17、ミッション・インポッシブル ―ファーストキスは女同士?!―
その次は、ちょっと離れた場所にある四次元コースター「ええじゃないか」。
単にアップダウンするだけではなく、座席そのものがグリングリン回転するという代物だ。
う~む、ここも想像通りの混み具合だ。
昼食時にも関わらず、やはり一時間半以上は待つらしい。
列に並ぶ前に、例のごとく「兵太&川上チェック」!
大丈夫だ。
敵エージェントは近くにいないらしい。
・・・
二時間近く待って、やっとあたし達の乗る番となった。
左右二人ずつ、レールから棒のように突き出したコースターの座る。
足元は何もない。ブランコのような状態だ。
この状態で急降下や回転なんて冗談じゃ・・・
・・・
「ええじゃないか」が乗降ホームに戻って来た時、
あたしは半分、幽体離脱状態だった。
ホームに降りた時、マジで足に力が入らなかった。
スタッフが手を貸してくれなきゃ、へたり込んでいたかもしれない。
地上に降りても、あたしの幽体はまだ身体に戻ってなかった。
「お願い。ちょっと、ちょっとでいいから、休ませて」
あたしは通路にベンチを見つけ、そこに身体を投げ出した。
さすがに七海が心配そうに、あたしの顔を覗き込む。
「美園、大丈夫?だいぶ顔色が悪いみたいだけど。水でも買ってこようか?」
あたしは無言でうなずいた。
グリングリン回転したせいで、少し酔ったみたいだ。
「はい、水」
すぐ近くの自販機で、七海はペットボトルのミネラルウォーターを買ってきてくれた。
「ありがと」
あたしは力なくお礼を言うと、水を一口だけ飲む。
昼飯をガッツリ食べなくて良かった。
腹一杯だったら、ループ中に『TVで言うキラキラ』を噴出していたかもしれない。
はぁ~
完全に生気を失ったあたしは、無防備にベンチに身体を投げ出していた。
隣では七海が、同じくペットボトルの水を飲んでいる。
と、何を思ったのか?
突然、七海はあたしに覆いかぶさると、
あたしの頭をガッチリと押さえつけ、
強引にキスして来たのだ!
あたしはビックリ仰天して、目を白黒させた。
・・・ま、まさか七海。二股失恋のショックで、あたし相手に発情した?・・・
・・・そう言えばさっき、あたしが「男として見てイケてる」的な事を言っていたし・・・
我に帰ったあたしは、慌てて七海の身体をどかそうとした。
あたしはまだ、女に手を出すほど飢えていない。
「動かないで!」
七海が小さいが鋭い声で言った。
あたしの手が一瞬止まる。
「すぐそこに中上君達がいる!」
それを聞いて、あたしは目線だけ動かして通路をサーチした。
七海の言う通りだ。
いま、まさに兵太と川上純子ちゃんが、
あたし達の正面のベンチに座ろうとしていたのだ!
「あたしに手を回して。抱きしめるように!」
七海がそう言った。
あたしは言われるがまま手を回して、七海の身体を抱きしめるようにした。
誰がどう見たって「熱烈に愛し合う二人」にしか、見えなかっただろう。
当然、あたし達の正面のベンチに座ろうとしていた兵太と川上さんにも、
あたし達の「熱愛カップル」の姿は目に入る。
人目も憚らず、固く抱き合ってキスしている二人が目の前に居ては、
向こうも落ち着かなかったのだろう。
「アッチの方に行こう」
そう言う兵太の声が聞こえ、二人は一度は座ろうとしていたベンチから、
磁石が反発するように離れて行った。
あたしは七海の髪の毛越しに、その二人の様子を横目で追った。
「プハッ!」
兵太と川上さんが十分に離れたのを確認して、あたしは七海の口づけから顔を放した。
「ちょっと、七海。もういいよ。兵太達はアッチに行ったよ」
『まだあたしに覆いかぶさって口づけした体勢』の七海の身体を、
あたしはレスリングのタップのように叩いた。
七海はゆっくりと身体を起こす。
「ふぅ~、危ないところだったね」
七海はあたしの肩を押さえたまま、上からそう言った。
彼女のセミロングの髪が、ハラハラと流れるように落ちる。
な、なんか、逆光の七海が、ヤケに妖艶に見えるんですけど・・・
「でも、いきなりなんでビックリしたよ。七海がおかしくなったのかと思った」
「中上君達が急に表れて、美園に言う時間が無かったんだよ。それに・・・」
七海が怪しく笑った。
ちょっとゾクっとする。
「美園の唇、良かったよ。柔らかかった・・・」
ちょ、マジで、ちょっと待て。
七海、まさか、あんた、その気がある子じゃないだろうな?
七海はくるりと体勢を変え、あたしの隣に座り直した。
「でもあの感じなら、中上君達は気づいていないでしょ。良かった、良かった!」
まあ、確かに。
七海はあたしに覆いかぶさってキスしていたから、あの二人からは
あたし達の顔は絶対に見えない。
その点については問題ないが・・・。
でも、これ、アタシにとって
「ファースト・キス」なんだよね・・・
いや正確には、幼稚園の頃に、
あたしは兵太と『Chuu』した事があるらしい。
兵太のおばさんが、そう言っていた。
だがその事は、あたしも兵太も覚えていない。
よってそれはノーカウント、無効試合だ。
つまりあたしにとって「記憶のあるファースト・キス」は
「クラスメートの女同士」、
という事になる。
あったま痛いなぁ~。
あたしの恋愛体験、この先、ど~なるんだ?
この続きは、明日の朝、投稿・・・できるかな?
あと2回で、完結する予定です。




