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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
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6、女子陸上部と海に行く(その4)

セブン・シスターズの一人、咲藤ミランの誘いにより、

女子陸上部合宿の最終日「海水浴」だけ参加する事にした美園。

実は狙いは女子陸上部と同じ場所で合宿をしている、男子バスケ部の合宿だった。


しかしそこで幼馴染であり、最近交際を始めた中上兵太と、

マネージャーの川上純子が仲良くしていた事を知ってしまう。


兵太のために作って来たお弁当を捨て、兵太に会わずに帰ろうとする美園。

その彼女にナンパ二人組が声をかけて来た。

ちょうどそのタイミングを兵太に見られてしまい、思わず口論になってしまう。

・・・また、やっちゃった・・・


後悔と一緒に、やりきれなさが襲ってくる。

やっぱり、兵太の合宿に来ない方が良かったのか?

ここではあたしは部外者で闖入者なのか?

東京で大人しく、兵太の帰りを待っている方が、平和だったかもしれない。


 しばらく一人になりたかった。

横を見ると、松林の切れ目に海が見えた。

人気は無さそうだ。


あたしは松林の小道に入った。

二十メートルも進むと海岸に出た。

きれいな砂浜だが、人は誰もいない。

九十九里浜は砂浜は広いが、遊泳禁止の所が多く、海水浴場を離れれば人はほとんどいない。


 一人になったら涙が溢れてきた。

こんな、喧嘩するために、ここに来たんじゃないのに・・・


 少し小高く盛り上がっている所があり、そこだけがクローバーが生い茂っていた。

しばらくそこで海でも見て、気分を落ち着けよう。

丘に登り切ったところで、その向こうに人がいる事に気づいた。

相手もあたしに気づく。

咲藤ミランだった。


「咲藤先輩」


あたしは慌てて、目の周りの涙を拭った。


「天辺か・・・」


そう言って、彼女も軽く目の下を指で拭った。

あたしほどじゃないが、彼女の目も少しピンクっぽい気がする。


「どうしたんだ。こんな所へ?」


「先輩こそ?」


「あたしは、別に・・・って事はないか。もしかして、あたし達、一緒か?」


「わからないですけど・・・もしかしたら、一緒の気分かもしれません」


「ここに座れよ」


咲藤ミランは自分の横を指さした。

あたしは彼女の隣に座る。


「昼飯は食ったか?宿にはあたし達の分は無いはずだけど?」


「いえ、まだです」


「あたしもまだだ。良かったら一緒に食わないか?」


そう言って、反対側に置いてあったクーラーボックスを開く。

咲藤ミランのお弁当は、主食は俵型おにぎりと太巻き寿司。

おかずはウインナー、卵焼き、ナポリタン、ミートボール、コーンスローサラダ、ブロッコリーだ。


「天辺が作るお弁当に比べれば、見劣りするだろ?あたしは料理はそれほど得意じゃないんだ」


彼女は苦笑しながら、そう言った。


「いつも届けているお弁当は?」


あたしがそう聞くと


「普段はウチのお手伝いさんが作ってる。あたしが自分で作るのは、今日みたいに特別な時だけだよ」


と自嘲気味に答えた。


・・・特別な日、か・・・


 あたしは太巻き寿司を一つ取り、口に入れた。

確かに太巻きにしてはご飯を圧縮し過ぎだ。

口の中で適度にほぐれない。

しかし、これも彼女が一生懸命に手作りしたんだな、という努力が感じられた。

ブロッコリーに箸を伸ばす。

軽く塩茹でしているようだ。

茹で具合も塩加減もちょうど良かった。

ブロッコリーは茹で過ぎると、ボロボロと崩れる上、歯ざわりがグチャっとする。

シンプルなものほど、丁寧さが必要だ。

次に俵型おにぎりに手を伸ばした。

中には鮭とタラコをまぶしてあるようだ。美味しい。


「美味しいですよ、このお弁当」


「ありがとう。料理上手で有名な天辺にそう言って貰えるとウレシイな。そう言えば、天辺が持ってきたお弁当はどうしたんだ?」


「捨ててきました」


「ケンカでもしたのか?」


「ええ、まあ」


「でもケンカできるだけ、まだいいよ。あたしは今年も結局、何もできなかった。不甲斐ないな」


咲藤ミランほどの完璧な美女でも、こんな風に思うのか。

女子が野獣になるって、けっこう難しいんだな。


「まだチャンスはありますよ。卒業まで半年以上あるじゃないですか」


「そうか、そうだよな。まだ頑張ってみるべきか」


そう言った後、しばらく咲藤ミランは黙っていた。

そして


「天辺、悪いけど今度あたしに、お弁当の作り方を教えてくれないか?」


と頼んできた。


「あたしが、ですか?」


「そうだ。天辺の弁当はスゴイって、みんな言っている。相手の食べたいものが解っているようだって。凛音だけじゃない、あの紫光院だって褒めているくらいなんだ。あたし達セブン・シスターズの中でも、お弁当作りでは天辺に勝てないって」


いや、それは褒めすぎだ。

運が良かった点もあるし、いい情報がたまたま集まったに過ぎない。


「そんなに買いかぶられても・・・」


「頼む。高校生活が終わるまでに、凛音の記憶に残るような弁当を、自分の手で作りたいんだ」


咲藤ミランの目は真剣だった。


・・・そんな顔をされちゃ、断れないよな・・・


「わかりました。期待に沿えるかどうかは解らないですけど、二学期になって『お弁当お届けレース』が再開したら、お手伝いします」


「ありがとう、天辺」


咲藤ミランはそう言って頭を下げた後、すっくと立ち上がった。


「気分転換だ。陸上部のみんなが来るまで、傷心の女二人、海に入らないか?」


「いいですね。あたしも今、海に飛び込みたい気分だったんです!」


咲藤ミランは着ていたラッシュガードを、あたしはラッシュガードをホットパンツを、その場に脱ぎ捨てた。

周囲に人がいない夏の海に、あたしと彼女は飛び込んで行った。


 途中からあたし達を探しに来た女子陸上部の部員に見つかり、全員が合流して遊びまくる。

管理されている海水浴場ではないので、泳ぎはしない。

ただ人がいない砂浜は、無人島にでも来たような気分にさせてくれ、

あたし達は女子だけで思いっきりはしゃぎまくる事が出来た。


 夕方4時過ぎ、あたし達は旅館に戻った。

入浴して塩気を洗い流し、夕食を取る。

 特別に旅館の好意で、咲藤ミランとあたしの夕食も用意してくれた。

夕食のメニューは、ごはん、納豆、卵、アジのひらき、刺身、ほうれん草の和え物、ネギと油揚げの味噌汁、というどこの旅館でもありそうなメニューだ。


 夕食が終わると「みんなで海で花火をやる」と副部長の斉藤カノンが言う。


「今回はちょっと変わった趣向にしてみました。みんな、気を抜かないでね」


その時、彼女はチラッと咲藤ミランの方を見た。

だが咲藤の方は、特にそれに反応していない。

あたしは若干の疑問を感じながら、みんなと一緒に暗くなった海に向かう。


 夜の海って、恐いくらい真っ暗だ。

街灯なども無いため、周囲はほとんど見えない。

 誰もいない、と思っていたら浜には先客がいた。

話し声から男の集団である事がわかる。

地元のヤンキーか何かだろうか?


・・・嫌だな、別の場所に移動した方がいいのでは?・・・


あたしがそう考えていると、みんなを先導している副部長の斉藤カノンは、ズンズンと男の集団の方に進んで行く。


「おお、来た来た。コッチ、コッチだ!」


男の集団の一人が、あたし達に向かって呼びかける。

聞き覚えのある声だ。

この声は・・・あまりいい思い出ではないが。


「お待たせ!もう準備は出来た?」


斉藤カノンがそう答える。


「いつでも始められるよ。コッチは全員揃っている」


声の主は、あの『おしゃべり先輩』こと、バスケ部の水上さんだ。

そこにいたのは慈円多学園バスケ部の男子だった。

この続きは6月19日(水)7時頃、投稿予定です。

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