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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
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8、助けて!期末試験(タイトルトラック)

 その日、あたしは学校の図書館にある自習室で勉強していた。

一緒にいるのは兵太・・・

ではなく、ファイブ・プリンスNo3の紫光院涼(しこういんりょう)様だ。

もちろん浮気じゃない。

ここに至る経緯はちゃんとあるのだ。


 その前日も、あたしは学校の自習室で試験勉強をしていた。

第二外国語の勉強をしていたのだが、語学の辞書などは学校の図書館の方が揃っている。

そこで必死こいてドイツ語のテキストを訳していた時、

やはり試験勉強にやって来た紫光院様とバッタリ出合ったのだ。


「天辺じゃないか。久しぶりだな。元気にしているか?」


紫光院様はそう言って、あたしに話しかけて来てくれた。

大変申し訳ないのだが、兵太と付き合う事になってから、

紫光院様には事情を話してお弁当を作っていない。

だから7月からこっち、紫光院様と話す機会も無かった。


「こんにちは。お久しぶりです、紫光院先輩」


あたしも笑顔で挨拶を返した。

学園中の女子から『氷の剣士』と言われる紫光院様だが、あたしには笑顔で接してくれる。

もっとも最近は「実は紫光院様は優しい」という噂が広まり、

剣道部女子を中心に人気が再上昇中だ。


「そうか、天辺も第二外国語はドイツ語か」


あたしのテキストを除いて、紫光院様はそう言った。


「はい、でも全然わからなくって。英語と似ていると思って取ったんですけど」


「半端に似ているから、余計にわかりにくいかもな。名詞にも男性名詞・女性名詞・中性名詞がある上、格変化も四つあるから」


「第二外国語も大変なんですが、もっとピンチなのが数学、物理、化学なんです。こっちは第二外国語ほど、試験が甘くないって言いますし」


 慈円多学園では、第二外国語は割と評価が甘いと言われている。

しかしそれ以外の入試に使われる科目は、ガッチリ厳しい。

赤点は四十点だ。

そしてあたしは、その赤点を取りそうなラインにいる。

(兵太もだ)


 ちょっと考えたような顔をして、紫光院様はこう言った。


「明日もここに来るなら、解らない問題があれば教えてあげるよ」


「本当ですか?」


あたしは飛びついた。

慈円多学園理系トップで東大理Ⅲも確実と言われる紫光院様に、数学を見て貰えるなんて願っても無い!


 だがあたしはここでハッとなった。

兵太の存在だ。

さすがに兵太に隠れて、紫光院様に勉強を見てもらうのは気が引けた。

いくらあたしに「やましい所はない!」と言っても、

学園でも有数のイケメン先輩に勉強を見てもらうと言えば、

兵太も気分が悪いだろう。

かっては「密かに狙っていた」訳だし。


あたしは少し言いにくそうに口を開いた。


「あのう、もう一人一緒でもいいですか?幼馴染の男子なんですけど」


 そりゃバツが悪いに決まっている。

「密かに狙っていたイケメン先輩」に対して、

「今の彼氏」については話すのだ。

言いにくいこと、この上ない。

おそらく、あたしは赤面していただろう。


だが紫光院様は、何の躊躇(ためら)いもなく、明るく答えてくれた。


「ああ、いいよ。ぜひ一緒に連れてきなよ。俺でわかる所だったら、答えてあげるよ。俺は明日は十時には自習室に来ているから」

あたしは午後1時に約束をして、その日は別れた。


 あたしはその夜、さっそく兵太に連絡をした。

だが兵太の返事は「俺はいい」と言う事だった。


「なんで?せっかく理系トップの紫光院先輩が、解らない所を教えてくれるって言うんだよ。こんなチャンス、滅多にないじゃん」


あたしはそう言ったが、兵太は頑なに「俺は行かない」と言い張った。


 もしかして兵太の奴、怒ってるのかなぁ。

アイツ、意外とヤキモチ焼きなんだなぁ。

でもあたしは、ちゃんと「兵太も一緒に」って、わざわざ言ったのに。


 以上のような状況で、あたしは今、紫光院様に数学と物理と化学を教えてもらっている。

この問題はそのまた前日、兵太と図書館で勉強していた時に、二人揃って解らなかった問題だ。


「『x^2-xy-6y^2+2x+9y-3』の因数分解か。これは『x』だけで考えてみるんだよ」


「『x^2-(y-2)x-(6y^2+9y+3)』と言う形にするだろ。すると『-(6y^2+9y+3)』は『-(3y+3)(2y+1)』という形に因数分解できる。これで足して『-(y-2)』になるものを探せばいいんだ」


「『π/4≦θ≦2/3πの時、y=cosθ^2-cosθ+9/4でのyの取り得る値』と言うのは、『cosθ=x』と置けばいいんだ。するとxの範囲は『-1/2≦x≦1/√2』となる。この範囲のxで『y=x^2-x+9/4』の二次関数のyの範囲を求めればいい」


さっすがぁ~、紫光院様!

彼の手にかかると、あたしと兵太が二人がかりでも解らなかった問題が、

スラスラと解答でも見ているかのように解いていく。

ぶっちゃけ、先生が教えるより解りやすい。


「さすがですね、紫光院先輩!」


あたしが心から感心してそう言うと、紫光院様は呆れ顔で


「いや、このレベルが解けないんじゃ、天辺がマズイだろ。俺が凄いんじゃなくて」


と言われてしまった。

やぶへびだった、テヘッ。


 ああ、それにしても紫光院様のそばって、なんかいい匂いがする。

別にコロンとか男性用化粧品の匂いじゃない。

何と言ったらいいのか

『若い男性特有のキリッとした匂い』

とでも言うのか。

兵太のガキっぽい汗臭い匂いとは違う。

もちろん父親の体臭なんて論外だ。

(それでもウチの父親は加齢臭は少ない方らしい)

石鹸と共に香る男らしい匂い、とでも言えばいいのか?

あたしって、自分で知らなかったけど、匂いフェチなのかな。


 その後、物理と化学も教えてもらった。

ついでに、よく試験に出そうな問題をピックアップしてもらい、それを解いておくように言われる。

紫光院先輩も受験勉強のために自習室に来ているので、あまり時間を取らせては悪い。

一時間半ほど集中的に教えてもらい、後は自分で頑張ることにする。


「じゃ、また解らない所があったら聞いてくれ。頑張れよ」


 紫光院様はそう言って、あたしの側から離れていった。

あたしはしばらく『最上級のイケメン先輩との甘美な雰囲気』の余韻に浸っていた。

ハッ、いけないイケナイ。

あたしのこういう点が、浮ついている所だ。

試験勉強に立ち返らないと。


 あたしは気分を入れ替えるため、トイレに向かう。

トイレの窓から外を見ると、いつの間にか外は雨になっていた。

かなりの降り方だ。

まあ傘は置き傘があるから、大丈夫だけど。


 女子トイレから出た時、一瞬だが兵太らしき人影が、廊下の向こうを横切ったように見えた。

ハテ、あいつは今日は図書館に来ない、と言っていたが。

気のせいだろうか?

この続きは、6月23日(日)10時頃に投稿予定です。

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