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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
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5、花火大会の途中で(エピソード4)(後編)

渋水理穂は、自分の出演する地下コンサートの大口客である大学生3人と一緒に、花火大会に来ていた。

だがその大学生三人は、強引に渋水をホテルに連れこもうとする。

そこに現れて渋水を助けたのは、同じ慈円多学園の男子生徒だった。

 二人はウインズ浅草の前まで走り続けた。

少年が後ろを振り返って言う。


「ここまで来れば、大丈夫かな」


渋水は粗い息の中、彼を見上げた。


「あなた、喧嘩に自信があるの?」


「なんで?」


「あんな大学生三人の中に、一人で飛び込んで来たから・・・」


少年はそこで初めて、渋水に視線を向けた。


「いや、俺は喧嘩はほとんどした事がないよ。少なくとも中学に入ってからは、一度もない」


渋水はそれを聞いて驚いた。

確かに、この少年は身体も大きくはない。

とても大学生三人を相手に出来るとは思えない。

しかし、それでも彼は自分を助けに飛び込んで来たのだ。


「あ、ありがと。おかげで助かったわ・・・」


渋水は少年に向かって、素直に感謝の気持ちを口にした。

彼女にとっては、珍しいことだ。

だが少年は渋水を一瞥すると、こう言ったのだ。


「あんな危ない連中と一緒にいるなんて、どうかしてるよ。危ない目に合うのも、自業自得じゃないか?」


渋水はカッとなった。


・・・コイツ、わたしを誰だと・・・


「あなた、わたしの事を知ってるの?」


「知ってるよ。渋水さんだろ。有名だから」


だが彼は、渋水に関心がないかのように答えた。


・・・なんて生意気なヤツ・・・


「俺はみんなの所に戻るけど、あんたはどうする?」


それを聞いて、さらに渋水のプライドが傷ついた。

普通の男なら、渋水と一緒になるチャンスを得たら、何かと口実を付けて

「しばらく一緒にいよう」と言ってくるものだ。

だがこの男は「あんたはどうする」などと聞いてくる。


「みんなって、あなたは誰と一緒に来たの?」


渋水は一応そう聞いてみた。


「バスケ部のみんなと。あと幼馴染が一緒にいる」


 バスケ部?

渋水の脳裏に素早い計算が走った。

バスケ部の連中がいるなら、あの『慈円多学園No1男子・赤御門凛音』も一緒にいるかもしれない。

そうとなれば、赤御門凛音との距離を縮める大チャンスだ!

だがそこでハッとなった。


この少年は、渋水が『女とヤル事しか考えてない頭の悪そうな男三人』と一緒にいる所を見ている。

少年と一緒にバスケ部の連中の所に行ったら、彼が何かの拍子にその事を口にするかもしれない。

それが赤御門凛音の耳に入れば、渋水の『魅力的だが、可愛く清純なイメージ』に傷が付く。


「けっこうよ。わたしはもう帰るから」


渋水はそう言うと、駅の方に向かって歩き出した。


「わかった。気をつけて」


驚くべきことに、少年はそう言うと、自分とは別の方向に歩き出したのだ。

渋水には信じられない事だった。

彼女が何と言おうと、男は「じゃあ送っていくよ」と言うものだと思っていたからだ。


『どんな男でも、少しでも自分と長く一緒にいようとする』


それが渋水にとっての常識だったのだ。


・・・この男、何様のつもり?・・・


ムカついたが、急いで取って返して少年の方に向かう。


「ちょっと待って」


少年は意外そうに振り返った。


「なに?」


「やっぱり、駅まで送っていって!さっきの連中に会ったら怖いから・・・」


そう言って顔が赤くなるのを感じた。

恥ずかしいのか、悔しいのか、自分でも判らなかった。

少年は一瞬、怪訝な顔をしたが、「わかった」と言うと、

渋水と一緒に駅に向かって歩き出した。


 渋水は一緒に歩きながら、横にいる少年を盗み見た。

身長はそんなに高くない。

だが顔立ちは可愛い感じで整っている。

少年っぽい純情さと、脆いような危うさのある男子だった。

慈円多学園に通っているのだから、頭がいい事は折り紙付きだ。

それ以外にも、何らかの長所があるのだろう。

何しろ慈円多学園は、勉強以外に「イケメン、金持ち、スポーツ万能、天才、由緒ある家柄」の二つが揃っていなければ、男子は入学できないのだから。


・・・それに、優しそうだ・・・


渋水はそう思った。

今まで自分の周囲にはいなかったタイプの男子だと。

彼女はいるのだろうか?と思わず考える。

だが花火大会にクラブの仲間と来るくらいだ。

おそらく彼女なんかはいないのだろう。


 ふと周囲を見てみる。

花火大会だけあって、カップルが多い。


・・・自分達は、周囲にどう見えているんだろう・・・


ついそんな事を考えてしまった。

少年はどっからどう見ても、ただの高校生だ。

そんな彼と一緒にいる自分は、ごく普通の女子校生に見えるのだろうか?

渋水は中学時代から、常に年上の男性にエスコートされていた。

考えてみると、同じ年代の男子とこうして二人で歩くのは、久しぶりかもしれない

なぜか恥ずかしいような気がしたが、嫌な感じではない。


「あなた、クラスはどこ?」


渋水がそう聞くと、少年は前を向いたまま「E組」とだけ答えた。

それを聞いて渋水は一気に機嫌が悪くなった。


・・・一年E組、あの女、天辺美園のいるクラスだ・・・


 渋水は本当に天辺美園が嫌いだった。

渋水から見ると、天辺美園は

「何の努力もしていないクセに、男の回りをうろついて、男の関心を引く事だけが上手い女子」

に思えるのだ。


渋水には、なぜ天辺美園が『赤御門凛音や紫光院涼のような特上男子』に相手にされるのか、理解できなかった。

顔はまあ可愛い方だろうが、渋水のように誰もが認める美少女ではない。

髪の毛だってただの地毛の黒髪で、大して髪型も気を使ってないように思える。

身体に関しては貧相なものだ。胸はBカップも無いだろう。

少なくとも、渋水の相手になるような女ではないはずだ。


 渋水は少なくとも、男子の目を惹き付けるために、様々な努力をしている。

髪の毛だって生え際に黒い部分が残らないように、常に金髪に染めている。

美容院にだって二週間に一回は行っている。それだけでも、かなりの金がかかる。

服装だって、可愛く見えるように工夫をしている。

ネットに自撮り動画をアップするのだって、撮影から動画編集まで、大変な時間と労力をかけている。

ツイッターやインスタグラムもフォロワー数を増やすために、常に気の利いたネタを考えていなければならない。

しかもこれらの事だって、渋水にはちゃんと目的があってやっている事なのだ。

ただの『目立ちたいだけの女』ではない。

それなのに天辺美園みたいな普通女子が、自分と対等に張り合おうとしている事が、心底許せないのだ。

自分のやっている努力を、全てあざ笑われているように感じてしまう。


 やがて二人は、都営浅草線の駅に着く。

少年は渋水理穂を改札まで見送ってくれた。


「じゃ、俺はここで」


立ち去ろうとする彼に、渋水は声をかける。


「待って。あなた、名前は?」


少年は振り返ると、ちょっと意外そうな表情で答えた。


「中上兵太」

この続きは、明日6月15日(土)10時頃、投稿予定です。

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