9、花も恥じらう学園祭!(発端)
ヤッター。やっと暗黒の試験期間も終わった!
紫光院先輩のお陰で、鬼門だった数学・物理・化学の理系三兄弟も、何とか赤点を取らずに済みそうだ。
そして期末試験が終わった後には、二日間程度の試験休みがある。
とは言うものの、この期間は学校に行かざるを得ない。
その理由は「一週間後には慈円多学園の文化祭『慈牡丹祭』がある」ためだ。
慈円多学園の校章は牡丹の花だ。
学園祭の名前は、そこから来ている。
非常に大きな学園祭で、高校としては都内でも一二、いや日本全体でもベスト3に入る盛大さだろう。
芸能人や有名人が呼ばれる事もあるが、何と言っても生徒達自身の手で作り上げるイベントが凄い。
バンドや演劇、自主製作映画からマジックやダンス、マーチングバンド、イングリッシュ・ディベートから今はやりのeスポーツなど、様々な出し物が行われる。
各クラスでは模擬店も盛んだ。
特に一年生は準備期間の問題で、自主製作映画や演劇などは難しい。
よって必然的に模擬店になる場合が多い。
また文化祭の後、慈円多学園の生徒だけで開かれる後夜祭も楽しみの一つだ。
ここでは全校生徒と来客による『男女の人気投票』が行われるのだ。
これにより『次期セブン・シスターズ』『次期ファイブ・プリンス』の候補となる人たちが選ばれる。
彼らは『ネオ・ジェネレーションズ』(通称:ネオジェネ)と呼ばれている。
来年の三月、つまり今の三年生が卒業すると同時に、だいたいは彼らの中からセブン・シスターズやファイブ・プリンス、
またそれ以外に独自の人気を保っているインデペンデンツのメンバーが選ばれるのだ。
とは言っても、一般学生のあたしにとっては、この中に参加することはない。
見て楽しむのみだ。
雑誌の「抱かれたい男ランキング」と同じようなものだ。
もっとも渋水理穂みたいな奴は、この手のイベントに果敢に行動するんだろうな。
何せランキング上位は、大学のミスコン並みに一般週刊誌にまで掲載されるから。
ちなみにあたしはさっき「この中に参加することはない」と言ったが、この人気投票は、全生徒強制参加だ。
全員が胸に二次元バーコードのついた札を付けており、来場者はそのバーコードをスマホで読み取れる。
そしてその人に点数を0~5までの範囲で、投票できるのだ。
胸のバーコードが読み取れない、またはスマホを持っていない場合は、
校内に数か所設置されているパソコンで検索して投票も可能だ。
よって慈円多学園の生徒なら、誰もが投票者であると同時に、評価対象であるとも言える。
あたしが言った「この中に参加することはない」の意味は、
「あたしがネオ・ジェネレーション争いに加われる可能性はない!」と言う意味だ。
文句あっか?
試験が終わった翌日、つまり試験休みの第一日目。
あたし達のクラスは模擬店をやる事に決まっていたが、緊急HRを開き、その役割分担を決めていた。
既にこのクラスでも『あたしの料理上手』という評価は定着している。
模擬店のメニューは、料理としては焼きそばとお好み焼きは決まっていた。
これ以外にコロッケと唐揚げを出したいのだが、この二つは油で揚げるため、教室内では調理できない。
よって家で作って持って来る事になった。
模擬店では温めておくのみだ。
その調理担当に選ばれたのが、あたしだった。
あたしはコロッケも唐揚げも得意料理だ。
(きっと唐揚げに不得意なんて、あまり無いと思うが)
唐揚げだけで「普通の唐揚げ」「塩コショウ唐揚げ」「醤油と豆板醤の唐揚げ」「甘酢唐揚げ」の四種類が得意だ。
これらを模擬店で提供する。
コロッケの方は、原材料費を抑えるため「普通のコロッケ」「カニカマ・クリームコロッケ」「カボチャのコロッケ」の三種類にする。
揚げたてのコロッケはすごく美味しい。
何もつけなくても、そのままパクリと行くだけで、ジャガイモ本来の甘さとホクホクさが味わえる。
逆にソースやマヨネーズや醤油なんて邪魔なくらいだ。
カニカマ・クリームコロッケは、カニではなくカニカマを使っている。
そしてクリームコロッケと言いつつ、クリームはちょっとしか使っていない。
作り置きな上、手に持って食べる事を考えると、クリームは多くしない方が食べやすいし、ジャガイモの甘さを感じ取れる。
ちなみに発案者もあたしなので、あたしが家で作って持ってくる事に決まった。
打合せもだいぶ進んだ頃だ。
「ちょっと、みんな聞いて!後夜祭でとんでもない事が起きたの!」
同じクラスの関本美香、大場薫の二人が、勢い込んで教室に飛び込んで来た。
議長を務めていた如月七海が驚いて振り返る。
「どうしたのよ、大声上げて入って来て」
「どうもこうも無いわよ!あたし達が予定していた後夜祭のステージに、G組の奴らがねじ込んで来たのよ!」
後夜祭では、1チーム10分の枠で、様々なイベントが開催される。
ウチのクラスでは、この関本美香、大場薫、本城マキ、橋本幸恵、根本恵果の五人がガールズバンドを披露する予定だった。
「そのあたし達のバンドを申し込んだ枠に、G組がダンス・パフォーマンスを申し込んでいたって言うの!つまりダブル・ブッキングよ!」
「ウソでしょ?」
七海はその場で自分のスマホを取り出し、どこかに電話をかけていた。
相手はどうやら後夜祭実行委員らしい。
ちなみに如月七海は新聞部だ。
同時に新聞サークルにも入っていて、学校内でかなり顔が利く。
そしてあたしの最も仲のいい友人でもある。
(まあ親友と呼んで差し支えないだろう)
電話を切った七海が言った。
「どうやら本当みたいね。ウチとG組がダブル・ブッキングしているみたい」
「しかも実行委員が言うには『ガールズバンドは出場者が五人しかいないが、ダンス・パフォーマンスは二十人もの生徒が参加する。公共性という観点から見れば、ダンス・パフォーマンスの方がふさわしい』とか言ってるの」
大場が悔しさを押さえきれない調子で言った。
「そんな・・・」
七海も絶句する。
「こんなのってないよぉ。あたし達、後夜祭に向けて、スタジオ借りて一生懸命練習して来たのに・・・」
関本美香も大場薫も涙目だ。
教室内にいた本城マキ、橋本幸恵、根本恵果の三人も、既に半泣き状態だ。
・・・本当に手違いによるダブル・ブッキングなのか・・・
あたしは少し疑問に思った。
後夜祭のステージ使用枠の希望は、夏休み前には提出していたはずだ。
それが一週間前になって、ダブル・ブッキングが判る?
ちょっとおかしくないか?
そしてG組と言えば、あの渋水理穂がいるクラスだ。
渋水理穂は、セブン・シスターズのトップ、雲取麗華と繋がっている。
そして雲取麗華は『真・生徒会』のリーダーでもある。
実質上の学園の支配者だ。
あたしは七海と関本美香・大場薫の二人に言った。
「今更ダブル・ブッキングが判るなんて、何かおかしい。後夜祭実行委員に直接状況を確認した方がいい」
この続きは、明日7月26日(水)7時過ぎに投稿します。




