表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
79/116

5、花火大会の途中で(エピソード4)(前編)

今回は、美園の宿敵である、渋水理穂を主役にしたサイドストーリーです。

前編・後編に分かれています。

いつもとは違う話ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。

 渋水理穂(しぶみずりほ)は退屈していた。

周囲にはあまり頭は良さそうではないが、お金は持っている大学生三人がいる。


「俺はさぁ、今まで花火大会とかは招待席か貸切の屋形船で見ていたから、こういう人ゴミの中で見るのは初めてなんだ~」


一人の男がそう言った。


「そうそう、なんたって雅人の家は金持ちだからな」


「今をときめくITベンチャーってヤツだもんな」


残りの二人が相槌を打つ。


……さっきから、何度同じ『金持ちアピール』してるんだか……


だがその退屈な様子を表情に出さずに、渋水は笑顔で返す。


「さすがですね、やっぱりベンチャーで成功した家は桁が違いますね。雅人さんも、お父さんの会社を継がれるんですか?」


すると雅人と呼ばれた大学生は、頭の後ろに手を組んだ大仰なポーズでつまらなそうに言う。


「いやぁ、どうしようかな。俺から見たら親父もまだまだなんだよな。俺はもっとデカい仕事をした方がいいと思っているんだ。若い内は大企業で人脈を作ってさ、三十歳くらいから世界を相手に仕事をしようと思っているんだよ。親父の会社を継ぐのは、その後でもいいかなって」


……親の力で入ったFラン大学のクセに、よく言うわよ……


渋水はほとほと辟易していた。

実際、渋水が通う慈円多学園では、もっと頭が良く、家柄も良く、金も持っていて、才能がある上質な男子が溢れている。

にも関わらず、渋水がこの男たちと一緒にいるのは訳があった。

この男・張川雅人が、渋水が出演する地下コンサートのチケットを、大量に購入してくれると言うからだ。


「でも理穂ちゃんのお父さんもさ、どっかの大きな金融機関のお偉いさんだって聞いたけど、本当?」


渋水の顔が曇った


「え、えぇ?さぁ、どうかな?プライベートな事は、ひ・み・つ・かな?」


雅人が顔を近づけてくる。


「それならさぁ、俺が理穂ちゃんと結婚すれば、デカい金融機関と繋がりが出来るよね。そうすれは、お互いWin-Winじゃん、俺は才能、理穂ちゃんの親が資金と信用を出すって事でさ」


・・・バカっ!死ね!何がWin-Winだ。アンタと心中なんて真っ平よ!・・・


そんな思いを必死閉じ込め


「噂なんて信じちゃダメですよぉ~」


と笑顔を作って誤魔化す。

それを合図のように、雅人が話題を変えた。


「ねぇ、花火大会なんか見ていてもつまらないよ。それよりさ、もっとイイ所いかない?」


自信ありげに、ニヘラっと笑う。

渋水は一瞬、ゾッとした。

まぁまぁ見てくれがいいかと思っていたが、その知性の全く感じられない笑い方に悪寒が走る。


「えぇ?イイ所ってどこですか?」


「ホテル。カウンターバー付きの部屋を取ってあるんだ」


まるで来るのが当然、と云わんばかりの口調だった。


「でも、せっかく花火大会に来たのに、花火も見ないなんて・・・」


渋水がそう返すと


「大丈夫だよ、むしろホテルの部屋からの方が、花火も良く見えるって。こんな人ゴミの中で見てるよりもさ、エアコンが効いた部屋で、ワインでも飲みながら、ゆっくり観賞しようよ」


そう言って雅人は渋水の肩に手を回してきた。

その回した手で、渋水の胸のふくらみをまさぐろうとする。

渋水の背筋が再びゾオッとした。


「ちょっと、何やってんですか!止めて下さいよ!」


渋水はあくまで笑顔を保ちながら、その手を振りほどいた。

こんな低脳Fラン大学生なんかに、身体を触らせるなんて、冗談じゃない。


「いいじゃん、いいじゃん。絶対ホテルの方が楽しいって!」


他の男二人も調子に乗って囃し立てる。


「高層ホテルの部屋だよ?真正面から花火を見れるじゃ~ん」


「そうだよ、そこでさ、ワインとか色々飲んで、みんなで盛り上がろうよぉ~」


三人で渋水を取り囲む。

一人が渋水の手を引き、あとの二人が後ろから押す。


「ちょっと、ちょっと、待ってくださいよ。ホラ、わたし、まだ高校生だしぃ」


渋水は内心かなり焦りながらも、苦笑いしながら必死に抵抗した。

こんな連中について行ったら、何をされるかわかったもんじゃない。

だが男三人は諦めない。


「なんだよ、なんだよ、リホピン、ノリ悪いなぁ。いいじゃん、ホテルで飲むくらい」


「そうだよ、カラオケボックス行くのと同じじゃん。なに心配してんのぉ~」


「なんにも危ないことなんて無いって。俺ら、紳士だからさぁ」


・・・絶対ウソだ。コイツラ、わたしを酔わせて最後までヤル気だ・・・


元々彼らは、そういうイベント・サークルの連中なのだ。

だが彼らは渋水のファンであると同時に、50万ものチケットを購入してくれる大口の客だ。

渋水はこういう手合いの扱いには慣れている。

しかし今日のこの連中は、既にアルコールが入っている事もあって、タチが悪かった。


「ホント、ダメですってぇ。退学になっちゃいますよ。約束は『一緒に花火大会に行く』ってことだけですから」


渋水の顔は笑顔を作っていたが、身体は全力で抵抗していた。

しかし周囲から見ると、それを『じゃれあっている男女』としか見ていないらしい。


・・・これだけたくさん人がいて、誰もわたしを助けようとしないの?・・・


だが祭りの雰囲気の中、若い男の集団に仲裁に入るのは、普通の人間には中々できる事ではない。

渋水には、まだその辺の事が理解できていなかった。


「行っくぞ!行っくぞ!」


男達は変な掛け声を上げ、渋水を囲んだまま通りを移動する。

そのまま軽く、表通りから一本は入った路地に連れ込まれる。

渋水の中に、冗談だけではない恐怖が生まれた。


・・・ちょっと、冗談じゃない!誰か助けて!・・・


そう渋水が思った時だ。

彼らの後をついて来たのか、路地の入り口に一人の人影が現れた。


「あんたら、何やってるんだ?」


そのシルエットと声の感じから、まだ少年とわかる。


「あん?テメーには関係ねーだろ?アッチ行ってろ!」


「ガキにゃ関係ねーーんだよ!」


男達は言った。自分達の盛り上がりに水を差されて、イラついている様子がわかる。

だがその少年は、さらに路地の中に突き進んで来た。


「関係あるよ。その子は、俺と同じ学校の生徒なんだ。それに俺がガキなら、その子も同じガキだ。そのガキに、あんたらは何をしようとしているんだ?」


渋水理穂は、その言葉に驚いた。少年の顔をよく見てみる。

確かにその顔には見覚えがあった。

たしかバスケ部の・・・同じ一年生の男子だ!


 男の一人が少年に近づいて行く。

そしていきなり、少年の頬を殴りつけた。


「これでわかっただろ?ケガしない内に、さっさと失せろや」


だが少年は少し身じろいだだけで、その場を立ち去ろうとしない。

次の瞬間、少年は殴りつけた男を、止めてあった自転車の列に向かって、思い切り突き飛ばした。

酔っていた事もあって、バランスを崩した男は自転車に埋もれるように転がった。


「このガキっつ!いきなり何しやが・・・」


そう言ったもう一人の男の頭に、少年は持っていたコンビニの袋を叩きつける。

 ゴツン!

かなり固い音が響いた。中身はペットボトルだけではなく、缶ジュースなどもあったようだ。


「うっ」


男は頭を押さえてうずくまる。


「いまだ!」


少年は、渋水理穂の腕を掴んで走り出した。


「コイツっ!待てっ!」


一番奥にいた大学生・雅人が追いかけて来ようとする。

少年はコンビニ袋の中身を、路地にぶちまけた。

走り出した雅人が、その中で缶コーヒーを踏んで、派手に転倒する。

その隙に二人は路地を出て、大通りに逃げ出して行った。

そのまま二人は、浅草寺の参道に向かって走る。

渋水は後ろを振り返って思う。

人ゴミの中に紛れてしまえば、何とかなるだろう。

この続きは、明日6月14日(金)7時頃、投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ