4、この素晴らしい弁当をあの人に!(前編)
授業が終わったら、さっさと帰る!
これが鉄則だ。
うっかり教室の中に残って、”女子同士の恋バナ”に巻き込まれてしまったら最後だ、
スーパーで”夕飯の仕度をする主婦との買い物競争”に遅れを取ってしまう。
明日のお弁当のメインは「鶏もも肉のひつまぶし」と「豚の角煮」だ。
野菜関連は、スーパーで見て決めよう。
スーパーに行くと、中学時代の同級生のお母さんに会った。
名前は・・・・・・思い出せない。
「あら、美園ちゃん。久しぶりね。元気?」
あたしの健康状態が、この主婦の生活と何の関係があるのかとも思うが、ここは大人しく女子高生らしい返事を返しておこう。
「はい、ありがとうございます。元気にしてます」
無駄な会話は出来るだけ避けたい。
それには、相手にこれ以上の話す糸口を与えない、”当たり障りの無い返答”が一番だ。
だが敵もさるものだ。
「美園ちゃんは、あの慈円多学園に通っているのよね。優秀よね~」
うん、ありがとう。あたしは優秀だよ。
でもそれは、おばさんとは関係のない事だよね。
「いえ、私なんて全然です。頭イイ人は一杯いますから」
謙遜って言えば謙遜だが、事実あたしより頭のイイ人はウンザリするほどいる。
日本全国のコンビニの店舗数よりは多いだろう。
こんな当たり前の言葉を口にしてるなんて、脳みそが腐る。
「ウチの麻紀も美園ちゃんくらい、しっかり勉強してくれればねぇ」
あ、この人、三浦麻紀の母親か?
確かかなり成績は悪かったはず。
サッカー部やバレー部の人気男子とかばっか、追っかけていた子だ。
あの子じゃいくら勉強しても、あたしと同じ成績になるとは思えないけど。
「でも慈円多学園なんて、名門だからお金もかかって大変でしょう?」
ホラ来た。
名門高校に通っているとなると、最初は「頭いい」とか持ち上げておいて、後で大抵はお金の話になる。
いかにも
『アンタ、頭は普通だけど、カネだけかけて無理矢理成績を上げたんでしょ』
って言いたげだ。
「ハイ、親には感謝してます」
無駄な会話だ。
ちなみにこの主婦は、あたしに何の返答を期待して、話しかけて来るんだろう。
この後、”国会での野党の代表質問”レベルでどうでもいい話が、しばらく続いた。
早く切り上げたい私が
「食事の仕度があるんで」と言っても、
「勉強だけじゃなく、家の手伝いもしてるの。エライわねぇ」
と、どうでもいい会話を続けようとする。
『食事の仕度』は本当だが、誰も『家の手伝い』とは言っていない。
十分近く”中学時代の付き合いの浅い友人のお母さんの無駄話”に付き合わされ、
あたしはMPを20は吸いとられて、スーパーを出た。
これだから近所のスーパーは嫌だ。
明日は違う駅のスーパーにしよう。
この続きは2/20(水)投稿予定です