10、紫光院涼へのお弁当お届け対決、開戦
翌日、登校中の電車の中。
あたしは慈円多学園の非公式学校新聞
「慈円多ジャーナル」のサイトを見ていた。
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ファイブ・プリンスNo3、紫光院涼へのお弁当対決、始まる
昨日、真・生徒会により、
ファイブ・プリンスNo3である紫光院涼への
『お弁当お届け対決』が開催される事が決定した。
しかし今回は、他のファイブ・プリンスと同じレース形式ではない!
『紫光院涼の思い出の手料理を再現する対決』なのだ!
正式な詳細は慈円多新聞から発表されると思うが、
「慈円隊ジャーナル」では、
その情報をいち早くキャッチしたので、
読者の皆さんにお伝えしたい。
紫光院涼の思い出の手料理とは
『肉みたいな、魚みたいな食材』だそうだ。
紫光院涼の母親が時折お弁当に入れてくれたものらしく、
彼にとっては『試合に必勝の験担ぎ料理』らしい。
味付け自体は、塩コショウで味付けしたか、または甘辛い味の
二種類というシンプルなものらしい。
これまでの『お弁当お届けレース』は、脚力・体力を競う勝負だった。
だが今回は「知識と創造力を働かせる頭脳勝負」だ!
今までお弁当お届けレースを、
指をくわえて見ていた頭脳派文化系女子も、
今回ばかりは見逃す手はない!
なお期日は「再来週の日曜に、剣道大会の予選の正午」まで!
それまでに紫光院様へ、思い出料理をお弁当として届けた人が勝者だ!
さあ、あなたも『紫光院涼の思い出料理対決』に参戦して、
大病院御曹司で理系トップのイケメン剣士のハートをGETするのだ!
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あたしはため息を着いた。
・・・どえらい事になってしまった・・・
あの『査問委員会』で出した雲取麗華の結論が、これだったのだ。
紫光院様が、あたしに頼んだ
「母親の思い出の味の再現」
しっかし不思議なのは、
なぜあの話を雲取麗華が知っていたのか?
という点だ。
どこで誰が、あの話を聞いていたのだろう?
あの会話は、あたしと紫光院様しか知らないはずなのだが。
状況から推理すると、渋水が盗み聞きしていたと思えるが、それも確かじゃない。
まぁそんな事はどうでもいいか。
この勝負はもはや始まってしまったのだから。
あの場で、あたしが知っている事は
「勝負の公平性のため」という事で、全て吐かされた。
と言っても
「肉みたいな魚みたいな食材」
「味付けは、塩コショウか、甘辛い味の二種類」
「小学生の時、紫光院様の大事な試合の時に、お弁当に入っていた」
程度しか知らなかったが。
紫光院様自身も、それ以上の詳しい事は言えなかった。
またもう一つ、新たな情報があった。
この勝負にセブン・シスターズの一人、
菖蒲浦あやめが参戦すると言うのだ。
菖蒲浦あやめは、華道部の部長だ。
長い艶やかな黒髪に、透き通るように白い肌、そして大きな二重のパッチリ目で、人形のような整った顔立ちをしている。
そして華道部だけあって和服が良く似合う美人だが、意外な事にスタイルもいい。
和服は胸が大きいと似合いにくいが、
菖蒲浦あやめはその適度な形の良さそうなバストと相まって、
制服の時も清楚なスタイルの良さを披露している。
完璧女子の一人だ。
そして菖蒲浦あやめは、実は紫光院様の婚約者だと言うではないか!
だが紫光院様は
「親同士が勝手に決めた事だ。俺はそんな話は承諾していないし、あやめも同じはずだ」
と言い切った。
紫光院様の家は、いくつもの系列を持つ大病院。
菖蒲浦あやめの家は、日本でも有数の製薬会社。
両方の家が結び付くメリットは大きいのだろう。
だが反骨の剣士、紫光院様としては、そんな家の都合の言う通りに、生きるつもりは無いんだろうな。
でもそれを紫光院様が言った時、一瞬だが菖蒲浦あやめは悲しそうな顔をしたように見えた。
そんな事をつれづれと考えながら、再びため息をつきながら駅の改札を出た時。
「みっそのっ!」
と言って後ろから飛びついて来た奴がいる。
振り返るまでもなく、如月七海だ。
「おはよ」
あたしは疲れたように言った。
だが彼女は朝からテンションが高い。
「何なに?元気ないじゃん。どーしたどーした?それより、ねぇ、あたしの記事、読んでくれた?」
やっぱりこいつが書いたのか。
あたしは三回目のため息と共に答える。
「読んだよ。ずいぶん、煽ってくれてるじゃん」
「そこはもう、PV命ですから」
そう言って彼女は自分のスマホを取り出し、該当サイトのアクセス数を表示する画面を見せた。
「見て見て、ほら、朝からもうこんなにアクセスが!いっやー、これは今までの記録を更新するかもしれない」
あたしはチラッと横目で、そのアクセス数を見た。
その数が凄いのかどうかはわからないが、棒グラフは今日の所だけグ~ンと伸びている。
まぁ昨日は、危険な状況に率先して付き合って貰ったという恩義があるから、文句も言えないけど。
でも七海はこれが目的っぽかったから、昨日の事はこれでチャラだな。
・・・
あたしは七海と一緒に教室に入った。
その途端、周囲を何人もの女子に取り囲まれた。
「ねぇねぇ、慈円多ジャーナルに書いてあった事って本当?」
「紫光院様のお弁当お届け勝負が開催されるんでしょ?」
「今回はレース形式じゃなく、お弁当再現レースになるんだよね?」
「他には何か情報はないの?知ってる事があったら、こっそり教えてよ!」
「そもそも、どうやって紫光院様と親しくなったの?教えて、教えて!」
うわ、鳥の大群に囲まれているかのような、騒々しさだ。
「無い、無いよ、もう知ってる事なんて!あれで全部だから」
あたしは周囲の女子を押し分けるように、自分の席に向かった。
だがあたしを取り囲んだ女子達は、一緒に付いてくる。
七海がそれを押しとどめた。
「ハイハイ、そこまで、そこまで!美園からの情報は、みんな公平に慈円多ジャーナルに掲載するから!みんな落ち着いて、サイトの情報を見逃さないようにしていて!」
サンキュー、七海。
だけど何気に宣伝も入れてる、ウマイ野郎だ。
席に座り、何気なく後ろを振り返った時、
兵太がこっちを見ているのに気付いた。
だがあたしは素知らぬフリをして、視線を前に戻した。
この続きは、4/24(水)7時頃、投稿予定です。




