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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
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5、ドタキャン

今日は土曜日。

あたしは朝からずっと反省していた。


いや、正確に言うと昨日の夜からだ。


木曜日に兵太に

「あたしといて嫌なら、川上さんと一緒にいたいなら、そう言えばいい」

と言ってしまった事だ。


・・・もし本当に、これで兵太が川上さんと付き合う気になったら、どうしよう・・・


あたしは悔やんでいた。

勢いに任せて、あんなことを言ってしまった事を。


だが、明日は兵太と一緒に映画を見に行く約束の日だ。

あの約束は、まだ無効にはなっていないはず。


約束の時間や、何の映画を見るかは決まっていないが、

それは後で連絡しよう。

今日も兵太は部活のはずだ。

帰って来るのは、夜七時過ぎだろうか。

夕食を考えれば、八時か九時くらいに連絡を入れた方がいいだろう。


そして明日は素直になろう。

変な意地を張らないで、兵太と一緒にいる時間を楽しもう。


そうする事が、今の状況を打破できる、唯一の方法に思えた。


そして今は夜八時。

出来れば兵太の方から、連絡して欲しかった。

でもこんな所で意地を張っても仕方がない。


あたしが兵太にSNSのDMを打とうとした時だ。

スマホにSNSのメッセージ着信が表示された。


兵太だ。


あたしはスマホに飛びつくと、急いでメッセージを開いた。

だが、そこに並んで文字は、あたしの期待とは正反対のものだった。


>日曜に映画に行く話だけど

>明日はクラブの用事で呼び出された。

>悪いけど、映画はまた今度で。


短い、三行だけのメッセージ。


・・・なんか、思いやりの欠片も無いな・・・


あたしはスマホを持ったまま、ベッドの上に仰向けに寝転んだ。


さっきまで「明日はこうしよう!」と思っていた気持ちが、

見る見る萎んでく。


ジワッ


涙が滲んで来た。


だがあたしは身体を起こして、強く頭を振る。


いやいや、ここで落ち込んじゃいけない。

すぐ過敏に反応するのは、あたしの悪い癖だ。

兵太は本当に、クラブの避けられない用事を押し付けられたのかもしれない。

ここは気にしないようにしよう!


あたしはDMの返信を打った。


>りょーかい!

>クラブの用事じゃ仕方ないね

>じゃあ、また今度で


返信を送った後、あたしはベッドに寝転がったまま、ボンヤリしていた。


明日、空いちゃったな・・・何して過ごそう・・・


・・・


次の日曜日。

あたしは昼近くまで寝ていた。

兵太のドタキャンのせいで、昨夜は中々寝付けなかったのだ。


リビングに降りて、トーストを自分で焼いて食べる。

母親はどこかに出かけたらしく、誰もいなかった。


一人で家に居ると、余計に悪い方に考えが入り込みそうだ。

こういう時は、アクション系かホラー系のDVDでも見るに限る。

あたしはレンタルショップに行った。

だが、あたしが見たいと思うようなDVDは、全て貸し出し中だった。


仕方ない、こうなったら本でも買うか?

ちょうど気になっていたラノベが発売されていたはずだ。


だが悪い時は悪い事が重なる。

レンタルショップに併設の書店では、そのラノベは置いていなかった。


こうなったら意地だ。

隣駅のファッションビルの大型書店なら、きっとその本もあるだろう。

あたしはチャリンコを飛ばして、隣駅のファッションビルに向かった。


日曜のファッションビルは、流石に人が多い。

家族連れ、友達同士、そしてカップル・・・

女子高生で一人って、あたしくらいかもしれない。

ちょっと惨めな気がしたが、頭を切り替える。


あたしは、ここには本を買いに来たんだ!


書店で目的のラノベを買う。

二冊も買えば、今日一日は持つだろう。


帰ろうとしてファッションビルの一階を歩く。

あるイタリアン・レストランの窓越しに、

見覚えのあるTシャツが目に入った。

ちょっと距離があるが、そのTシャツの人物を凝視する。


兵太だった。


そして、そして、その前に座っているのは・・・

川上純子ちゃんだ!


2人は楽しそうに笑っていた。

2人のテーブルには、一皿のピザと、それぞれのコーヒーカップがある。


二人は本当に楽しそうにしていた。

川上純子ちゃんは幸せそうだし、兵太も優しい感じの笑顔だ。

最近はあたしに、あんな笑顔を見せたことがない。


あたしは急いでその場を離れた。

このファッションビルにいること自体が、惨めに思えて来たからだ。

このビルにいるカップルみんなが、あたしを嘲笑っているように感じる。


あたしは涙が出そうになるのを堪えて、全力でチャリを漕いだ。


家に着くと、急いで自分の部屋に入る。

部屋に入って鍵を掛けると、そのままベッドに飛び込んだ。

枕に顔を埋める。

途端に、涙が洪水のように溢れ出た。

兵太と川上さんの「楽しそうな笑顔」が、脳裏に蘇る。


本当は今日、ああして兵太と過ごせるのは、あたしだったはずなのに。


声が出そうになるのを、枕に顔を押し付けて押さえる。

あたしは、そのまま枕に向かって泣き続けた。


・・・


週が明けて月曜日。


昨夜は泣きすぎて、瞼が腫れぼったい。

兵太の顔を見るのが辛かった。

昨日のあの「川上さんと一緒に楽しそうにしていた事」を思い出してしまう。


だがここで負けちゃいけない。

クラブの用事だったら、川上さんが一緒だっておかしくない。

あくまで冷静に、冷静に。

あたしそう、自分に言い聞かせた。


昼休み、あたしは努めて平静に、兵太に話しかけた。


「お昼だよ、屋上に行こ」


久しぶりにあたしから声を掛けたせいか、兵太は少し戸惑っていた。


「あ、うん」


あたしが先に立って、階段を昇る。

兵太は黙って後ろを着いて来ていた。


屋上に着いた。


「はい、お弁当」


あたしは笑顔で兵太に手渡した。


「あ、ありがと」


兵太はあたしが笑顔なのが、少し意外なようだ。

2人で並んでお弁当を広げる。


四分の一ほど食べた所で、あたしは兵太に聞いた。


「昨日のクラブの用事って、何だったの?」


「あ、うん、買い物。試合用にスポーツドリンクをまとめ買いしたから」


「ふ~ん、一人で?」


兵太は少し戸惑ったようだ。


「あ、ああ、そう、一人で・・・」


兵太のその言葉を聞いて、あたしの手は止まった。

身体全体が硬直した。

身体が軽く震えるような気がする。


「・・・美園?」


あたしは堪らず、顔を背けて立ち上がると、

そのままドアに向かって走り出した。


「美園!」


兵太が叫んで、あたしを追いかけて来た。

だがあたしは屋上のドアを開くと、そのまま階段を駆け下りた。


もう我慢できなかったんだ。

そして、今のあたしの泣き顔を、今の兵太には絶対に見られたくなかった。


「待てよ、美園!」


兵太がさらにあたしの名前を呼んで、後を追いかけて来た。


あたしは全速力で階段を駆け下りると、兵太が追いかけて来れないように

女子トイレに飛び込んだ。

そのまま個室に入るとカギをかける。


そのまま、あたしは声を殺して泣いた。


ひどいじゃないか。

あんまりじゃないか。


ドタキャンした上、そして他の女の子と一緒にいた上、

本当の事も話してくれないなんて。


もしかしたら、本当にタダの部活の用事で、

川上さんと一緒にいただけかもしれないって、

信じていたのに。


兵太にとって、あたしってその程度の存在だったのか?


あたしは涙が止まらなかった。

こんな顔じゃ、誰にも見せられないよ!


あたしは五時間目の間中、ずっとトイレに閉じこもっていた。


この続きは4/16(火)7時頃、投稿予定です。

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