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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第一章 学園一のイケメン御曹司をGETせよ!乙女の疾走編
8/116

4、この素晴らしい弁当をあの人に!(後編)

 朝4時45分。

暴力的なまでの目覚まし音に、心底怒りを覚えながら、身体を布団から引き剥がす。


手早く歯と顔だけ洗って、誰もいないキッチンに立つ。


 最初に鍋に水と煮干しを入れ、火にかける。

これは味噌汁用だ。冷たい弁当には暖かい味噌汁が最高の相性のはず。


フライパンにサラダ油をひくと、鶏もも肉を皮を下にして中火で焼く。

肉は前夜の内に厚さを1センチ以下に均して、塩コショウで下味をつけてある。

皮側がパリッと焼けたのを確認したら、ひっくり返して弱火でじっくり焼く。


ある程度焼けたらフライパンから取り出し、鶏もも肉を肉の繊維を断ち切るように5ミリ間隔で切っていく。

こうして長さ3センチ幅5ミリ厚さ1センチに切り分けられた鶏肉を、もう一度フライパンに入れてさっと熱を通す。


最後は焼き鳥のタレに絡めて、しばらく放置する。

焼き鳥のタレも、醤油と砂糖と味醂と日本酒から作った自家製だ。

隠し味として、生姜を擦って絞った汁と鷹の爪を入れてある。


この合間に、沸騰直前の状態でダシを取った鍋に、手早く味噌を溶かす。

味噌はここの所は、千葉県の”佐倉のお味噌”を使っている。

千葉に住む親戚の叔父さんが送ってくれたのだが、これが美味しいのだ。

味噌汁の具は、おかずが肉中心のため、ワカメとネギだ。


豚の角煮の方は、既に昨夜の内に作ってある。

こちらは醤油と砂糖と日本酒とめんつゆで2時間煮込んだものだ。

下味には水で薄めた豆板醤を塗っておき、食べた時にピリカラを感じるようにしてある。


この角煮は豚バラ肉の中でも、脂肪・脂肪混じりの肉・薄い脂肪・肉の比率が2:4:1:3の比率になっている部分だけを、お弁当に入れる。

この比率が冷たいお弁当に入れる角煮としては、最高だと思う。


野菜は、ダイコン、キュウリ、アスパラガス、ニンジン、キャベツ、ナス、ほうれん草をひとまとめにし、外側をキャベツでくるんで輪切りにする。

野菜はそれぞれ別々に火を通し、うすく塩コショウで味をつけて、柿酢に浸けてある。

昨日、兵太が「うまい、うまい」と言って食べていたレンコンの酢付けも、この柿酢を使ったものだ。

この柿酢は、やはり千葉に住む叔父さんが、自宅の庭の渋柿から自分で作っているものだ。

とってもフルーティでいい香りがする。

これで「歯応えはシャッキリしながらも、固すぎない野菜のテリーヌ風酢付け」の完成だ。


それ以外にもやはり軽く火を通したキャベツを3センチ角に切り、キャベツ3・生ハム1の割合で爪楊枝に指す「一口サラダ」も作った。最後はウズラの卵を1つ付ける。

他の(いろど)りとしてはプチトマトだ。


味が通ったはずの鶏もも肉と、暖かいご飯を手早く混ぜる。これで「鶏肉のひつまぶし」も完成だ。


箸休めには「桜えびの素揚げ」を入れている。

大量に作れるし、兵太が食べる可能性もあるから・・・・・・。

兵太はバスケ部なのに、身長が169.5センチしかなく、それをけっこう気にしている。

奴のためにカルシウム分を少しは入れることにしている。

顧客は大事にしないと、ね。


あたしは、お弁当では雑菌の繁殖を防ぐため、酢を使った料理以外に、梅干しもご飯側に入れるようにしている。

これも紀州梅の高級梅干しだ。

ただしこっちは衛生用なので、食べる事を重視していないが。


あたしのお弁当を食べた赤御門凛音様が、万が一にも”食あたり”なんて事になったら大変だ。

人生設計が音を立てて崩れていく。

念を入れるに越したことはない。


保温ポットに味噌汁を入れて、本日のお弁当が完成!


 このお弁当を作っている時、あたしはある種の幸福感を味わう。

料理を作りながら、この弁当を赤御門様に手渡した後の計画を練るのだ……


・・・


 上気した顔で、あたしはお弁当を赤御門(せきみかど)様に差し出す。

もちろん、ちょっと可愛く、恥じらいながら上目使いで。


周囲の女子は”ただ見た目が可愛いだけ”のお弁当だが、その中にボリュームがありつつ、かつ何種類もの料理が込められてあり、栄養バランスも考えられた、あたしのお弁当がある。


赤御門様は他女子のお弁当をうんざりした目で見ているが、あたしのお弁当で驚きに目を見張る。

そして私の手とお弁当を取って、こう言う。


「こんな美味しそうな弁当、初めて見たよ。ぜひ食べさせて欲しい」


あたしは恥じらいながら、小さくうなずく。

そして2人は学生食堂へ。

ファイブ・プリンスには、特別な席が用意されている。

その指定席に、あたしは赤御門様と一緒に座る。


赤御門様はあたしの弁当を一口食べる。

そして・・・・・・

「美味しい、とっても美味しいよ。最高のお弁当だ。これからは毎日、僕のために弁当を作って欲しい!」


・・・


 完璧だ!

あとはこのお弁当を、赤御門凛音(せきみかどりおん)様に食べさせるだけ!


(ちなみに、この計画を練る事を兵太に話したら、「そりゃ計画じゃなくて妄想だろ」と言いやがったので、思いっきりケリを入れてやった!)


 他の多くの女子は”可愛く飾ったデコ弁・キャラ弁”みたいのを作ってきているが、食べ盛りの男子高校生が、それで喜ぶとは思えない。

だからあたしはバランスとボリュームで、食欲に訴える作戦なのだ。

食べて貰えば、味には自信がある。


とは言え、あたしも最初は可愛く飾ったお弁当を作っていた。

だが兵太が「男は弁当に可愛さとか、求めてねーよ。たっぷり食えて、美味けりゃ、それが一番だろ」と言ったのだ。


言われた時はかなり悔しかったが、確かに兵太の言う事にも一理ある。

それに”可愛い系キャラ弁”は、多くの女子が作って来ているので、逆に目を引きにくいかもしれない。

唯一の不安は「精神構造が少年ジャンプ・レベル」から抜け出せていない兵太の意見という点だが、ここは賭けるしかない!


 この時点で、ほぼ6時50分。

母親が起きてくる時間だ。

母親はいつも、あたしが弁当を作り終わると、しかめっ面をして一言いう。

「あんた、たまにはお父さんのお弁当も作ってあげたらどうなの?」


あたしはそんな母親の小言を無視して、洗面台に向かう。

冗談じゃない!

登校前の女子は忙しいのだ!

父親の弁当なんか作っているヒマはない!


調理した後には、シャワーは必須だ。

もう一回洗顔しないとならないし、化粧はしないが保湿と乳液くらいのお肌の手入れは必須だ。

洗った髪の毛だって、ドライヤーで乾かして整えなくてはならない。

中流サラリーマンの父親の世話は、母親の役目だ。


まぁそうは言っても、あたしの料理は少し多目に作ってある。

母親はあたしが作った豚の角煮やひつまぶしを、弁当箱に詰めればいいだけのはず。

これで一回三百円のバイト代である。


午前7時30分。

あたしは渾身のお弁当をカバンに入れ、家を出る。

今日こそ、今日こそ、計画を実現するのだ!

この次は2/22(金)に投稿の予定です

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