9、花も恥じらう学園祭!(決裂)
「だからソッチのミスで、後夜祭ステージ枠がキャンセル扱いになったんじゃないの?」
渋水理穂がイスにふんぞり返るような態度を取り、そう言い放った。
相も変わらずムカつく女だ。
「そんな『ステージ枠使用の確認書』なんて、あたし達は受け取っていない!二週間前に突然そんな確認書を出すなんて、おかしいじゃない!」
七海がそう言い返した。
「だって後夜祭実行委員は『各クラスにちゃんと渡した』って言ってるじゃないの?そうでしょ、太田君」
渋水がテーブルの端に立っている、気の弱そうな男子に声を掛けた。
後夜祭実行委員の一人、太田大介だ。
彼はオドオドした態度で、メガネを指で押しながら答えた。
「は、はい。全てのクラスで後夜祭のステージに出演する人に渡しました・・・たぶん」
渋水の横にいた女子三人もうなずいた。
ここは慈牡丹祭運営委員の会議室。
そこに七海、あたし、関本美香、大場薫の四人がいた。
テーブルの反対側には、渋水理穂とG組の女子三人だ。
昼間の話の後、七海が中心となって、すぐに後夜祭実行委員にクレームを入れた。
しかし既にG組も後夜祭の同じ時間枠を取っているという事で、準備していると言うのだ。
さっそく、あたし達E組と渋水のG組とで話し合う事になった。
今はその話し合いの最中だ。
が、しかし、話は最初から平行線だった。
あたし達E組のガールズバンドは、文化祭二週間前が期限の『ステージ枠使用の確認書』を提出していないため、キャンセル扱いになっていたと言うのだ。
そしてキャンセル待ちとなっていた、G組のダンス・パフォーマンスが繰り上げ当選となった、と言う事らしい。
だがガールズバンドのメンバーは、そんな資料は断じて受け取っていないと言う。
これは何か裏がありそうだ。
「ともかく、ステージ使用確認書の件は、生徒会のHPにも掲載されていたんだし、その点から見てもE組の確認不足は明らかよね。わたしたちに落ち度は無いわ」
渋水がそう言うと、七海と関本・大場はぐっと黙り込んだ。
あたしは渋水を睨んだ。
期末試験前に、そんなサイトを一々確認するか?
それを求めるのは酷ってもんだ。
「これで文句ないでしょ?講堂のステージはわたし達が使うわ。E組は空き教室でバンドをやればいいんじゃないの?」
そう言って渋水理穂は立ち上がろうとした。
「待って」
あたしがそこで口を開く。
「後夜祭実行委員の太田君に聞きたい。太田君はE組の誰にステージ使用確認書を渡したの?」
急に矛先が自分に向いた太田君は、口をパクパクさせた。
「そ、それは・・・名前がわからないけど、E組の女子で・・・」
「どんな子?髪型は?身長は?渡した相手の特徴を教えて貰えない?それといつ、何日の何時頃に渡したのか?」
「そ、そ、そ、それは・・・覚えてない・・・」
太田君の目が、チラッと渋水の方に動いた。
あたしはその目の動きを見逃さなかった。
「肝心な事だから、もっとしっかり答えてくれない?誰に、いつ、どこで渡したのか?」
渋水が机を叩いて立ち上がった。
「ちょっと、なんで彼を疑うようなことを言うのよ!」
あたしは固い表情を渋水に向ける。
「事実関係を明らかにしたいのよ。誰に責任があるのか。このままじゃあたし達も引き下がれない」
「そんなの、E組内部の問題でしょ!わたしたちG組も、実行委員も関係ないじゃない!」
「その関係ないかどうか、どこに一番の問題があったのか、それを明らかにすべきでしょ。こんな事がこの先も続くとしたら、一般生徒は安心して委員に任せられないからね」
あたしの言葉を聞いて、太田君は顔を真っ青に、そして渋水は顔を真っ赤にした。
その時だ。ドアが音を立てて開いた。
入って来たのは・・・雲取麗華だ。
今日は一人らしい。
「なにをやっているのかと思えば・・・でも大体の話は聞こえたわ」
彼女はクスクスと笑いながら言った。
「天辺さん、あなたの言う事も一理あるわね。確かに、この不祥事の責任がどこにあるのか・・・」
そして次は渋水を見る。
「渋水さん、あなたの言う事も正しいわ。実行委員が確認書を渡したと言っているし、生徒会のサイトにもちゃんと掲示されている。その点は間違いなくE組のミス。手順に従ったG組に落ち度はない・・・」
渋水は何かを言おうとして、そして止めた。
「このままじゃ埒が明かないでしょ。この解決法は私が提案するわ。確かE組もG組もクラスの出し物は模擬店だったわよね?そこで『慈牡丹祭』3日間で、どちらのクラスがより多くの売上を上げられるか?それで決着を着けたらどうかしら?買った方のクラスが、後夜祭の講堂ステージ枠を獲得する。どう?」
雲取麗華は、こう宣言した。
「くっそ~、渋水のヤロ~」
話し合いからの帰り、思わずあたしの口から罵声が漏れた。
「あそこで雲取麗華が出て来たんじゃね~、さすがに逆らえないか」
七海がそう言う。
う~む、「雲取―渋水ライン」が出来ていて、それによる策略かと思ったが、そう言い切れる証拠も無い。
「でも、どうするの?模擬店の売上対決だなんて・・・何かいいアイディアはある?」
関本美香が心配そうにそう聞いた。
教室の前に着いたあたしは、ガラッとドアを開きながら言った。
「今はない。だからみんなでこれから考えるしかない」
「あたし、絶対にアイツラに負けたくないよ!」
そう言ったのは大場薫だ。
その気持ちはあたしも同じだ。
相手があの渋水理穂とあっては、今度こそギャフンと言わせたい。
だが七海の方も、あたしと同じく「夏休みバイトでのパン売り競争」を思い出したらしい。
「でも勝ち目あるかな?相手はあの渋水理穂だよ。パン屋での勝負と同じく、どんな手を使ってくるか・・・」
クラスには、まだ全員が残っていた。
「まずは情報だ!G組の模擬店はどんなコンセプトで、どんなメニューを出そうとしているのか、それを調べる!」
あたしがそう言うと、クラス中のみんなの目があたしに集まった。
「それに対して、あたし達のメニューも再考する。基本は今のままでいいと思うけど、提供する量や値段をみんなで検討する!」
そしてクラスの隅っこに固まっている男子達にも声を掛けた。
「男子は模擬店の店造りのコンセプトを考えて!慈円多学園の文化祭には、他校の女子だけでなく、男子の来客も多い!その中で男子の目も女子の目も引き付けるように、店造りをして欲しいの!」
彼らは目を白黒させていた。
まったく、覇気がない奴らだ。
「宣伝・広告ならあたしに任せてよ!チラシ造りから、宣伝員、ウェイトレス、ウェイターの衣装まで、バッチリなものを作ってみせるから!」
七海がそう言った。
あたしはうなずく。
流石に新聞部兼ネット新聞サークル部員、頼りになる!
男子達とは大違いだ。
「やろう、絶対にG組には負けられない!」
いつの間にか、女子は一丸となって声を揚げていた。
その視界の片隅で、兵太が唖然としている様子が見えた。
この続きは、6月27日(木)7時過ぎに投稿予定です。




