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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
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14、地獄だ、マイル・リレー!

マ、マジで地獄だ・・・吐き気がする・・・死ぬかもしれない。


あたしは周囲が暗くなるような気がした。

四つん這いになって、グラウンドに倒れ込んでいる。

貧血を起こした時に似ている。


「天辺、一気に止まるな。出来れば歩いて呼吸を整えるんだ」


咲藤ミランの声が聞こえたが、そんな余裕はない。


いま、400mを一本走った所だが・・・その苦しさは並みじゃなかった。


最初の100mは楽勝だった。

200mもそれほど苦じゃなかった。


まあ『お弁当お届けレース』も、階段アリで200mだしな。


だが後半200m、特に最後の100mは苦しいなんてもんじゃない。

筋力的・持久力的な苦しさもそうだが、呼吸が持たないのだ。


ラスト・スパートなんて、かけられたもんじゃない。


・・・大変な事を承諾してしまった・・・


あたしは早くも、昼飯時の事を後悔していた。


・・・


昼休み、女子陸上部の部室で、咲藤ミランはあたしにこう言った。


「天辺美園。あたしの代わりにマイル・リレーの選手として出てくれないか?」


予想もしない咲藤の申し出に、あたしは面食らった。


あたしが部活?このあたしが?いまさら?


確かにあたしは足が速い。

自慢じゃないが、運動部の女子にも簡単には引けを取らないだろう。

クラスでもトップレベルだ。

中学時代も、何度も陸上部に誘われた。


だがハッキリ言おう。

あたしは「疲れること、面倒くさいこと」が大嫌いなのだ!


プラス、中学時代は名門でもある慈円多学園に合格するために勉強があったし、

高校になってからは「お弁当お届けレース」のために、夕方の買い物があった。


よって部活動に参加している時間はない。


それと・・・あたしは周囲を見渡した。

やっぱりだ。


女子陸上部の多くが、あたし同様に「胸に乏しい女の子」だった。


短距離は体がゴツくなる。長距離は胸が小さくなる。

そりゃ中には咲藤ミランみたいな巨乳女子もいるが、彼女は例外中の例外だ。

まだ成長期にある(ハズ)のあたしのバストに、マイナス要素を入れる訳には行かないのだ。


「もしあたしのこの願いを聞いてくれたら、あたしも一つ天辺の手助けをするよ。天辺は雲取麗華たちに睨まれているんだろう?このワックス事件も含めて。それをあたしが責任持って解消してやるよ」


だが咲藤ミランのその言葉を聞いても、あたしはすぐに同意できなかった。

これ以上、胸が小さくなるくらいなら、この場でリンチの方がいい。


でもなぁ、咲藤ミランがケガをして、リレーに出られなくなったのは、あたしの所為だしなぁ。


戸惑っているあたしを見て、咲藤ミランは最後の提案をして来た。


「このままずっと陸上部に入れって言う訳じゃないんだ。二週間後のリレー大会まででいい。それでどうだ?」


彼女の目は真剣だった。


仕方ないよなぁ。

だって、これはあたしの責任なんだから。

二週間くらいなら、あたしの心配事項もそこまでに影響はないだろう。


「わかりました。やります」


あたしは小さい声でそう言った。


・・・


と言う訳で、今のこの事態となったのだ。


放課後からさっそく陸上部の練習に混じる事になった。


ちなみにあたしが参加するのは、4×400mリレー、

通称「マイル・リレー」と呼ばれる競技だ。

四人が交代で、一人が400mを走る。


どうやらこの種目は、国体には無いらしい。(オリンピックにはある)

よって今度の「東京都リレー大会」のみだ。


国体の短距離種目を疎かにできないので、咲藤ミランはマイル・リレーは見送る事にしたのだ。

しかし4×100mリレーと違って、おいそれと変わりの選手はいないと言われた。

そこで咲藤ミランは

「普段から200mを走り込んでいて、咲藤に追従できる脚力」

を持っているあたしに目を付けた、という事だ。

・・・ありがたいんだか、迷惑なんだか・・・


しかし・・・しかし、こんなにハードだとは思わなかった。

400mって、人間が全力で走る距離じゃないんじゃないか?


「どーした?イケメン男子がいないと、本領発揮できないか?」


咲藤ミランのハッパがかかる。


ちっくしょう、そこまで言うか?


あたしは歯を食いしばって立ち上がった。


だが歩こうとした途端、お尻の筋肉が突っ張るような感じがして、そのまま前に倒れる。

危うい所で、咲藤が支えてくれた。


「400mを全力疾走すると、そうなる時があるんだ。出来ればすぐには止まるな」


一応、これでも事前に入念な準備体操はしている。

また咲藤ミランが、あたし用の特別メニューを組み立ててくれていた。


普通の歩幅より広く一定間隔で線を引き、その間を一歩で走るようにする練習。

(「バウンティング」と言うらしい)

そして咲藤いわく

「天辺は全力疾走時に、左に軸がブレるクセがある」

と言う事だった。

よって走る時に、前をまっすぐに見て走る練習。

また両手を頭の後ろに組んで台の上に飛び乗る練習。

あとは100m、200mの短距離走だ。


100m走で、副部長の斉藤カノンとほぼ同時だった時は、

さすがに他部員からも感嘆の声が出た。


だが初めて走る400mは別物だった。

あたしは一緒に走った他4人から、大きく離されてゴールした。


そんなあたしに咲藤ミランが言う。


「全力で走ればいい100m走と違って、400m走は配分がいるんだ。最初から全力だと後半はバテてしまうし、前半を押さえすぎていると後半で巻き返せない。天辺はまず400mで自分にとって一番いいタイムが出る走り方を探してくれ」


ヘバり切っているあたしに、彼女はそう言ってくれた。


・・・


ようやく部活の練習から解放され、

あたしは痛む身体を引きずるようにして、家に帰った。

普通に歩くことすら、ままならない。

さっきは一度、駅の階段で足が攣った。


これでもあたしの練習量は、他の部員の半分以下にして貰っているのだ。


・・・こんな調子で、あと二週間も持つんだろうか・・・


あたしは本気で不安だった。

明日から都リレー大会までの間、学校を休んでしまいたいくらいだ。


家に帰ったら、まず風呂に入る。

咲藤ミランが

「筋肉痛になっても、自分でマッサージはするな。むしろ温めの風呂に入って、軽く筋肉をストレッチする方がいい」

と言ったためだ。


湯舟の中で、足を軽く屈伸させ、さらに上体を折り曲げるストレッチを行う。

うう、身体がギシギシ言うような気がする・・・


ゆっくり一時間近く風呂に入っていた。

その後に夕食だが、あたしの意識は既に宇宙の彼方に飛んでいた。

何を食べたかすら、覚えていない。


その日はそのままベッドに潜り込んだ。


・・・咲藤ミラン、こんなハードな練習をして、お弁当造りまで、よくやるよ・・・


これがこの日の最後の意識だった。

この続きは、5/5(日)8時頃、投稿予定です。

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