13、ピンチ再び!陸上部の呼出!(後編)
「あたしは女子陸上部・副部長、斉藤カノン。咲藤さんが来るまでに、聞きたい事があるの」
そこで彼女はキッと、あたしを睨みつけた。
「赤御門先輩の『お弁当お届けレース』で、全員を転倒させるようにワックスを塗ったのは、あなたなの?」
やっぱり、その話か・・・
あたしはため息を一つついて言った。
「ええ、そう」
周囲の女子部員が息を飲んだ。
だが次の瞬間、一斉にあたしに対する罵声が飛ぶ。
「何てこと、するんだよ!」「アンタ、自分が何やったか、わかってんの!」
「ふざけんなよ、この女!」「卑怯にも程があるだろ!」
「アンタのお陰で、コッチは大変な事になってんだよ!」
あたしは小さくなって聞いていた。
仕方ないよな・・・だってあたしが百パーセント悪いんだもん。
もっとも相手が手を出して来たら、やり返すつもりだったが。
ところで「大変な事」ってなんだ?
あたしはそっちが気になった。
副部長の斉藤カノンが、みんなを止めた。
だが変わらずあたしを厳しい目で睨みつける。
「天辺さんが、既に真・生徒会から懲罰を受けたって話を聞いている。でもあなたのお陰で、こっちは大変な迷惑を受けているのよ。このまま済ます気はないわ」
あたしは顔を上げた。
「大変な迷惑ってどんな・・・」
その時だ。部室のドアが開いた。
「天辺が来ているんだって?」
そう言って現れたのは、咲藤ミランだ。
「悪い、待たせ・・・」
咲藤ミランの言葉は、そこで止まった。
部員たちが、あたしを取り囲んでいる様子を見て、目を丸くする。
「何やってるんだ?おまえたち・・・」
あっけに取られたように、咲藤ミランは言う。
それに答えたのは斉藤カノンだ。
「咲藤さん、お待ちしてました。いま、天辺さんに事実を確認していた所です。これから、しかるべき方法でどう責任を取って貰おうかと・・・」
「なに馬鹿なことを言ってるんだ!」
咲藤ミランが怒鳴った。
「この状況を見てみろ!まるで全員で天辺を吊し上げているように見えるじゃないか!」
「でも咲藤さんがケガをしたのは、天辺さんの所為なんですよ!だからみんなで相談して、天辺さんに責任を取らせようと」
「あたしが何時、こんな事をしろって言ったよ!」
「この前、咲藤さんが『天辺さんと話がしたい』って」
「バカっ!そりゃ違う意味だ!」
あたしは二人のやり取りをあっけに取られて見ていた。
話が何だか違う方向に向かっている・・・
咲藤ミランがあたしの前に来た。
「せっかく来てくれたのに、すまなかったな、天辺。陸上部のみんなは、あたしのためを思ってやった事なんだ。あたしが代わりに謝る。ごめんな」
あまりに急な展開であたしもどう反応していいか、戸惑ったが、すぐに謝り返した。
「いえ、とんでもないです。あたしが『転倒事件』を引き起こしたのは事実なんで。私も今日は咲藤さんに謝りに来たんです。一度キチンと謝罪しないと、と思っていて」
咲藤は苦笑した。
「あれは確かにやり過ぎだったな。前の経緯がある事は、何となく聞いてるけど・・・」
「本当にすみません。それで咲藤さん、ケガしていたんですか?」
あたしは深く頭を下げた後、咲藤の様子を伺うように言った。
「ん・・・まあな。あの時にちょっと足を捻ってしまってね」
その後を斉藤カノンが引き継いだ。棘のある表情で、あたしを睨み続けている。
「咲藤さんは、そのせいでしばらく練習が出来なかったのよ。大きなケガではないけど、軽視して無理もできない。そのせいで今度の都リレー大会には出場できなくなりそうなのよ」
うっ・・・
あたしは言葉に詰まった。
あたしのあの罠の所為で、そんな重大事を引き起こしていたなんて・・・
咲藤もちょっと残念そうな顔で言った。
「国体の予選会もあるからな。あまり無理は出来ない。マイル・リレーに出るつもりだったんだが、400mのため、他の部員を急遽出す訳にも行かないんだ」
あたしは何も言えなかった。
これはあたしの所為だ。
完全にあたしの責任だ。
あたしの所為で、彼女達の部活動の一つを潰してしまったのだ。
「本当に、本当に、ごめんなさい」
あたしは深く九十度以上に頭を下げた。
イスに座っているから膝に顎が付くまでだ。
土下座したいくらいだった。
「終わってしまった事は仕方がない。それであたしは天辺に相談があったんだ」
あたしは顔を上げた。
あたしに何かできる事があるんだろうか?
罪滅ぼしになるような・・・
咲藤ミランは真剣な表情で、あたしにこう言った。
「天辺美園。あたしの代わりにマイル・リレーの選手として出てくれないか?」
この続きは5/4(土)8時頃投稿予定です。




