七海!ちょっと!」
あたしは大声で七海を呼んだ。
「なによ、大声出して」
着替えスペースのカーテンから顔だけ出して、七海に小声で言う。
「ちょっと、宣伝用の衣装がマトモじゃないんだけど。他の衣装ないの?」
あたしにそう言われて、七海は衣装用のダンボールを覗いた。
「もう無いね。なに、なんの衣装だったの?」
あたしは周囲から誰も見えていないことを確認し、パッと一瞬だけカーテンを開いた。
「ああ、『ナース』の衣装ね。人気あるんだよ、それ」
ナース?
これがナースの格好か?
こんなHな格好のナースが、日本中にどこにいるんだ、バーロー!
いるならココに連れて来い!
あたしが小一時間、説教してやる!
「いくら人気があったって、こんなの着られないよ!」
あたしは、小声だが怒りを含んだ強い調子で言った。
「仕方ないじゃん。もうそれしか残ってないんだから」
「いや、さすがにコレは無理だって。ブラだって着けられないし」
「あ~、ニップレスとか持ってないの?」
どこの世界に、ニップレスを持ち歩いている女子高生がいるんだ?
(ちなみにニップレスとは、ブラジャーを着けられない時に胸の先端につける小型パッドのことだ)
「持ってる訳ないでしょ!ねぇ、あたしはいつもの制服でもいいじゃん。ウチの制服、十分可愛いし」
「ダメ!絶対ダメだよ!」
七海は強い調子で言った。
「制服なんかじゃ全然目立たないでしょ!ビラ配りが目立たなきゃ意味無いんだから!あたしが宣伝・広告担当なんだから、ココはあたしに従ってもらうよ!美園だって中上君に言ってたじゃん。『これはクラスのため』だって」
そりゃあ、そう言ったけど。
でもそれとこれとは状況が違い過ぎる。
七海はそう言うと、強引に着替えスペースのカーテンを引き開けた。
「なんだ、可愛いじゃん。大丈夫、言うほどヒドくないよ。それにその胸元もそんなに見えないよ。あたしも何度か着てるけど、ニップレス無しでも見えた事ないもん」
あたしは恥ずかしくて、胸元を押さえながら横を向いた。
本当に大丈夫か?
自分の胸元とか、自分で確認できると思えないが。
「ハイ、それじゃあチラシはコレだから。校門近くとか玄関ロビーとかを回って、入場客に配ってきて」
七海はナースキャップをあたしの頭に乗せると、チラシの束を押し付ける。
それを受け取って、あたしは上目使いに聞いた。
「ねぇ、本当に大丈夫かな?衣装が白だけど下着の色とか透けない?今日の下着はピンクなんだけど・・・」
「大丈夫、これは夏コミ用だから、そういう点も考慮して、布地は透けない素材を使っているから」
七海はあたしの背中を押して、バックヤードから客席側に押し出す。
一瞬、客やクラスの男子の目が、あたしに集まった気がした。
七海はそのままあたしを廊下まで送り出した。
「文化祭なんだから、みんな派手な格好してるよ!G組なんてビキニもいるってさ。美園なんて、まだ大人しい方だよ。大丈夫、行ってらっしゃ!」
そうデカイ声で言いやがった。
バカ野郎、デカイ声出すな!
余計人目を引くじゃねーっか!
あたしはチラシで胸元を隠しながら、校舎内を歩いた。
しかしながら、この『お尻ギリギリしか隠れないスカート』の方は、いかんともしがたい。
それにしても・・・
本当にあたしの格好は大人しい方か?
さっきから通り過ぎる人の視線が、あたしをジロジロ見ているような気がしてならないんだが?
学校内で『露出度の高いナース姿』って、かなり目立っているのではないか?
あたしは火照ってくる顔を隠すように俯きながら、指定された玄関前ロビーに急いだ。
途中に階段!
ウソだろ。
この状況、絶対に下から丸見えだよ。
あたしは今度はチラシでスカートの前を押さえながら、階段を早足で降りる。
登ってくる男性客の目が、あたしに集中する。
うう、勘弁してくれぇ~。
これ着て校内回れとか、それだけで罰ゲームどころか拷問レベルだ・・・
やっと玄関前ロビーに到着した。
かなりの人出だ。
早い所、チラシを配り終えて、普段の格好に戻らねば。
親も来るかもしれないのに、こんな格好、死んでも見せられない。
親が泣くよ!
「二階、一年E組、模擬店『アルフヘイム』やってま~す!来て下さ~い」
あたしは無理して声を張り上げ、続々とやって来る来客者に、次々とチラシを手渡しいった。
だがここでやはり問題が・・・
チラシを手渡す時、頭を下げるので少し前かがみになる。
するとあたしの衣装の胸元が、大きく開いてしまうのだ。
チラシを受け取る男は、大抵は視線がそこに行く。
あたしは急いでチラシで胸元を隠すが、
かなり奥まで見えているんじゃないだろうか?
七海の奴は「ニップレス無しでも見えた事はないから大丈夫」と言っていたが・・・
この点も心配だ。
実は胸の無い女子の方が、胸元が開いた服の場合、奥の方まで見えてしまうからだ。
ヘタをすると『胸の先の見えてはならない部分』まで見えてしまう。
胸のある子は、この部分は服に押し付けられるので、まず見える事はない。
七海はあれでもCカップはある。
そしてあたしは・・・止めよう、この話題は。
ともかく、この衣装では七海よりあたしの方が不利、という事だ。
来客の男子の中には、わざわざ話しかけて来て、長い間あたしを見物しようとする輩までいる。
「どこでやっている模擬店?」
「その喫茶店って、病院なの?その格好」
「可愛いね、キミ。ウェイトレスはみんなその格好?」
「異世界風の模擬店なのに、ナース姿なんだ。萌えるね」
うるっせーなぁ、人の身体ジロジロ見てないで、さっさと行けや。
イメクラじゃねーんだよ。
だがコッチは宣伝、客引きという立場だ。
それに渋水理穂のG組には、絶対に負けられない。
「ありがとうございま~す。衣装は違いますけど、異世界風の模擬店です。美味しいですよ、ぜひ来て下さ~い」
あたしは作り笑顔で答える。
中には
「ちょっと写真撮らせて」
という男までいやがった。
いや断るだけ、まだマシだろう。
黙ってスマホを向けてくる野郎どもも多い。
だが「写真撮らせて」と言われたら「嫌だ」とも言えない。
引き攣った笑顔でそれに答える。
・・・中学時代に比べると、あたしも変わったなぁ・・・
この続きは、明日6月30日(日)10時に投稿予定です。




