11、紫光院涼へのお弁当お届け対決、推理(その2)
家に帰って、買って来た食材をそれぞれ試してみる。
味は「塩コショウをつけただけのもの」と「甘ピリ辛のもの」の二種類だ。
和牛の赤身部分、熟成肉、鶏肉の各部位、マグロ、カジキ、サメ、カワハギを、
それぞれ一つずつフライパンで焼き、
味を付けてしばらく放置する。
お弁当で食べるのと同じ状態にするためだ。
食べてみるが、やはり牛肉は牛肉、魚は魚の味と食感だと思う。
確かに牛肉の赤身とマグロは似てなくはないが、間違えるほどだろうか?
「う~ん、やっぱり肉は肉、魚は魚だねぇ。子供でも間違えないと思うけど」
一緒にあたしの家まで着いて来た七海も、そう言った。
ハァ~
あたしはソファに身体を投げ出した。
これでダメだとすると、やはり珍しい食材か、加工食品という事になってしまう。
だがこの世に星の数ほどある加工食品を、一々調べている時間も予算もない。
「やっぱり紫光院様の記憶違いかもしれないね」
七海がそう言うのを、あたしは黙って聞いていた。
・・・
ある日の夕方のことだ。
その週の日曜が「剣道大会の予選日」、つまり「紫光院様、思い出弁当勝負」の日でもある。
その週は父親の帰宅が早かった。
家族で夕食を一緒に取る。
母親があたしを呼んだ。
「美園、オーブンからマグロのカマ出して!」
「は~い」
こういう時に愛想のいい返事を返しておかないと、
また小遣いを前借する時に、障害となりかねない。
と言う訳で、夕食前はテキトーに負担にならない程度に手伝う事にしている。
(嫌な時は「宿題がある」と言って、自分の部屋に逃げ込む!)
父親、母親、あたしが食卓についた。
お姉ちゃんは今日は大学の飲み会だ。
あたしはマグロのカマをオーブンから取り出し、大皿に乗せながら考えた。
・・・やっぱり肉に一番近いのはマグロだよな。マグロの角煮にでもするか?・・・
食卓にはホイコーロー、ホウレンソウのゴマ和え、ポテトサラダ、そしてマグロのカマだ。
ご飯があるのはあたしだけ。
父親と母親は、まず缶ビールだ。
実はあたしはマグロのカマは、あまり好きじゃない。
食べると美味しいとは思うが、分厚い皮を取って、骨から肉をほじくるのが、面倒くさいのだ。
手が脂でベトベトするし。
だがビールを飲みながらチビチビ料理をつまむ父親は、マグロのカマが大好物らしい。
母親も大抵缶ビール一本は付き合うが、その時は一緒につまんでいる。
母親が言った。
「今日はスーパーでマグロのカマが安かったのよ。カマも大きいし」
「おお、旨そうだな」
そう言って父親は、オーブンでじっくり焼いたカマの皮を剥いだ。
その時だ、あたしの眼はカマに釘付けになった。
皮の下の、骨に隠れるように付いている身の部分だ。
茶色いその身は、まるで肉のように見えた。
「ちょっと待って!」
あたしはそう言うと、マグロのカマの皿を自分の方に引き寄せ、骨についている茶色い肉を丁寧にほじくり出した。
ズルリ
と魚にしては、大きな肉が塊りとなって取れる。
その茶色い肉にはゼラチン質の透明が部分が付いていた。
そのまま何もつけずに、少し食べてみる。
・・・肉っぽい!
あたしは続けて醤油につけて食べてみた。
さっきよりは焼き魚っぽくなったが、肉っぽい感じもする。
調味料入れから塩コショウを取り出し、振りかけて食べてみた。
するとかなり肉っぽい味がした。
食感も普通の魚よりは肉っぽい感じだ。
ゼラチン質が、いい具合にコクも出してくれている。
・・・コレじゃないか!紫光院様が言っていた肉っぽい魚って!・・・
正直、思っていたより魚感が強いが、まあ牛肉と食べ比べていなければ、
「肉みたいな魚みたいな」と思えなくもないだろう。
マグロのカマなら時々、普通のスーパーにも大量に出回っている時がある。
紫光院様が言っていた「特別な食材じゃない」にも合致している。
あたしは今まで、マグロのカマが出た時は、皮や骨からほじくるのが面倒臭く、
内側の白くて柔らかい部分を主に食べていたから、気付かなかったのだ。
・・・よし、コレで行こう・・・
マグロのカマの大皿を前に、ニンマリと笑うあたしを、
父親も母親も奇異な目で見ていた。
この続きは、明日4/28(日)8時頃、投稿予定です。




