3、あたしの弁当が三百円なんて安すぎる!(その2)
確かに、この学校の一般学生用の学食は安くてうまい。
かけうどんなら160円だし、天ぷらそばでも200円だ。
カレーライスや牛丼は、並なら250円で、大盛りでも300円だ。
つまり300円あれば、それなりに昼飯は食えるのだ。
だがそれにしても、女子校生が手間ヒマ愛情込めて作った弁当が、三百円は酷すぎないか?
あたしは怒りに震えた。
「だったらいいよ!他の人に売るから!」
あたしはそう言って、弁当を胸に抱き、クルリと兵太に背を向けた。
「悪ぃな。俺も金がなくって・・・・・・」
兵太のその本当にすまなさそうな言い方が、胸に突き刺さった。
言っちゃ悪いが、兵太の家も普通の家だ。
両親が共稼ぎの分、ウチよりはゆとりがあるかもしれないが、
それでもこの学校のバカ高い学費を払い続けるのは、それなりに苦しいのだろう。
ウチの親だって、学費の支払い時期になるとため息をついている。
それにここで兵太に売れなかったら、他に弁当を売る相手もいない。
ええぃ、クソっ!三百円でもゼロよりはマシだ!
「わかったわよ!三百円でいいわよ!」
あたしは兵太の方に向き直り、右手を差し出した。
「え?マジでいいの?」
兵太は驚いた様子で言った。
長い付き合いですからね。
あたしが折れることは珍しいのを、よく知っている。
「仕方ない。その代わり、味に関して、的確かつ有効な感想を頂戴よね!アンタのためのお弁当じゃないんだから!」
「サンキュー!恩に着るよ」
こうしてあたしと兵太の契約は成立した。
あの時のことを思い出して、再びため息が出た。
一体、いつになったらあたしの弁当を赤御門様に食べてもらえるのか?
この学校に入学してから2ヶ月が経つ。
あたしがこの弁当手渡しレースに参戦するようになってからでも、既に一ヶ月だ。
兵太から返された弁当箱を見つめる。
弁当箱は綺麗に洗ってあった。
こいつのこういう律儀な点は認めてやろう。
「おいおい、そんなため息なんかつくなよ。せっかく食べた弁当の旨さが半減するだろ」
兵太が、あたしの思いも知らずに、無神経に言う。
「うるさい!ため息ぐらいで美味しさが半減するような弁当で、悪かったね!」
兵太はちょっとたじろいだ様子を見せた。
「いや、悪い悪い。そんな意味じゃないんだ。美園の作る弁当は美味いよ、ホント」
あたしはプイと横を向く。
あたしの方こそ、弁当を食べ続ける気が薄れた。
「でもさぁ、おまえ、この弁当作り、いつまで続けるの?もう一ヶ月になるけど、一度も赤御門先輩に手渡せたこと、無いんだろ?」
カチンと来た。
こいつはどうしてこう、無神経なんだろう。
「ウザイなぁ。だからなに?アンタに関係ある?もしあたしの弁当に飽きたって言うんなら、ハッキリそう言えば?だったら明日から契約解除で構わないよ!」
「いやいや、そういう意味じゃないよ。俺は毎日、美園の弁当を食べられてありがたいと思っているよ。たださぁ、毎日これだけの弁当を作るのって、大変だろ?いかにも手間がかかってそうじゃん。俺はおまえが無理してんじゃないかと思って・・・・・・」
あたしは無言で自分の弁当を片付け始めた。
こんな所で、兵太ごときの説教なんて聞きたくない。
そのまま立ち上がると、あたしは大股でドアに向かった。
「おい、ちょっと待てよ」
そう言う兵太の言葉も、完全に無視する。
あたしが大変だぁ?無理してるだぁ?
そう思うなら、部活の後のジュースを止めて、あたしに四百円払え!
この続きは、2/18 7時頃に投稿予定です。