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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
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9、紫光院涼へのお弁当お届け対決、勃発(後編)

あたしと七海は、近衛兵三人に連れられて旧校舎の『第一談話室』に入った。

ちなみに慈円多学園は、新校舎は近代的な設備が揃っているが、旧校舎は戦前から残る豪奢な建物だ。

『第一談話室』と名付けられているが、その実は戦前の上流階級婦女子が社交マナーを身に着けるためのサロンとなっていた。

よって雰囲気的には、戦前の鹿鳴館を想像させるような造りだ。


部屋に入ると、正面の装飾兼備なイスに、雲取麗華を中心にしたセブン・シスターズの面々が座っていた。

そして右手壁際には、生徒会の会長である赤御門凛音様を先頭にして、ファイブ・プリンスが立っていた。


セブン・シスターズの彼女達が正面に座り、その横手にファイブ・プリンスが立っている所が、なんともこの学校らしい。


なお左手には、渋水理穂を始め、一般女生徒がズラリと並んでいる。

いずれもあたしを敵意の籠った目で睨んでいた。


あたしの顔を見た雲取麗華は、威圧するような視線を向けながらも静かに言った。


「全員揃ったわね。それではこれから天辺美園に対する査問委員会を始めます」


査問?


あたしは雲取麗華を睨んだ。

既にあたしを悪者として裁く気満々じゃないか?


「天辺さん、あなたは偶然からファイブ・プリンスの一人、紫光院涼が昼休みを過ごす場所を知った。そしてその事を誰にも知らせずに、自分一人が紫光院涼にお弁当を届けていた。間違いないわね?」


「ええ、雲取先輩と渋水さんが、あたしを懲罰を課した、あの場所でね。紫光院先輩が偶然来てくれて・・・」


「そんな事は聞いてない。余計な事は言わなくていいわ!」


雲取があたしの発言を遮った。

それであたしは察した。

おそらく雲取麗華は、「部外者によるあたしへのリンチ」までは承諾していなかったとしても、後からその事実を知ったのだろう。

これが公けになる事はマズイ、と踏んでいるに違いない。

よってあたしに余計な事を言わせずに、この査問委員会とやらを何とか終わらせるつもりだろう。

彼女の望む方向で・・・


「この学園では『男子は弁当を連続で十回受け取ったら、その相手の女子に対して生涯に渡って責任を持つ』と言うルールがある。そしてファイブ・プリンスは、学園でもトップレベルの御曹司だわ。よって全ての女生徒に公平なチャンスを与えるために『お弁当お届けレース』を開催している。一人だけの抜け駆けは認める訳にはいかないわ」


そこに咲藤ミランを口を挟んだ。


「おいおい、少しは天辺の話を聞いてはどうだ?これじゃあ、あまりに一方的じゃないか?」


「ここは一般生徒の不平不満を聞く場じゃないのよ、ミラン。事実を確認し、それに対する対処を決めれば、それでいいのよ」


「たかが一年の女子が、先輩男子に何回か弁当を渡した、ってだけの話だろ。その点だけ注意すればいいじゃないか」


「この学園では、その弁当を渡した事自体が重大事なのよ。あなたも判っているでしょう、ミラン」


中央の雲取麗華と右隣の咲藤ミランとの間で、少々険悪な雰囲気が流れる。

どうやらセブン・シスターズも一枚岩とは行かないようだ。


「くだらん。茶番だな」


それまで黙っていた紫光院様の声が響く。


「お前たちは勝手に裁判ごっこをやってろ。俺は興味が無いし、お前たちの決定に従うつもりもない。それから天辺は、俺に交際を申し込んで来た訳でもない。彼女は連続にならないように、飛び飛びに弁当を持ってきてくれたからな。お前たちの言うような『重大事』なぞ、存在しない」


そう言って紫光院様はファイブ・プリンスの列を離れ、出口に向かおうとした。

その途中で、あたしの方に向き直る。


「天辺、オマエもこんな所にいる必要はない。俺もオマエも、別にやましい事など無いんだからな」


だが雲取麗華は、席を立って叫んだ。

「待ちなさい、紫光院君。そんな勝手は許されないわ!少なくとも、この学園内では、絶対に!」


だが紫光院様は、その雲取麗華の呼びかけを無視するように出口に向かった。

慌てて止めたのは赤御門凛音様だ。


「ちょっと待て、紫光院。ここで真・生徒会と正面切って事を構えるのはマズイ」


そして紫光院様に囁くように言ったのが、かろうじて聞えた。


「おまえはまだいい。だが天辺さんの立場が危うくなる。ここは少し我慢すべきだ」


そして赤御門様は雲取麗華に向かって言った。


「もうこれ以上、この件で悪者探しはよせ!誰も得をしないし、君も紫光院や天辺さんをどうにかしたい訳じゃないだろう」


それを聞いて雲取麗華は、ストンとイスに座った。


「そうね、私とした事が興奮してしまったようだわ。ごめんなさい」


そして改めてあたしを見つめた。


「でもだからと言って、天辺さんの抜け駆けを認める訳にはいかないわ。ここにこうして、他の女子生徒から苦情も来ているんだから」


そう言って雲取麗華は、左手に並ぶ渋水たちを掌で指した。


そこで初めて、ファイブ・プリンスNo2の青磁館翔人様が口を開いた。


「どうするんだ?紫光院用の『お弁当お届けレース』を開催するのか?だがもうコース的にそれは難しいんじゃないのか?」


既に校舎内では、他の4人のレースのため、コースが設定されている。

これ以上のコース設定は厳しい。


だが雲取麗華は、余裕の笑みを浮かべた。


「心配しないで。これについては別の方法を考えているの。私が『お弁当お届けレース』を開催しても、紫光院君はそれを認めないでしょう。それなら彼自身が言った方法で、決定してもらいましょう」


紫光院様自身が言った方法?

あたしは首を傾げた。

そして紫光院様も同様にキツネにつままれたような顔をしている。


雲取麗華があたしを見る。


「天辺さん、あなたは紫光院君にある料理を作って欲しいと、頼まれているわよね?その料理を再現する勝負でどうかしら?」

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