13、ピンチ再び!陸上部の呼出!(前編)
「バッカじゃないの、何でそんなこと言ったのよ!美園!」
七海が、怒り50%・呆れ50%の割合くらいで、そう言った。
そう、昨日の「紫光院様思い出の料理・対決」の後で、紫光院様と話した事を、七海に伝えたところだ。
「あたしは勝ったとは思っていません。ドローだと菖蒲浦さんに伝えてください」
あたしは頭を抱えた。
やっぱりなぁ。
ちょっとイイカッコし過ぎたかもしれない。
あたしも、後でそう思ったんだよなぁ。
あそこは素直に、紫光院様に単独猛アタックをする所だったか?
「せっかくのチャンスを、自分から潰してどうするのよ、バカ!」
う、う、う、責めないでくれぇ~。
あの時は、あの場の雰囲気に流されちゃったんだよぉ。
あたしは机の上に倒れ込むと同時に、深いため息をついた。
「せっかく、あたしが色々と協力してあげたのに」
七海もため息まじりにそう言う。
ちょっと待て。七海、そう言うほど、何か協力してくれたっけ?
だがあたしは、それを口に出す勇気は無かった。
「それで美園は、今日も紅茶とコッペパンだけの失恋弁当な訳ね」
今はお昼の時間。
あたしは家から持ってきた紅茶の水筒と、コッペパンの二つを、机の上に出している。
「だから~、その『失恋弁当』って止めてよ。あたしは別に失恋なんて、してないって」
あたしは弱弱しく反論する。
「同じでしょうが。せっかく苦労して紫光院様の『思い出の料理』を再現出来たっていうのに、それがパーになったんだから」
あたしはコッペパンの袋を破った。
モショモショと齧る。
ま、まだ「パー」にはなってないよ。
これからなんだから、これから・・・
そんな時、教室の後ろのドアから、ジャージ姿の見知らぬ女子四人がドカドカと入って来た。
一瞬「またもや近衛兵か?」と身構えたが、すぐに違うことはわかった。
しかし彼女たちはあたしの席を取り囲むと、厳しい表情でこう言ったのだ。
「あなたが天辺美園さんね?あたし達は女子陸上部。部長の咲藤さんが話があるって言うの。ちょっと来てくれない?」
言い方は一応依頼の形だが、彼女達の発するオーラは強制に近いものだ。
七海がビックリして声を上げた。
「ちょっと美園、今度は何をやったのよ!」
いや、何もやってないよ。
でもヤッパりアレだよなぁ。『ワックス大転倒事件』・・・
あたしは下を向いたまま、コッペパンをモショモショしていた。
「食事中で悪いんだけど、出来ればすぐに来て」
陸上部の一人がそう言った。
もはやこれは依頼ではなく、命令だ。
だけど仕方ない。
これは行くしかないだろう。
それにあたしは、何となくだが、咲藤ミランは話せばわかってくれるような気がしていた。
いや、話しても、あたしが仕掛けた罠なのは事実だから、変わらないか?
ただやはり彼女には、キチンと謝罪しておくべきだと思ったのだ。
「わかった、行くわ」
あたしはそう言うと、食べかけのコッペパンを置いて立ち上がった。
「大丈夫?あたしも一緒に行こうか?」
七海が心配そうにそう言ってくれる。
「平気。大丈夫だよ。ありがとう」
あたしはそう答えた。
今回は謝罪するしかないし、外部の人間でリンチって事はないだろう。
陸上部の四人に取り囲まれるようにして、彼女達の部室に入る。
女子陸上部には用具室とロッカールーム、シャワー室も完備された豪華な部室だ。
もっとも慈円多学園の場合、他の部室もほぼ同程度の設備があるが。
用具室と言っても、ミーティングも行われるくらい広い。
女子陸上部に入ると、既にそこには他の部員達も勢ぞろいしていた。
それを見て、あたしは顔がヒクつく。
・・・ヤバイ、これはやっぱりリンチコースかな・・・
「そこに座って」
あたしを呼びに来た一人が、中央にあるパイプ椅子を指さした。
あたしは言われた通り、そこに座る。
仕方ない、どうにでもなれ、だ。
「咲藤さんは?」
あたしがそう聞くと、やはり同じ女子が答えた。
「いま呼びに行ってる」
部員たちがあたしの周りを取り囲んだ。
あたしを呼びに来た女子が正面に立つ。
「あたしは女子陸上部・副部長、斉藤カノン。咲藤さんが来るまでに、聞きたい事があるの」
そこで彼女はキッと、あたしを睨みつけた。
「赤御門先輩の『お弁当お届けレース』で、全員を転倒させるようにワックスを塗ったのは、あなたなの?」
この続きは明日5/3(金)8時頃投稿予定です




