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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
37/116

3、お礼の気持ちはどこへ?(前編)

あたしは軽くフラつくような足取りで、自分の教室に入った。


「美園、大丈夫だったの?」


すぐに如月七海が、あたしに飛びつくように近寄って来る。


「5時間目になっても戻ってこなかったら、先生に言って探しに行こうと思っていたんだよ」


彼女の目は、本当にあたしを心配してくれていた。


・・・ありがとう・・・


あたしは口に出さず、七海の気持ちに感謝した


「何があったの?」


そう聞く七海だが、今のあたしはそれに答えるには、精神的に疲れすぎていた。


学園の女王たる雲取麗華による懲罰宣言。

憎き渋水理穂が集めた、外部の男に襲われたこと。

そしてその場に現れたイケメン・ヒーロー(ただしこのイケメン・ヒーローは冷たかった)。


ハぁ~・・・


あたしは自分の席に座ると、グッタリと上半身を机の上に投げ出した。

今はもう、何も考えたくない・・・


「昼休み、どこかに行ってたのか?」


まるっきり自体を把握しない、ノーテンキな声が頭の上から聞こえて来た。

兵太だ。


あたしは少しだけ身体を浮かす。だが顔は下を向いたままだ。


「どうしたんだ?やけにゴミとか付いているけど?落ち葉か、コレ?」


兵太が、あたしの髪の毛に触れる感触がした。

何かを摘まもうとしている。


「さわんな!」


あたしはパシッと、兵太の手を払いのけた。


「な、なんだよ。どうしたんだよ・・・」


あたしは顔を上げて、ジロっと兵太を睨んだ。

兵太は動揺した表情をしている。


アンタが川上さんと、楽しくイチャイチャしている間に、

コッチは大変な目に合っていたんだぞ。


仮にも彼女候補が、幼馴染が、十人もの男に襲われているって言うのに

「どこか行ってた?」もクソもないもんだ。


「美園、怒っているのか?川上さんのことか?」


あたしは顔を背けた。

今はもう、何も話したくない。


兵太はあきらめたのか、自分の席に戻って行った。

七海もあたしの剣幕を恐れたのか、何も言わない。


あたしは再び机に突っ伏した。

今になって涙に滲んで来たように思えたからだ。


あたしだって、この事が兵太のせいじゃないのはわかっている。

兵太に怒りをぶつけるのは、筋違いだってわかっている。


でもあたしがあんな目に合っている間、

兵太は川上さんと仲良く屋上でお弁当を食べていたと思うと、

悔しくて仕方がないのだ。


あたしが必死に助けを願っている時、やっぱり助けに来て欲しかった。


その時、あの絶体絶命の時に現れた、あの人のことを思い出した。

紫光院涼。


彼は涼し気にあの場に現れ、何事も無かったかのように、暴漢どもを蹴散らしてくれた。

もっともあたしの事も、眼中に無いかのようだったが。


紫光院様の事を思うと、何だか胸が温かくなるような、安心できるような気がする。

あたしは疲れか、安堵感か、そのまま机に伏したまま、眠りに落ちていた。


・・・


結局、5時間目は先生に起こされるまで、眠り込んでいたようだ。

授業も開始から30分は過ぎていた。


そのまま午後の授業はずっと、ボーっとしていた。


帰り時間になって、再び七海があたしに話しかけて来る。


「美園、昼からずっと様子が変だけど、昼休みに何があったの?」


あたしはポツポツと、今日の午後にあった事を話した。


「うわーっ!何それ?渋水のヤツ、そんなことまでやったの?犯罪じゃん、それ」


聞いた七海もぶっ飛んだ。

そりゃそうだ。

あたしもアイツが、あんな事までやるとは想像もしていなかった。


「でも渋水がやったって言う、証拠はないんだよね・・・」


半分、諦め気味に七海が言う。

あたしは黙ってうなずいた。


あの一件は、雲取麗華は知らない事らしいし、紫光院様は渋水理穂を見ていない。

あたしの証言だけだが、渋水は当然否定するだろう。

状況証拠しかないが、それであの女が素直に吐くとも思えない。


そこで七海が少し明るい調子で言う。


「でも良かったよね。そこでファイブ・プリンスNo3の紫光院涼様に助けて貰えるなんて!あたしなら一発で惚れちゃうなぁ」


う・・・

あたしはちょっと頬が熱くなるのを感じた。


確かに紫光院様の登場は、これ以上はないほど、最高にカッコイイ登場の仕方だった。

まぁ本当は「助けが必要な事態にならない事」が、一番いいんだろうけど・・・


「お礼、どうしたらいいかな?」


あたしがそう聞くと、七海は即答した。


「そりゃ、アンタ自慢のお弁当か、お菓子でも作って、手渡しするのが一番いいんじゃないの?」


「だけど紫光院様って、女子のお弁当を受け取らないでしょ?」


そう『紫光院涼様へのお弁当お届けレース』は、開かれていないのだ。

あたしも気になって、以前に調べてみた。


紫光院様は、全ての女子からのお弁当を受け取らない。

それどころか『女嫌い』って噂だ。

(一歩進んで『ホモじゃないか説』まである)


「う~ん、そうだねぇ。ファイブ・プリンス一の堅物だからねぇ。いや、全校一かもしれない。紫光院様に弁当を手渡した女子って、噂でも聞いた事がないもんねぇ。そうじゃなきゃ実は人気No1は、紫光院様じゃないかって話もあるくらいだしね」


七海の言う通りだった。


赤御門様は誰にでも優しい。

しかも金持ち・イケメン・スポーツ万能・成績は文系トップとなれば、女子に人気が無い訳がない。


対して紫光院様は、金持ち・イケメン・スポーツ万能・成績は理系トップとここまでは一緒だが、

「女子に冷たい、なびかない」

とくれば女子の人気が下がるのも当たり前だ。

それでも人気No3という点が、逆に紫光院様の凄さを物語っている。


考え込むようにそう言った七海だが、次の瞬間には身を乗り出して来た。


「でもさ、考えようによっちゃ、これは最大のチャンスかもしれないよ」


「どういう意味?」


七海は顔を寄せて声を潜め、指を立てた。


「今まで、紫光院様は昼休みにどうしているか、不明だった訳じゃん。それが剣道場裏の林に居る事がわかった。しかも他の女子には知られていない。つまり紫光院様にアタック出来るのは、現時点で美園しかいないって事じゃない。これがチャンスじゃなくて、何なの?」


あたしは思わず身を引いてしまった。

・・・なんてポジティブな奴・・・


「でもさぁ・・・」


あたしはチラッと、兵太の席の方を見やった。

兵太は既に部活に行っている。


そんなあたしの視線に気づいたのだろう。

七海が「無い無い」という感じで手を振った。


「ここで中上君のことを考えても仕方ないよ。それに中上君は、今は半分は川上さんと一緒にお弁当を食べているんでしょ?つまり美園と川上さんを、両天秤に掛けているんだよね?つまり美園は今はフリーだってこと。誰にアタックしようが、文句を言われる筋合いはないでしょ」


「別に兵太は両天秤って訳じゃ」


そんなあたしの言葉を遮って、七海はさらに追い打ちをかけた。


「イイって、イイって。アタシにまでそんな綺麗事を言わなくたって!ともかく今の状況では、美園が誰かに非難される立場ではないってこと」


でも、今のこの状況って、全てあたしのせいなんだよな。


沈黙しているあたしを見て、七海が肩に手を回してくる。

額と額がくっつく。


「オッケー。じゃ、こうしよう。美園はあくまで紫光院様にお礼をしたいだけ。別にお弁当を食べさせて婚約者の地位に座ろうとしている訳じゃない。何回かお弁当を渡して、それでお終い。それならイイでしょ?」


「う、うん・・・」


なんか都合がイイ解釈な気がするが、そういう事なんだよな。

このままお礼をしないで知らんぷり、って言うのも考えものだし。


あたしは後ろめたい気がしたが、結局は七海の言う通りにするしかなかった。

この続きは明日4/10(水)に投稿予定です。

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