4、仁義無き花火大会(後編1)
あたしはしばらくバスケ部男子に囲まれていた。
「兵太といつから付き合っているのか」
「中学の時はどうしていたのか」
「どこまで行ったのか」
うぅぅぅ、そんなこと、聞かないでくれぇ~。
つい二ヶ月前まで、すぐそこにいる赤御門先輩の追っかけをしていたんだよぉ。
その人の前で、こんな事を聞かれるなんて、拷問に等しい。
どうやらバスケ部の連中は、あたしの事をよく知らないらしい。
まぁ赤御門先輩の追っかけなんて、それこそ『アルファベット三文字+48』のアイドルグループのメンバーより多いから、
一人一人なんて覚えていないだろうが。
「じゃあ行ってきます」
兵太のそんな声が聞えた。
あたしは焦って、兵太の方を振り向く。
おい、兵太。あたしをこんな集団の中に放っておいて、どこに行くつもりなんだ?
「あの、兵太はどこへ?」
あたしがそう聞くと、おしゃべり先輩が答えた。
「ああ、人数分の飲み物を買って来て貰おうと思って頼んだんだ。俺のオゴリ」
いや、アンタのオゴリかどうななんて、聞いてないよ。
「あ、あたしも行きます!」
そう言って兵太の後を追おうとする。
「いいよ、いいよ。もう一人一年が一緒に行ったから。女の子じゃ重いだろ」
そんな余計な気遣いはしなくていい。
どうやらこのおしゃべり先輩は、まだあたしを話の肴にしたいようだ。
七時になった。
隅田川の方から、盛大に花火が打上げられる。
みんな一斉に、空に広がる色とりどりの光の花を見上げた。
あたしも、空に開いては消える大輪の花を見上げる。
キレイだなぁ、やっぱり夏の夜は花火だ。
隣に誰かが来た。
兵太かと思って振り向くと、そこには赤御門様が来ていた。
「天辺さんが兵太と付き合っていたとは、知らなかったよ」
ふいに赤御門様がそう口にした。
あたしは驚いて、彼の方を見上げる。
赤御門様は花火を見上げたままだ。
彼の芸術的なほど整った顔が、赤や緑や黄色の花火の色で染まっている。
「移り気な女、って思われてますよね・・・」
あたしは小さい声でそう言った。
「そんな事はないよ。兵太はすごくいい奴だ。天辺さんとは似合いのカップルだと思うよ。それに・・・」
赤御門様は一度言葉を切った。
「身近にいる大切な人に気づくって、とてもいい事だと思うよ。普通の人は、そういう身近なチャンスに中々気づけないかもしれないしね。気づいた時には手遅れになってしまうこともあるし」
・・・同じような事は、咲藤ミランも言っていた。赤御門様も彼女と同じ気持ちなんだろうか・・・
赤御門様があたしの方を見た。
こんな至近距離で、赤御門様に見つめられたのは初めてだ。
心臓がドキンと一拍強く打つ。
「僕としては、天辺さんの美味しい弁当が食べられなくなったのは残念だけどね。君の作ってくれた弁当は、本当によく考えられていて、美味しかったよ。ボリュームもあったし」
すぅ~っと、心が赤御門様に引き寄せられる気がした。
まるで重力に引き込まれるように・・・
ヤバイ、ヤバイ!ダメだ、ダメだ、ダメだ!
これじゃあ、あたしは本当に浮気性だ!
あたしは赤御門様の視線を避けて、さらに小さい声で言った。
「たまに作って持って行きます。兵太に弁当を届ける時に・・・」
それを聞いて赤御門様は、優しく笑いかけてくれた。
「ありがとう。兵太も幸せだよな。こんな料理の上手い彼女が出来て。天辺さんと兵太は同じ中学から来たんだってね?幼馴染だと聞いているけど」
「はい、兵太とは幼稚園の時からの付き合いになります」
あたしがそう答えると、赤御門様はちょっと微妙な顔をした。
「そうか、幼馴染同士で付き合っているのか・・・」
それを聞いて、あたしは気になっていた事を聞いてみた。
「赤御門先輩は、咲藤先輩と幼馴染なんですよね?」
彼はちょっと驚いたような顔をした。
「この学校では誰にも言ってないはずだけど。誰に聞いたんだい?」
「咲藤先輩から。インターナショナルスクールで一緒だったって」
「ミランが言ったのか・・・」
赤御門様が寂しそうな顔をする。彼らしくない表情だ。
「彼女はカッコいいからね。インターナショナルスクール時代も、みんなの中心だったよ。いつも光り輝いている感じだった」
大玉の花火が打上げられる。空一杯に赤い花火が広がった。
赤御門様の表情も、赤く染まった。
「彼女の隣に並べるような男になりたい、そう思っていたよ」
・・・赤御門さん、あなたはその資格が十分にあります。あなたより素敵な男性はいません・・・
・・・そして誰より、咲藤さんは、あなたが隣に来る事を待ち望んでいます・・・
だがあたしが、その言葉を口にしていいのだろうか?
当人同士が中々言い出せない、その言葉を、第三者のあたしが?
あたしと兵太だって、中々に自分の気持ちに素直になれなかったではないか。
ファイブ・プリンスのリーダーにして、学校中の女生徒の憧れの的である赤御門凛音。
そして学園を支配する美女、セブン・シスターズの一人である咲藤ミラン。
彼らほど似合いのカップルは無いはずなのに、それでも互いの中の何かが二人を遠ざけるのか?
あたしは、兵太との今までの事を考えていた。
この続きは、6月11日(火)の7時頃、投稿予定です。




