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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
40/116

4、気まずい関係

木曜日。

今日はあたしが兵太と一緒にお弁当を食べる日だ。


お弁当のメニューは、昨日、紫光院様に作った内容と同じだ。

ご飯は、ほぐしたタラコとシラスの二色。

おかずは、卵焼き、筑前煮、ピリ辛台湾風ハンバーグ、サツマイモのキンピラ、キュウリとニンジンのピクルスのキャベツ巻き。

プラス、カルシウムを補うためにサクラエビの唐揚げを入れている。


だがさっきから二人とも、ずっと無言でお弁当を食べている。


モグ、モグ、モグ


という咀嚼音が聞こえるくらいだ。


「ごちそうさま」


兵太の方が早く食べ終わった。

弁当のフタを閉じる。


「これは洗って返すから」


あたしは無言だった。


やがて耐えきれなくなったか、兵太が聞いて来た。


「なあ、怒っているのか?」


兵太はまだ、一昨日の「極悪面十人襲撃事件」を知らない。

あたしも今のところ、言うつもりはないし、言っても仕方がない。


でも本当は察して欲しかった。

あたしが危険な目に合って、怖い思いをしたって、わかって欲しかったのだ。


それが彼氏ってもんだろう?男ってもんだろう。


確かに兵太はまだ、あたしの彼氏と決まった訳じゃない。

でも『彼氏候補』であり、あたしは『彼女候補』のはずだ。

それくらい、あたしの事を考えてくれてもイイんじゃないか?

プラス、付き合いの長い幼馴染なんだし。


少しは、気を回せっつーの!


「別に」


どっかの高飛車女優じゃないけど、それしか言う事が無かった。


兵太が不満を露わにする。


「だったら、そんな不機嫌そうに黙っているなよ。前は普通に色々話していたじゃんか」


あたしはお弁当を食べる手を止めた。


「じゃあ聞くけど、川上さんとはどんな話をしているの?」


兵太の顔がこわばる。

きっと予想外の反撃だったのだろう。

でも、それがあたしの中で、一番引っかかっている事なのだ。


「な、何だよ、それ。別に特別な事とかは、話してないよ。クラブの事とか、そんな程度だよ」


兵太の返答がしどろもどろだ。


これはきっと嘘だな。

他にも色々話しているに違いない。


「良かったじゃん、兵太も。部活って言う共通の話題がある子と、一緒にお弁当を食べられて。あたしじゃ、そんな話はできないもんね」


つい、嫌みが出ちまった。

本当は、こんな負け惜しみみたいな事は、言いたくなかったんだけど。


「やめろよ、そんな言い方。美園らしくねーよ」


兵太の声も尖った。

だがあたしは、その言い草にさらにムキになった。


「あたしらしいって、何よ!これだってあたしだよ!兵太はそこまで、あたしの事を全部わかっているって言うのっ!」


あたしがピンチに陥っていたことも、気付かないクセに!


あたしは食べかけのお弁当を片付けると、無言で立ち上がった。

これ以上、ここで兵太と言い合っていたら、本当に決定的にダメになってしまいそうに思えたのだ。


「ちょっと待てよ」


兵太が慌てて立ち上がろうとする。


だがあたしは肩越しに兵太を睨むと、言わなくてもいい一言を言ってしまった。


「兵太。あたしといて嫌なら、本当は川上さんと一緒にいたいなら、そう言ってくれればいいから。あたしだって、無理してまで兵太に一緒にいて貰いたくないから」


そうして立ち尽くす兵太を残し、あたしは屋上のドアを閉めた。


・・・


「そりゃー言っちゃダメな一言でしょー」


放課後、学食のカフェテリアで如月七海がそう言った。


「わかってるよ、そんなの」


あたしはため息交じりに応える。

あたしはテーブルに肘と着いて両手を組み、その上に顎を乗せて、ストローを咥える。

残り半分になったオレンジジュースが三分の一まで減った。


「わかってるなら、何でそんなこと言ったのよ。今は川上さんとポイントを争っている微妙な時期じゃない。そんなことを言ったら、本当に中上君の気持ちが離れていっちゃうかもよ」


「やっぱ、そうなるかなー」


あたしはまた、深いため息をついた。

それでも、あたしとしては

「兵太の気持ちは、そんなに簡単に川上さんの方に行かない」

と信じたい。

だって、あたしだって、こんなに兵太に対して割り切れないんだから。


「少女マンガと違って、男って意外と女を待っていてくれないからねー」


七海がいかにも「男を知っている風」な事を言いやがった。

あたしはイラついて、コップの中の氷をストローでガツガツと突いた。

無意味な行動だが、何かしないとやってられない!


「ところでさー、美園のヒーローさんの方は、どうだったの?」


ストローガツガツの手が、ピタっと止まる。


そう、あたしは昨日の紫光院様とのことを、誰にも話していなかった。


「お弁当を渡した」


「それで?」


「一緒にお弁当を食べた」


「それから?」


「ちょっと話した」


「ふんふん」


「美味しいって言ってくれた」


「で?」


「また、作って渡すことになった」


「えーーーっつ!」


七海は馬鹿デッカイ声を出した。


「すごい進展じゃん、たったの一日で!しかもあの『学園一の堅物』紫光院涼に対して!どの女子のお弁当も受け取らない事で有名な、あの紫光院様に対して!」


「ちょっと、大きな声を出すのは止めてよ!人が見てるじゃん」


あたしは周囲を見渡した。

幸いなことに、この時間の学食にはあまり人がいなかった。

だが、どこで誰が聞いているかわからない。

「壁に耳あり、障子に目あり」だ。


「わかったわかった。で、他には何かないの?手を握られたとかさぁ」


七海は身を乗り出してくる。


「そんなの、ある訳ないじゃん!」


あたしはそこで言葉を区切り、小さい声で続けた。


「弁当を渡すために、連絡先を交換しただけだよ」


「えーーーっつ!」


また七海は大声を上げ、今度はイスごと後ろに反り返った。


「マジで?そこまで?これはもう『恋愛フラグ』立ちまくりじゃん」


あたしは顔が熱くなるのを感じて、下を向いた。


なんだろう。

紫光院様の事になると、あたしが『乙女化』しちゃう気がする。

やっぱ、出会いが出会いだったからかな?


「いっやぁ~、やるねぇ、美園ちゃん」


七海は腕を組んでニヤニヤ笑いを浮かべた。


「もうさぁ、こうなったら中上君はスパーっと切捨てちゃって、紫光院様に乗り換えたら?スパーっと!」


「ちょっと!本当に止めてよ!紫光院様だって、そんなつもりじゃないんだからさ。あたしだって『連続にならないように、お弁当を届けます』って、ちゃんと言ったんだから」


だが七海はニヤニヤ笑いのまま、首を左右に振る。


「いやいや、それは紫光院様も脈アリだって。だってどの女子のお弁当も受け取らない紫光院様が、美園の弁当だけ受け取ったんだよ。しかも次も渡す約束をして、その上、連絡先まで交換したなんて、絶対OKフラグが立ってるでしょ」


いや、紫光院様があたしのお弁当を受け取ったのは、あたしが彼のオニギリを潰してしまったからなんだが・・・


「ま、いいじゃん!中上君も美園と川上さんで迷っているんだからさ。美園も、中上君と紫光院様の両面作戦で行ったって」


その言葉は、あたしの心にグサっと突き刺さった。


そういう事なんだろうか?

あたしと兵太は、2人とも両天秤に掛け合っているんだろうか?

あたし達は、これからどうなるんだろうか?

この続きは4/14(日)8時頃、投稿予定です。

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