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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
62/116

17、ミッション・インポッシブル ―何故に絶叫系テーマパーク?―

久しぶりに帰宅部に戻れた!


クラブ活動も悪くはないが、やっぱりあたしは

「自分の時間を自由に使える帰宅部」の方が、性に合っている。


もっとも土曜日に都リレー大会があったばかりなので、

身体はヘロヘロだ。


よって今週は紫光院様へのお弁当作りも免除させて貰った。

今週くらいは、ゆっくり骨休みしたい。


「ねぇねぇ、美園。もう臨時陸上部員は終わったんでしょ?」


例のごとく如月七海が、そう話しかけて来た。


「うん、やっと、ね。お役御免だよ。これで肩の荷が下りたぁ~」


あたしも開放感から、思わずそう答えた。

あたしが仕掛けた「ワックス転倒事件」は、学園内でもかなりの大事件となっていたし、

それで迷惑をかけた咲藤ミランと陸上部には、謝罪と罪滅ぼしが必要だった。

そのためにあたしは、二週間という期間限定で「臨時陸上部員」となり、

咲藤ミランの代わりに、都リレー大会に参加したのだ。


あたしは何とか、彼女達の期待通りの結果を残し、

”惜しまれながら”陸上部を去ることが出来た。


そして咲藤ミランは約束どおり、

「セブン・シスターズの中心人物・雲取麗華が、これ以上あたしに手を出さないよう、取り成してくれた」のだ。


もっとも渋水理穂のヤツは、まだ何を仕掛けてくるか解らないが、

とりあえずは

「学園の女王軍団であるセブン・シスターズから睨まれなくなった」

というのは精神的にもありがたい。

これで安心して学園生活をエンジョイできるってもんだ。


「じゃあさ、さっそくだけど、今度の土曜日に遊びに行かない?」


う~ん、久しぶりにゆっくり休める土日なんだけどなぁ。

出来れば、家でゴロゴロしたい。

でも、いつも七海の誘いも断ってばかりだからなぁ。

彼女には色々と協力して貰っているし、あんまりつれなくするのも悪い。


「う~ん、いいけど、どこに遊びに行く?」


そう聞いたあたしに、七海はパッとパンフレットを差し出した。


「コレコレ!ここ行こうよ!富士急ハイランド!」


「えっ?富士急ハイランド?」


あたしは思わず疑問符付きで聞き返した。


そりゃそうだ。

だって富士急ハイランドと言ったら

「絶叫系アトラクション」で有名なテーマパークだ。


こういう所は、カッコイイ男の子と一緒に行って、

女子は「キャァ~、怖いぃ~」

とか言いながら、しがみつくからサマになるのだ。


女子校生二人で行って、楽しめる所とは思えない。


逆に

『周囲はラブラブなカップルに囲まれて、居たたまれない可哀そうな女子二人』

になる事は、目に見えている。


「もっと違う所にしない?例えば渋谷とかさぁ。夏服もちょっと見たいし・・・」


だが七海は強行だった。


「いや、この時期が狙い目なんだって!夏休みに入ると、家族連れで混んじゃうじゃん。それにあんまり暑いとツライしさ。今くらいなら東京は暑くても、富士山の近くなら涼しいだろうし。ね、だから富士急行こうよ、富士急!」


あたしはピンと来た。

七海がここまで押し通そうとする、と言うことは、何か裏があるに違いない。


「なんでそこまで富士急ハイランドに行きたいの?何か理由があるの?」


あたしは七海の目を覗き込むようにして、そう聞いた。

七海はちょっと焦った様子を見せる。


「な、なんでよぉ。別に理由なんて無いわよ。ただ絶叫系マシンとか話題になっているからさぁ。体験してみたいなって・・・」


「七海、あたしの目を見て」


あたしはさらに顔をグッと近づけた。


「もう一度聞くわよ。な・ん・で、そこまで富士急に行きたいの?」


七海は、あたしから目線を逸らした。

しばらくモジモジしていたかと思うと、次は目を潤ませてこう言ったのだ。


「わかった・・・言うよ。酷い話なんだ・・・」


七海は一呼吸置くと、口を割り始めた。


「あたしがバスケ部の男子と付き合いだしたって言うのは、話したよね。それで今度の初デートとして、富士急ハイランドに行こうって話しになったの。でさ、バスの予約は彼が取るって言うから、富士急ハイランドの前売り券はあたしが取ったんだよ・・・」


そこで七海は軽く鼻を「スン」と鳴らした。


「でもさ、彼ったら、実は二股を掛けていたの。彼にはあたし以外にも、中学時代から付き合っている彼女がいてさ」


「え~~~っつ!」


あたしも思わず驚きの声を上げた。


高校入学して最初の彼氏に、二股を掛けられていた?

それはショックだ。

そんなゲス野郎は「慈円多学園・特別法」により、処刑されるべきだ!

簀巻きにして、東京湾にでも沈めてやれば良い。

横浜の先の『東京海底谷』あたりにでも沈めてやれば、まず見つからないのではないか?

そこで珍しい深海ザメや、ダイオウグソクムシあたりに齧られればよい。


あたしは他人事ながらも、怒りを感じて言った。


「どうして、それはわかったの?」


七海はさらに「スン」と鼻を鳴らして、目のうるうるをアップさせて答えた。


「彼が急に『今度の土曜日は都合が悪い』とか言い出して。何か様子がおかしいから、理由を問い詰めたら『中学時代の友達と出かけることになった』とか言い出すの。そして隙を見て彼のスマホを見てみたら『郁美とデート』ってスケジュールにあって・・・。問い詰めたら『中学時代の彼女だ』って。酷いと思わない?」


もう七海は本当に泣きそうだった。


酷い。本当に酷い!

デートの約束をドタキャンして、他の女とデートだなんて!

あたしは数週間前の「兵太と川上純子」の事を思い出した。

あの時の心の痛みが思い出される。

ちょっとくらいモテたからって、イイ気になってんじゃねーぞ!

ドタキャンで放置された女の身にもなってみろ!


「だからお願い。その日は誰かと一緒にいたいの。美園、一緒にいてくれない?前売り券はキャンセルできないんだよ」


目の前で泣き出しそうな友達にこう言われて、

それでも断れるほど、あたしは薄情に出来ていない。


「わかったよ。一緒に行くよ。富士急」


「ありがとう!美園!」


七海はあたしの手を取って握り締めた。

そして次にズッコケるような事を言い出した。


「それで悪いんだけどさ。その日は美園は、ジーンズかズボンで来てくれない?女の子っぽい服装で来て欲しくないんだけど」


あたしは目を丸くした。

絶叫系アトラクションだから、スカートは憚られるのは理解できるが、なぜに女子っぽい服装がダメなのか?


七海はちょっと言いにくそうに言った。


「いや、前売り券って当人しか使えないらしいんだ。だから彼氏の分は彼氏の名前で買っているから。それで美園は彼氏って事で・・・」


「ちょっと待って。なんであたしが彼氏役・・・」


そこまで言いかけて、ピンと来た。


そうか、そういう事か?

『あたしの方が胸がないから、男役をやれ』と。


途端にあたしはふくれっ面になった。

当然だ。

さっきまでの同情心も50%は消滅した。


七海がそのつもりなら、あたしの方も言いたい事は言わせて貰おう。

あたしは万年金欠状態だ。


「でもさぁ、あたしもお金が無いんだよね。そういう事情なら、タダとは言わないけど、チケット代は半額くらいにしてよ!」


七海の方も、ぐっと詰まったような顔をした。

しばらく口をモゴモゴさせていたが、


「わかった。それでいいよ。でも、もし美園が『行って良かった』って思ったら、正規のチケット代を頂戴。それくらいいいでしょ?」

と逆提案をして来た。

七海も中々したたかな女だ。


「わかった。あたしが『行って良かった』って思ったらね」


仕方ない、その程度の条件なら飲んでやろう。

もっとも、あたしは絶対に『行って良かった』とは言わないつもりだが。

この続きは5/10(金)7時頃投稿予定です。

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