4、仁義無き花火大会(中編)
ついに互いに意識して付き合い始めた、美園と兵太。
しかし兵太はバスケ部の練習で忙しく、ほとんど会う事ができない。
唯一の二人のデート・イベントが花火大会。
この日を楽しみにしていた美園。
しかし花火大会に行くと、そこでバスケ部の連中と出会ってしまい。
「オマエが帰った後、川上さんが『花火大会にどうしても行きたい』って言いだしてさ」
川上さん?
あたしの耳がダンボのように大きくなった気がした。
「彼女もずっと部活詰めだろ。『たまには記念にみんなで花火でも見に行こう』って言われてさ」
あたしはチラっと兵太の方を見た。
兵太も盗み見るように、あたしの方を一瞬だけ見る。
「もうすぐ赤御門さんと一緒に来るだろう。川上さん、浴衣に着替えて来るって言ってたから」
赤御門様まで!
あたしは二度ビックリした。
そりゃ、あたしもバツが悪いよ。
なにせ二か月前まで赤御門様の『お弁当お届けレース』に参加していて、あの人を追いかけ回していたんだから。
最初に声を掛けられた時に、素早く全員をチェックして、赤御門様がいない事で安心していたのは甘かった。
あたしは兵太をちょっと後ろに引っ張った。
バスケ部の連中に聞こえないように耳打ちする。
「この『浅草寺が穴場』って、誰かに聞いたの?」
兵太はさらにバツが悪い表情をした。
「クラブの先輩から。去年、この花火大会に行ったって話してたから。まさか来るとは思ってなかったんだよ」
バカッ!、バカバカバカ!
本っ当に思慮が足りない!
バスケ部で話せば、川上さんの耳にも入るに決まっているだろ!
そうしたら、彼女が妨害工作に出るって、何で考えられないんだよ!
その『昔のゲーム○ーイ並の処理能力』しかない脳みそで、少しは考えろっての!バカ!
「なに二人でコソコソ話してるんだ?大丈夫だよ。二人のデートの邪魔はしないって」
いや、するだろ。
って言うか、もうしてるし。
そもそも川上さんがココに来るってだけで、十二分に邪魔になっている。
こりゃあ、川上さんと赤御門様が現れる前に、早々にここを立ち去るしかない!
「あ、赤御門さん、来たよ。お~い!こっち、コッチぃ!」
バスケ部の一人が山門に向かって手を振った。
あたしもその方角を見る。
そこには数ヶ月前まであたしが恋焦がれた赤御門凛音様と、数週間前まであたしと兵太を争っていた川上純子ちゃんがいた。
くぅ~、最悪の組み合わせじゃないか!
赤御門様が合流する。
「あれ、兵太もいたんだ?あと天辺さん?」
赤御門様はあたし達を見て、ちょっと意外そうな顔をした。
「どうやらデートみたいですよ。兵太に最近出来た、噂の幼馴染の彼女と!」
さっきの「幼馴染の彼女」と聞いた男が、そう説明しやがった。
このおしゃべり男が!
デートだと思ったんなら、気を利かしてさっさと消えろよ!
赤御門様と一緒にいた川上純子ちゃんは、あたしを粘っこい目つきで睨んでいた。
前の『腹を空かせた山猫の目』より、もっと陰湿な感じになっている。
おしゃべり男が「幼馴染の彼女」と言った瞬間、ビクッと彼女の顔が引き攣った。
バツが悪い事この上ないが、ここまで来て知らん顔はできない。
あたしは赤御門様に挨拶をした。
「お久しぶりです、赤御門先輩。この前はご面倒おかけしました」
考えてみれば赤御門様に会うのは、あの査問委員会以来だ。
「いや、いいんだよ。あれくらい。問題が解決されて何より良かった」
赤御門様は、そう言って優しく笑いかけてくれた。
ヤバイ、この笑顔。またあたしの心が引き込まれそうだ。
慌てて視線を赤御門様から引き剥がす。
兵太を探した。
「え、いいんですか?新品のバッシュなのに!」
「いいよいいよ。親父がアメリカの土産で買ってきてくれたんだけどさ、俺には合わなかったから。サイズは26で多分おまえには丁度いいと思うからさ」
「助かります。もう今のシューズがダメになって来ちゃって・・・」
おいおい、兵太。
あんた、あたしを放っておいて、なにバスケ部で盛り上がってんだよ。
あたしら、何のためにここに来たか、忘れてるんじゃないだろうな?
そんなあたしの様子に気づいたのか、赤御門様が二人に声をかける。
「なあ、兵太たちがデートなら、僕らが引き止めちゃ悪いだろ。二人にさせてやれよ」
だがその先輩は雰囲気を読まなかった。
「おい、そうなのか?俺たち邪魔か?二人っきりになりたいのか?」
そう言って兵太の肩に手を回す。
「いや、別に、邪魔って事はないですけど・・・」
いや、このシチュエーション、その返答じゃダメだろ。
「だよな。せっかくじゃん。一緒に花火見物しようぜ。彼女も一緒でいいからさ!」
いや、そっちは良くても、コッチは良くないんだよ。
だが兵太は完全にバスケ部の先輩に取り込まれたようだ。
あたしはタメ息をついた。
はぁ~、タメ息と一緒に幸せが逃げていく・・・
「まったく、しょうがない奴らだなぁ」
赤御門様が苦笑いしている。
ふと見ると、川上純子が「してやったり」という表情をしていた。
にゃろ~、これを狙っていたな。