9、紫光院涼へのお弁当お届け対決、勃発(中編)
その日一日は大変だった。
クラスに入ると、仲のいい女子は「やったね?」「どうやって紫光院様と知り合ったの?」と取り囲んで来た。
だが大半の女子は、あたしの事を遠巻きに見ている。
どっちかつーと、白い目でだ。
そして兵太もあたしの事を見ていたが、何も言って来ない。
ただじっと、あたしを見つめていた。
休み時間には、わざわざ他のクラスの女子が、あたしを見物に来た。
クソがっ!
あたしはパンダでも珍獣でもねーんだよ!
わざわざ他のクラスまで、見に来るんじゃねー!
だが本当の脅威は、放課後にやってきた。
再び、あの「近衛兵」三人が現れたのだ!
その『人目を引きまくりの「フランス貴族を思わせる詰襟制服」』をなびかせて、
またもやあたしのいる教室に入って来るなり、こう言ったのだ。
「天辺美園。真・生徒会としておまえに出頭を要求する。すぐに一緒に来い」
・・・
さすがのあたしも、顔が強張った。
この前の「部外者リンチ未遂事件」の事があったからだ。
「悪いけど行く気はないわ。部外者を引き入れるような暴力集団の言う事を聞く必要はない!」
あたしは緊張しながらも、そう言い返した。
人目の無い所に行ってからでは、遅いのだ。
「我々が暴力集団だと!」
一人がいきり立つが、もう一人がそれを止めた。
「そんな心配は無い。我々がおまえに暴力を加える事はない。真・生徒会として話があるだけだ」
あたしはそう返答した相手を睨みつけた。
「そうだね。あんたらは手を汚さないかもね。でも他の連中にやらせるなら、同じ事だよ!」
「どういう意味だ?」
あたしと近衛兵との間で、視線がバチバチと交差する。
「この前、あんた達『真・生徒会』に呼び出された時、雲取麗華はあたしの懲罰を与えると言った。その懲罰方法は渋水理穂に一任されたよね。アイツは部外者十人を学内に入れ、ソイツらにあたしを襲わせたんだ。そこを助けてくれたのが、紫光院先輩だったのよ」
近衛兵の顔色が変わった。互いに顔を見合わせる。
「それは本当か?」
「本当だよ。もっとも渋水は認めないだろうけどね。だからアタシはアンタらも、真・生徒会も信用できない。だから一緒に行く事はできない」
あたしはそう言い切った。だが他の近衛兵が前に出る。
「この学園で、真・生徒会に逆らって無事過ごせると思っているのか!」
「部外者にリンチされるより、マシだよ!」
そこで近衛兵の中でリーダーぽいヤツが言った。
「わかった。ではオマエと一緒に、誰か付いてくると言う事でどうだ?もしそんな事になりそうだったら、一緒に来た人間が助けを呼べばいい。アタシもオマエの身の安全は保証すると約束しよう」
あたしは躊躇した。
友達をこんな事に巻き込んでいいのだろうか?
そもそも、こんな危険があるのに、一緒に行ってくれる人がいるだろうか。
兵太は既に部活に行っているし、こんな時だけ兵太を頼りたくない。
だがそこに名乗り出てくれた人がいた。
如月七海だ。
「じゃあ、あたしが美園と一緒に行くよ」
あたしは七海に感謝しながらも、心配になった。
「うれしいけど・・・大丈夫?」
だが七海は平然と笑って言った。
「平気、平気。それに近衛兵の呼出なんて、滅多に見られるもんじゃないしね。それがどういう顛末になるのか、新聞部としても興味あるわぁ~」
”新聞部”と聞いて、近衛兵たちもギョっとしたようだ。
確かに、ここで変な事をしたら、学校内外に渡って、何を書かれるか分からない。
なるほど、そういう意味では、七海は見張り役兼証人として、うってつけかもしれない。
「わかった。じゃあ行くよ」
あたしは近衛兵に向かって、そう言った。
七海の友情には、本当に感謝だ。




