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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
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15、部室にて

一週間経って、あたしの400m走も大分サマになって来た。


あたしは持久力はそれほどでもない。

よって最初から飛ばす戦略を選んだ。

後半は確かに失速するが、持久力の無いあたしが、

前半でペースを落としても、後半で巻き返す事は無理だからだ。


だから可能な限り、全力で走る。

これしかない。


リレーは個人の足の速さと同様に、バトンの受け渡しも重要だ。

バトンを落としてしまったら、少々の足の速さなんて帳消しになってしまう。

よってバトンパスの練習も徹底的にやった。

ド素人のあたしは、バトンパスで失敗する可能性も高いからだ。


「テイクオーバーゾーン」と呼ばれる20mの区間で、確実にバトンの受け渡しをせねばならない。

バトンの渡し方は、一番ベーシックと言われる「オーバーハンドパス」だ。

次走者は後ろに手を伸ばし、前走者はその手に押し付けるようにバトンを渡す。


あたしも400m走のコツと、バトンの受け渡しのコツをつかんで来た事で、

タイムは徐々に上がって来た。


それにつれて、最初は敵意むき出しだった女子陸上部の連中も、

あたしと打ち解けるようになってくれた。

今ではそれとなく、冗談も言える間柄だ。


ある日、あたしだけフォームについて咲藤ミランの指導を受けていた。

よって他の連中が帰ってから、二人だけで部室で着替えていた。


「なあ、天辺は剣道部の紫光院涼が好きなのか?」


突然、咲藤ミランがそう聞いて来た。

あたしはビックリして、着替えの手が止まる。


「え、ええ。カッコいいし、優しいし、いい人だなって思ってます」


何ともあいまいな答え方だ。


「紫光院が優しいって、割と珍しい意見だぞ」


咲藤はそう言って苦笑いした。だがすぐに次に質問が飛んでくる。


「あたしが聞きたいのは、天辺が本当に紫光院と付き合いたいと、思っているかどうかだよ」


あたしは返答に詰まった。


このマイル・リレーの練習が始まってから、あたしは紫光院様にはお弁当を届けていない。

肉体的にも時間的にも、そんな余裕はない。

この事は、紫光院様にも直接言ってある。


それと『紫光院様の思い出の料理対決』の後で、菖蒲浦あやめと話し合い、

あたし以外の女子も、紫光院様にお弁当を届ける事にしたのだ。

火曜はあたし、金曜は菖蒲浦あやめ、月曜は部活中で剣道部女子がお弁当を渡している。


「気を悪くしないで、聞いてもらいたいんだが・・・」


咲藤は陸上競技用のユニフォームのブラトップを脱ぎ、その豊かなバストをむき出しにしたまま言った。


「もしかしたら、天辺の本心はそうじゃないんじゃないか、と思ってな」


「どういう意味ですか?」


あたしはちょっと警戒しながら、そう聞いた。

この前まで、赤御門様のお弁当お届けレースに参戦していた事を、言っているのだろうか?


咲藤ミランは、まるで調理用のボールを二つ並べたようなブラジャーを身に着けた。

あたしの方をふり向く。


「天辺は、同じ中学から来た男子と、仲がいいんだろ?」


なぜ彼女が兵太のことを?

あたしは制服を手にしたまま、あまりに予想外の質問に固まってしまった。


「いえ、仲がいい訳じゃないです」


しばらくして、あたしは小さいがハッキリした声でそう答えた。


「幼馴染で仲がいい、って聞いたんだがな」


咲藤はブラウスに袖を通しながら、そう言う。

やがてポツリと独り言を言うように、話し始めた。


「あたしは、赤御門凛音と幼馴染なんだ。2人とも中学まではインターナショナル・スクールに通っていてね」


あたしはビックリして、咲藤を見た。

初耳だ。

咲藤ミランと赤御門様が幼馴染?


「中二までの凛音は、可愛い顔はしていたけど、背はそれほど高くなかった。それであたしの方が、凛音を引っ張り回していた感じだったな」


あたしは無言で、彼女の言葉を聞きながら着替えを続けた。


「中学三年の時に、一度凛音に言われたんだ。『付き合って欲しい』って。だけどあたしは照れ臭さもあって、それを断っちまった。だって小学校一年の時から、ずっと一緒に遊んでいた仲なんだ。今更付き合うだの何だのって、なんか、な。それに心のどこかで『凛音はもう一度、自分に告白に来る』って言う甘えみたいなものがあったのかもな・・・」


彼女は下を向いてブランスのボタンを留めながら、自嘲気味にそう言った。


「凛音は中三から背がグングン伸びて行った。高校に入ってからは、おまえも知っている通り、学校中の女子から追いかけられる人気者だ。今じゃ『ファイブ・プリンス』と呼ばれる人気ナンバーワン男子だ。今更、あたしが入る余地なんて無かったよ」


「でもこの学校では、お弁当を十回連続で渡せば、結婚前提の交際になりますよね。咲藤先輩もそれに参加してるし」


あたしがそう言うと、咲藤ミランは苦笑いしながら、首を横に振った。


「あれは建前だよ。凛音は優しいからな。絶対に特定の女子から十回連続にならないように、交代で弁当を受け取っている。だからアタシ達も未だに決着が着いていない訳だ。それにあたしは周囲には『陸上部にスカウトできる足の速い女子を見つけるため』と言う名目で、あのレースに参加してるんだよ」


あたしも咲藤も、ほぼ同時にスカートを身に着けた。

腰の横のファスナーを上げる。

咲藤ミランの話が続く。


「赤御門凛音の家は、戦前は財閥で現在も商社だ。あたしの家はエネルギー関連の企業。昔は親同士も仲が良くて『将来は子供たちを結婚させよう』なんて話もあった。しかし情勢が変わって、赤御門の家は中国・東南アジアに強い貿易会社と手を組むようになった。その相手先が雲取麗華の家さ」


そう言った咲藤の表情は、どことなく寂しそうだった。


「でも、咲藤先輩は、本当に赤御門先輩の事が、好きなんですよね?」


あたしがそう聞くと、彼女は何も言わずに黙っていた。

どう答えるべきか、わからなかったのだろう。

次に口を開いた時は、別の事だった。


「男って、一度プライドを傷つけると、もう二度とその相手には近寄って来ないのかもしれない。あの時、あたしが素直になっていれば・・・」


そこで彼女は唇をかんだ。

男勝りで気風のいい、咲藤らしくない態度だった。


「天辺。もしおまえが誰かに意地を張っているなら、それは止めた方がいい。素直な気持ちで失敗しても、それは諦めがつく。だが変な意地やこだわりでチャンスを逃すと、後々後悔するよ・・・」


着替えが終わった咲藤ミランは優しい目で、あたしにそう言った。


あたしも着替えが終わり、胸のリボンを結ぶ。

あたしは何も返答することが出来なかった。


あたしは、兵太に対して、意地を張っているんだろうか?

この続きは5/6(月)8時頃投稿予定です。

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