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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
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3、パン売り競争、勃発(その1)

・・・なぜここにヤツが・・・

あたしは絶句した。

無論、七海も固まっている。

そして渋水も驚きの目で、あたしらを見ていた。


店長が夜番の三人を紹介した。


「渋水さん、高橋さん、石川さん。三人とも同じ女子高生だし、仲良くなれそうだね。あ、そう言えば渋水さんは、天辺さんや如月さんと同じ慈円多学園だよね。知ってる?」


渋水は少し引きつった表情で答えた。


「ええ、まあ」


「それは良かった。じゃあ色々と教えてあげてね。天辺さんと如月さんも、同じ学校の渋水さんの方が聞きやすいよね?」


と店長は、あたし達の関係も考慮せずに、勝手に決めつけて行ってしまった。


店長がいなくなると、渋水はあたし達など目に入らないかのように、フイっと顔を背けてしまう。

あたし達もそれきり口を聞かず、元の作業に戻る。

飯倉さんがまた近寄って来る。


「そっか、あなた達もあの子と同じ学校だったんだね。知り合い?だとしたら、悪い事、言っちゃったかな?」


あたしはうつむき加減で答えた。


「知ってはいますけど、別にそれだけなんで。仲がいい訳じゃないです」


飯倉さんはホッとした感じだった。


「良かった。店長はああ言ってたけど、あの子に聞くのは止めた方がいいよ。あの子、たまにしかシフトに入らないくせに、やたらと自分が仕切ろうとするから」


あたしが渋水に頼る事なんて、絶対に無いんだが、それをわざわざ口に出して言う事もない。


「ええ、分からない事は飯倉さんに聞きますんで、よろしくお願いします」


とだけ答えた。



 一時間後、あたしと七海はバイトを終え「ラ・フォレット」を出た。

二人とも店を出た途端、大きなため息をつく。

最初に口火を切ったのは七海だった。


「まさか渋水のヤツが、ここでバイトをしてるとはね」


全くだ。ヤツがいると知っていたら、あたしはここのバイトは選ばなかった。

最後の一時間、ヤツと一緒の空間にいるのは中々にキツかった。モチベーションはダダ下がりだ。

まぁ渋水の方も、あたしらに話しかけて来る事は無かったが。


「どうする?この先」


七海の言う意味はわかる。このバイトを続けるか、続けないか、という意味だ。


「どうするって、今さら辞めるって訳にもいかないでしょ。アイツがいたってバイトは関係ないよ」


それがあたしの答えだ。

渋水の奴がいたからバイト辞めるって言うのは、アイツに対して負け犬である事を認めたような気がして気に入らない。

アイツがいる事で気が重い事は確かだが、無視していれば済む事だ。

向こうが何かを仕掛けて来ない限り、こっちが動く必要はない。


・・・と考えていたのは、大きく甘かった。


次の日、やはりあたし達は早番だったが、最初のトラブルはその夕方に起こった。


「もうっ!なんで早番だけでロッカー占領してるのよ!」


大声がロッカー室から響いた。

店長が慌てて飛んでいく。

すぐに渋水が喚き散らす声が聞こえた。


「早番のバイトがロッカーを占領しているんです!あたし達、荷物が置けないんですよ!」


その日は午前中に大口の注文が入っているため、早番の人を多めにシフトに入れていたらしい。

遅番は三人だけだったが、ロッカーが二つしか空いていなかったようなのだ。

店長がロッカー室から出て来て、あたし達に言った。


「天辺さんと如月さん、悪いけど二人共同で一つのロッカーにしてくれないかな。しばらく二人は同じ時間帯だから、来るのも帰るのも一緒でしょ。遅番の人がいるから、頼むよ」


なんであたし達が・・・


そう思わなくも無かったが、あたし達はまだ入ったばかりだ。

ここで店長の言う事に逆らう訳にもいかなかった。

仕方なく、あたしは自分の荷物をロッカーから取り出し、七海と同じロッカーに入れた。

その様子を見ていた渋水が、こう言いやがった。


「そこのロッカーとそこのロッカーは、前からわたし達が使っていたんだから。後から来て、勝手に使わないでよ!」


ハァ?ここのロッカーはオマエの私物か?

誰の使うロッカーとかって、決まってるのかよ!


あたしはすかさず言い返そうとしたが、そこに他の女性社員が入って来た。

ここで言い返すと、彼女の目には、あたしの方が渋水に文句を付けているように映るかもしれない。

あたしは無言でロッカー室を出た。


背後からこれ見よがしに


「全く、ちゃんと謝る事も出来ないんだから!」


という渋水の声が聞こえた。



 その翌日は、レジの前に置かれていた

「パンの写真とバーコードが乗った価格表」が隠されていた。


ほとんどの店員は、既にパンの価格を覚えている。

よって価格表が無くても問題はない。

困るのはあたし達二人だ。

価格表が無いと、一々パンの値段を確認しに行かねばならない。

店長に価格表はどこに置いたのか聞くが、

「え?レジの前にあるだろ?」

と言うだけで、忙しいため取り合ってくれない。


仕方なく、あたしと七海はパンの値段をメモし、それを見ながらレジ打ちをした。

だが4時に遅番の連中が来ると、彼女達は当然のようにロッカー室から価格表を持ってきた。


・・・やられた・・・


あたし達を的にかけた、嫌がらせだったのだ。

これには流石にあたしも文句を言った。

ただし持っていたのが渋水じゃなかったので、あくまで穏便にだ。


「その価格表、朝から無くて探していたんだけど?」


その子は若干目が泳いで

「店が終わる時に掃除してたから・・・」

と言い訳した。

だがそこに渋水が『待ってました』とばかりに出て来たのだ。


「遅番は最後に掃除があるんだから、仕方ないでしょ!それに商品の価格なんて、覚えているのが普通じゃない!」


流石にコイツには黙ってられない。


「あたし達はまだ三日目なんだから、全部覚えている訳ないでしょ。この価格表はそういう新人のために置かれているんじゃないの?」


だが渋水はあたしに指を突き付けるようにして言い放った。


「わたしは三日目には、大体は覚えていたわよ!仕事が出来ないなら、もう辞めれば?出来ない奴がいると迷惑なのよ!」


このやろう~。


そう思って言い返す言葉を探していた時だ。


周囲の目が気になった。

客は少ない時間帯だったが、店内での揉め事はマズそうだ。

それに厨房にいた男性社員は、何事かと思ってこちらを覗き込んでいる。

今、この立場で渋水と言い合っても、あたしに分は無いかもしれない。

あたしは渋水を睨んだまま、黙ってその場を離れた。

ハラワタが煮えくり返ってしょうがない。

この続きは、明日6月5日(水)朝7時頃、投稿予定です。

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