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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
66/116

17、ミッション・インポッシブル ―お泊りデートを阻止せよ!―

四大絶叫マシン、最後は「ド・ドドンパ」だ。


なんと加速は「1.56秒で180km毎時」!

そこから名づけられたのが「加速度が世界最大のコースター」だ。


もうあたしとしては

「絶叫系マシンはお腹いっぱい!」なんだが、

まだまだ元気いっぱいの七海に引っ張られて、

これまた「一時間半待ちは絶対!」の列に並ぶ。

当然の事ながら、並ぶ前に「兵太と川上さん」がいないか、チェックする。

どうやらあの二人とは、回る順番が違うらしく、列ではかち合った事がない。


・・・


ド・ドドンパが乗り終わった・・・。

「ええじゃないか」ほどじゃないが、高さ49mの垂直ループはさすがに迫力満点だ!

首が折れるんじゃないか、と思えるようなGが掛かる。


昼間に男に間違われた件があるけど、あたしは見た目は華奢な女の子だ。

どっちかと言うと、全体的に痩せていてスリムだ。

難点は「女として注目を浴びる部分」までスリムな所だが・・・。

まぁそれは置いておいて、華奢なあたしとしては、

あまり強烈なGは身体に応える、という事だ。

言いたいのはこの点。


四大絶叫系マシンを全て制覇したあたしは、全身でホッとしていた。

「これでもう絶叫系マシンに乗らなくて済む」

と言う安堵感だ。

あたし的には、既に一生分は乗ったつもりだが、

七海は

「最後に『てんてこまい』だけ、乗ろうよぉ~」

とうるさい。


だがあたしはそれを断った。


「もう6時過ぎてるじゃん。今から並んで、また一時間半待ちとかだったら、帰りのバスに間に合わなくなるでしょうが」


富士急ハイランドから新宿に戻るバスは、残りは二本。

19:18と20:23だ。

そしてあたし達が予約しているのは、19:18のバスだ。


その時、植込みの反対側で、同じような事を話しているバカップルがいた。


「あたし、次は『てんてこまい』に乗りたいなぁ~」


「でも、この時間からあの列に並ぶと、帰る予定の七時十八分のバスに乗れなくなるよ。もう無理じゃない?」


「少しくらい遅くなっても、いいんじゃない?」


彼女の方が積極的なようだ。

最近は、別に慈円多学園じゃなくても『肉食系女子』は多いもんだ。


「いや、でも帰れなくなるのはマズいよ。予約したバスに乗っても、新宿に着くのは九時だし」


・・・こ、この声は・・・


あたしはそうっと立って、反対側の植込みを覗き込む。

遠目な上、暗くなり始めたからよく見えない。

その上、ベンチに座っているので、後姿で肩から上しか見えない。

だが、おそらく間違いない。


・・・兵太と川上純子ちゃんだ!・・・


「中上くんは、帰りたいの?・・・」


川上さんの声が静かに響いた。


「いや、別に、帰りたいって訳じゃないけど・・・」


兵太の少ししどろもどろな返事が聞こえる。


「わたしは、中上くんとなら・・・ずっと一緒にいたい・・・」


え?ちょっと、待って・・・なにを言って・・・


あたしは一瞬、自分の耳を疑った。


だって、川上さん、あなた、そういうキャラじゃないでしょう・・・

「見た目は小6の女の子」なんだから!

そんな、「ずっと一緒にいる」なんて、

あたしだって、まだそこまでは考えてないのに。


川上さんがうつむいたまま、兵太の腕を摘まむように引っ張った。


「明日も休みだし・・・今日は・・・帰りたくない・・・よ」


いやーーーっつ!

ちょっと、ダメ!

ダメだって!


川上さん、あなたには、そういう事はまだ早いって!


兵太、オマエもオマエだ!

アンタ、そこまでロリコンだったのか?

断れ!

今すぐ、断れ!

断るんだっ!!!


「これは・・・予想してたけど、かなりマズイ展開だねぇ」


いつの間に横に来ていたのか?

七海が超・小声でそう言った。


あたしは振り返って小声で聞いた。


「予想してたって、何よ?」


七海は意味ありげに、あたしを見た。


「富士急ハイランドのデートって、何気にけっこうヤバイんだよ。ほら、ちょっとアトラクションで時間を取っちゃうと、帰りのバスに乗れなくなるでしょ?日帰りデート圏内だけど、そのギリギリの位置にあるって訳。つまり、どっちかが、そのギリギリを越えてしまえば・・・お泊りコース、かな?」


そしてスマホをタップしたかと思うと、あたしにそれを見せる。


「ほら、ラブホだって、この近くにいっぱいあるでしょ?」


差し出された画面には、確かにGoogleマップ上に、いくつものラブホテルが表示されていた。

あたしは息を飲む。


視線を二人に戻すと、ちょうど川上さんが兵太の胸に顔を埋めるところだった。


しばらく経って、川上さんの、小さいが、ハッキリした声が聞こえた。


「中上くん・・・わたし、中上くんとの初めてのデートの・・・思い出が欲しいな・・・」


既に周囲は暗い。

もう二人はシルエットでしか見えない。


兵太と川上さんが、互いに見つめ合っている。


その二人の距離が、だんだんと縮まっている。

どちらかと言うと、止まっている兵太の顔に、川上さんの顔が近づいて行っている。


だけど・・・兵太もそれを避ける様子は・・・無い。


・・・うそ・・・

・・・ヤダ・・・

・・・やだよ・・・

・・・嫌だ・・・


・・・兵太、お願い

・・・お願いだから・・・

・・・川上さんから、離れて!!!


だが、あたしの願いも空しく、二人の影が重なろうとする・・・


「ブーーーーッツ、ブーーーーッツ、ブーーーーッツ・・・」


スマホの着信振動音が響いた。


ハッとするが、あたしのスマホじゃない。

音は前方から聞こえる。


重なろうとした影が、ビクッとして、互いに離れる。


・・・危ないところだった・・・


あたしは一瞬、安堵のあまり涙が出そうだった。


鳴っていたスマホは、兵太のものらしい。

兵太はズボンのポケットから、スマホを取り出した。

そしてそれをしばらく見つめている。


そして顔を上げると、ハッキリと言った。


「ゴメン。やっぱり、俺、帰るよ。次のバスに乗る」


完全に決心した言い方だった。


それが合図のように、園内のライトが点灯する。

再び、二人の表情が浮かび上がった。


「どうして?何があったの?」


川上さんが、ショックを受けた表情で、そう聞いた。


「美園が病気らしいんだ。かなり熱が出ていて、家には誰もいないらしい。一人で苦しんでいるって」


へっ?あたし?

あたしなら、ココにいるけど?


兵太が何を言っているか、わからなかった。


「どうして?どうして天辺さんの事なんか?」


川上さんが震えるような声で、そう言った。


「俺は美園のこと、放っておけないよ。病気で一人っきりで、俺に会いたいって言っているなら・・・」


いや、あたしは元気で、いま七海と一緒に富士急ハイランドに居るし、兵太に会いたいなんて言ってない。


だがそれを聞いて、川上さんは急に立ち上がると、キレたように叫んだ。


「どうして!どうして、あんな二股女!」


その言葉は、あたしの心にグサっと突き刺さった。

だが彼女のあたしを非難する言葉は、さらに続く。


「どうしてそんなに、天辺さんの事なんか気にするのっ!天辺さんは、中上くんと剣道部の先輩で、両天秤に掛けていたんだよ!それに最初は赤御門先輩を追いかけ回していたクセにっ!お弁当お届けレースでも卑怯な手口で勝とうとしたって、みんな言っている!あたしにだって、ウソをついて、あたしと中上くんが付き合いそうになったら、急に横からしゃしゃり出て来て!」


「やめろっ!」


兵太も立ち上がると、川上さん以上に大きな声を出した。


「それ以上言うと、きっと俺は、川上さんが嫌いになる。だから言わないでくれ」


川上さんは兵太を見つめ、拳を握り締めて震えていた。


「美園は、我を張るところはあるけど、そんな裏表のある奴じゃないよ。そんな器用な奴じゃないんだ。それくらいは解る」


それを聞いた川上さんは、ストンとベンチに腰を下ろした。


「わたしは帰らない。わたしはここに居る」


そして兵太を見上げる。


「いま中上くんが行ったって、天辺さんは中上くんのモノにはならないよ。でも、中上くんがわたしと一緒に居てくれれば、わたしは百パーセント、中上くんのモノになる。それでも、行くの?」


二人は少しの間だけ、沈黙していた。


だが兵太は

「ごめん」

と一言言うと、その場を去って行った。


後には、一人ベンチに川上さんが残されている。


あたしは振り返った。

少し離れた場所に、七海が立っている。

七海はスマホを手に、ニヤニヤ笑っていた。


あたしは近づくと、静かな声で言った。


「あんたでしょ。兵太にウソのメールを、送ったの」


「まぁね。あのままじゃ、あまりに美園が可哀そうだったからさ」


「なんで、そんな余計な事をするのよ!」


「余計な事?」


七海は真顔になった。


「美園、あんた自分が、あの時にどんな顔をしていたか、知らないでしょ。『涙が出ないまま、大泣きしている』そんな顔をしていたんだよ」


あたしは唇を噛んだ。


「美園、アンタももっと正直になりなって。他の事にはストレートなクセに、なぜか中上君の事になると、美園は素直になれないんだよね。そばで見ていて、じれったいよ」


「でも、でもさ。もう兵太は、川上さんのお弁当を十回連続で食べちゃんたんじゃない?だから川上さんも、あんな事を・・・」


七海を首を横に振った。


「食べてないって。月曜と木曜は、中上君は一人で食堂で食べてたよ。その日が、本当は美園のお弁当を食べる日だったんでしょ。中上君は、ちゃんと美園の事を考えていたよ」


「でも、兵太は、あたしと映画に行く約束してたのに、それをドタキャンして川上さんと会っていたんだよ!しかもそれを嘘ついて隠そうとして!」


「美園はそれを、ちゃんと中上君と話した?ちゃんと確かめたの?話は聞いたの?」


あたしは下を向いた。

そうだ。あたしはあれから、兵太とはまともに話してない。

あの日の事について、詳しい話を聞いていない。


七海は近寄って来たかと思うと、あたしの肩に手を回した。


「あたしと違って、美園はまだ『裏切られた証拠』を掴んだ訳じゃないじゃん。中上君にも、そして美園自身にも、もう一度チャンスをあげなよ」


あたしは七海の顔を見た。

七海の目が笑っている。いつもの砕けた調子に戻っていた、


・・・兵太にも、そしてあたし自身にも、もう一度チャンス、か・・・


七海がスマホを、あたしの目の前で軽く振った。


「で、美園ちゃん。行くの?行かないの?」


あたしは横目で七海を睨む。


「とりあえず行くよ。この状況、行かない訳にはいかないでしょ!」


「ヨシッ!行くぞっ、美園ちゃん!」


七海は肩に回した手をスルッと抜くと、あたしの背中を軽く叩いた。


あたしと七海は、それを合図に富士急ハイランドの出口に向かって駆け出した。

ともかく、兵太より先にバスに乗り込まないとならない。


だがあたしは、走り出してすぐに足を止めて振り返った。


そこにはベンチに座ったまま、顔を伏せた川上純子ちゃんの姿があった。

彼女の小さな肩が、その後ろ姿が震えていた。


あたしの胸が、きゅーっと痛んだ。


・・・ごめんなさい、川上さん。

あたしが、あなたにあんな事を言わなければ・・・

・・・あたしは、あなたに謝り切れない・・・


あたしは、その後ろ姿に小さく頭を下げた。

これで許される訳じゃないけど、そうせざるを得なかったのだ。


「早くっ、何してんの!美園!」


七海があたしを小さく呼ぶ。

あたし達は再び走り始めた。

この続きは、明日の朝、投稿できるように努力します。

次で完結です。


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