9、花も恥じらう学園祭!(初日)VOL1
高校生活の一大イベント、学園祭。
その後夜祭ステージで、美園のE組ではガールズバンドを演奏する予定だった。
ところがダブルブッキングにより、ライバル渋水理穂のG組のダンス・パフォーマンスと同じ枠でぶつかってしまった。
互いに意見は衝突し、話はまとまらない。
そこにセブン・シスターズのリーダー雲取麗華が現れ
「それぞれのクラスで行う模擬店で、売上の多い方が後夜祭ステージに出演する」
という勝負をする事に決定した。
絶対に負けたくない美園たち。
渋水のクラスは『アニマル系のメイド喫茶』だと言う。
そして出す料理はクレープなどのガールズ系。
そこで美園達は模擬店のコンセプトは『異世界風』にし、
料理は美園の得意な、唐揚げ、コロッケと、
オニギリ、お好み焼き、焼きそば、タピオカドリンク、小倉餡トーストと、
男子にも女子にもアピールできるボリュームのあるメニューを考えた。
慈牡丹祭の準備は順調に進んだ。
あたしたちのクラスも模擬店『アルフヘイム』の装飾も、順調に進んでいる。
外装に関しては、幸いにして演劇部に古い城壁と石造りの街の大道具があり、それを借りる事が出来た。
おかげでそのために購入する予定だった、ベニヤなどの資材代が大幅に浮いた。
店内はほとんどが絵で誤魔化す。
イラストの上手い男子がいて、『有名なVRMMOゲームの浮遊城』だの『巨大感のある世界樹』だのを書いてくれた。
ウェイトレスは『慈円多学園のメイド風制服』にティアラなどを付けたもの以外に、
七海が宣伝用としてコスプレ仲間が使用しているコスチュームを集めてくれている。
七海にコスプレの趣味があるなんて、あたしも知らなかったが、人生なにが役に立つかわからないものだ。
十月の第一週、木曜日。
明日から三日間が、慈円多学園の文化祭『慈牡丹祭』だ!
ちなみに金曜日は校内だけで、一般公開はなし。
土日が一般公開となる。
日曜は午後5時に閉会となり、午後6時から後夜祭だ。
月曜日・火曜日は後片付けでお休みとなる。
なお売上に関しては、お金を扱う所にはノートPCを利用したPOSレジが配布される。
これは校内LANに接続されているので、売上はほぼリアルタイムに解る、というものだ。
調理班の女子は、初日は全員でオニギリを家で作り、お好み焼きと焼きそばの準備をする。
前日から各自が家で、あたしの書いたレシピと手順書通りにオニギリを作る。
あたしはと言えば、せっせとコロッケと唐揚げを作っていた。
コロッケはかなり手間がかかるため、前日の朝からジャガイモを蒸し、それを潰す。
マッシュしたジャガイモに様々な具を混ぜ、味付けをして、衣をつけて油で揚げる。
唐揚げの方も同時進行で、塩コショウ、または醤油で下味を付けて置く。
それに唐揚げ粉を付けて、やはり油で揚げる。
一度に大量に上げられるように、かなり大きなテンプラ鍋を使った。
ちなみに慈円多学園は1クラス40名で一学年12クラスある。
よって全校生徒は約1440人だ。
この人数から考えて、コロッケなら80個、唐揚げなら200個も作れば、初日は十分だろう。
そして金曜日、『慈牡丹祭』のプレオープン日だ。
十時半から開始となる。今日は内部生のみの公開だ。
「ハイ、宣伝担当はこれを着て!」
七海がドサっと、大型のダンボールを持ち込んで来た。
後ろにも同様の荷物を持たされた男子が2人いる。
「異世界に合わせたからね。エルフやフェアリー系の衣装とアクセサリーを揃えたよ!」
女子の一人がダンボールから衣装を取り出した。
中々手が込んだものだ。
素材も仕立てもしっかりしている。
よく文化祭のハッピに使われる安い素材で、素人が作ったような衣装ではない!
アクセサリーも、かなり豪華で凝ったものだった。
さらにご丁寧に、鞘付きの剣とか、弓矢などの小道具まである。
あたしは「最近のコスプレって、ここまで徹底してやるのか?」と驚いていた。
男子は人気アニメのコスチュームのものが多い。
「これ着るのかよぉ~」と言う奴も居れば、「〇〇〇の衣装はないの?」とノリノリで聞いてくるヤツもいる。
兵太はピーターパンだ。
しかしそのピーターパンの衣装だけは出来が悪く、
『カエルか河童の怪人』にしか見えない。
そんな兵太を見て、あたし達は大笑いした。
「そこまで笑うかよ!」
兵太にしては珍しく怒っていた。
「まあまあ、クラスのため、クラスのためだから」
あたしは笑い涙を堪えながら、そう兵太を慰めた。
今日のあたしは教室内で調理係だ。
下ごしらえをした、焼きそばやお好み焼きを作る。
衣装は残念ながら無しだ。
制服にエプロンを付けた姿で頑張る。
「入ってもいいかな?」
十一時半過ぎ。
そう言って入って来たのは、赤御門凛音様だった。
一緒に三人の仲間を連れている。
教室内に一瞬、黄色い悲鳴が上がった。
「赤御門先輩、来てくれたんですね。ありがとうございます」
店内でウェイターをしていた兵太が気付いて、そう言った。
「ああ、兵太のクラスが模擬店をやるって言っていたからね。どんなのか見せて貰いに来たよ」
後ろにいた赤御門先輩の仲間が笑う。
「でも兵太、その恰好はなんだ?新しいカエルのユルキャラか?」
兵太の顔が不機嫌になる。
「ピーターパンだそうです。見えませんか?」
その仲間の先輩は爆笑した。
「見えねーよ。どう見たってカエルのユルキャラだろう。良く言っても『カエルの精』が精一杯だ」
後ろでそれを聞いていたあたし達も、笑いを堪えるのに必死だ。
赤御門先輩がフォローした。
「緑色のコスチュームだからそう見えるだけだろ。別にそこまで変じゃないよ。ところでオススメは何だ?」
「食べ物は、お好み焼き、焼きそば、オニギリ、コロッケ、唐揚げ。飲み物はコーヒー、お茶、コーラ、オレンジジュースなんかがありますよ。あ、小倉餡トーストとかもありますけど」
「小腹も減ったから、オニギリとコロッケと唐揚げ、それに冷たいお茶を貰おうかな?」
そう言って赤御門様はレジの方、つまりあたしの方に向き直った。
「オニギリとコロッケと唐揚げ、冷たいお茶ですね。ありがとうございま~す。合計で450円になります」
あたしがレジで復唱する。
「あれ?天辺さん?」
そこで赤御門様は、初めてあたしに気が付いたようだ。
「そうか、そう言えば天辺さんは兵太と同じクラスだったんだね。この料理は天辺さんが作ったの?」
「そうですね、メニュー担当なんで試作も兼ねて、今日の唐揚げとコロッケはあたしが作りました」
「そうなんだ。天辺さんの料理なら期待できそうだね。みんな、ここの料理はあの天辺さんが作った料理だってさ」
赤御門様がそう後ろの連中に声をかけてくれた。
「へぇ~、噂の天辺さんの料理ねぇ」
「あの紫光院を落としたって子の料理か。こりゃ食べてみないとな」
買ってくれる理由には引くが、とりあえずみんなコロッケ2個と唐揚げを2種類ずつ買ってくれる。
赤御門様を中心にテーブルに着き、四人はオニギリと一緒に食べ始めた。
「いや、このコロッケ、マジで美味いわ。すっげーホクホクしていて甘みもある」
「この唐揚げもすごく美味いよ。普通のもいいけど、塩コショウの方は〇〇〇ッキー並みだ」
「さすが評判の『弁当女子』だな」
みんな口々に褒めてくれる。
『弁当女子』の称号には不満を感じるが、料理を褒めてくれて悪い気はしない。
「兵太は料理の上手い彼女がいて、幸せだな」
赤御門様がそう兵太に言った。
兵太が複雑な顔をする。
なんだ、そのビミョーな表情は?
素直に喜べ!
「ごちそうさま」
「ありがとうございました!」
食べ終わって教室を出て行こうとする赤御門様一向に、あたしはそう声をかけた。
すると赤御門様だけ、あたしのそばに来て
「本当に美味しかったよ。これならどこに出しても恥ずかしくない。みんなにも言っておくよ」
と言ってくれたのだ!
ファイブ・プリンスNo1の赤御門様の口コミなら、宣伝効果もバツグンのはずだ!
この続きは、本日正午過ぎに投稿予定です。




