2、雲取麗華の仕返しはハンパなかった!(美園大ピンチ編)
美園が最後に「赤御門様への弁当お届けレース」に参加した時、
必勝の策として全員を転倒させるワックス作戦を使った。
それにより美園は、真・生徒会のリーダーである雲取麗華から懲罰宣言を下される。
「天辺美園、あなたに懲罰を与えます!」
雲取麗華は、そう宣言をした。
あたしは黙ってそれを聞いているしかなかった。
なんだ?どんな懲罰が課されると言うのだ?
いくら「真・生徒会」などと名乗っても、学校の公式組織ではない。
具体的にできる事は、限られているはずだ。
「お姉さま、後はわたしが・・・」
渋水理穂が、そこで前に出てきやがった。
なんだコイツ。
いつの間に「お姉さま」なんて言うほど、雲取麗華に取り入ったんだ?
雲取麗華もそれにうなずく。
「わかったわ。後の事はここにいる渋水さんに任せます」
そう言うと雲取麗華は、もうあたしの事なんて目もくれずに、立ち去って行った。
その場に残ったのは、あたしと渋水理穂だけだ。
渋水理穂は「ふふっ」と意地悪い笑いを浮かべながら、近づいて来た。
「アンタもバカよねぇ。本当は『アタシに仕返ししよう』としたんだろうけど、セブン・シスターズ全員を敵に回すような事しちゃって」
あたしは黙って睨み返す。
だが内心は少しホッとしていた。
雲取麗華の下す懲罰ならどんな影響があるかわからないが、
コイツの出来る事なんて、タカが知れているだろう。
渋水は腰に手を当てると、気取ったポーズで左手だけ差し出して、こう言いやがった。
「最後のチャンスよ。そこに土下座して『今後アタシの命令に一切逆らわない』と誓えば、この場は許してあげてもいいわ」
フザけんな、この女!
「冗談じゃない!先に親衛隊の連中を使って仕掛けて来たのは、アンタの方じゃない!他の連中には謝っても、アンタに下げる頭なんて無いよっ!」
だが渋水は見下した感一杯の表情で、あたしを嘲笑った。
「相変わらず威勢がいいのね。だけどいいのかな、そんな事を言って?今のはアタシの最後の優しさだったんだけど?取返しのつかない事になるかもよ」
あたしも言い返す。負けてられない!
「アンタに何が出来るって言うのよ?アンタの親衛隊にでも、SNSにアタシの悪口を書かせるってか?」
渋水の目が危険な光を帯びた。だが口元は不気味に笑う。
「そんな甘い事じゃ、すまないって。でも、もう遅いからね」
渋水が指をパチンと鳴らした。
するとそれを合図に、道場や物置小屋、そして木の影から、次々と男達が出て来るではないか!
全部で十人近い。
そして彼らはあたしの周囲を取り囲んだのだ!
渋水は両手を組んで、まさしく悪役令嬢のポーズと表情でこう言った。
「アンタのせいで、アタシもそれなりにケガをしたんだよね。そしてここにいる皆、卑怯な手段でアタシにケガをさせたアンタを許せないってさ。どうする?」
あたしは周囲の連中を見回した。
その凶悪そうな面相。まるで昭和世代の少年ジャンプの悪党のようだ。
こんな凶悪な面構え、絶対に慈円多学園の男子生徒じゃない!
それを肯定するように渋水理穂は言った。
「ここにいる人達は、この学校の生徒じゃないわ。ネットで集まっただけの人たち、つまり部外者。だから彼らが何をしようが、アタシには関係無いし、当然、雲取麗華も知らないわ。そしてここは普段から人が来ない場所。特に今の時間はね」
あたしは思わず後ずさった。
本気か?この女。
まさかここまでやるとは・・・
「じゃあね。ここからアタシは知らないから。まぁ拉致られて、新聞沙汰にはならないようにしてよ」
彼女はそう言って笑いながら、数歩後ろに下がって見物体制に入る。
マズイ!
あたしはすかさずダッシュした。
悪党ヅラ十人の囲みを、突破しようとしたのだ。
この包囲を抜け出すことさえ出来れば、人目のある所まで逃げ切ることが出来るかもしれない。
だがいくらあたしの足が速いとは言え、既に囲まれている男連中から逃げ切る事は出来なかった。
二人の男が駆け寄り、あたしを羽交い絞めにする。
「ヤメロ!放せっつ!」
あたしは叫んだ。
男は、確かにあたしを放した。
だが乱暴に、包囲の中央に向かってだ。
素早く立ち上がる。
だが男達の包囲は、先ほどより縮まっていた。
あたしはフェイントをかけ、再度包囲突破を試みた。
だがその行為も全く無駄だった。
簡単に男達はあたしを捕まえる。
そして「リホピンに謝れ!」と言って、あたしを突き飛ばした。
反対側によろめくあたしを、向かい側にいた男が「早く謝れよ!」と言って蹴飛ばした。
あたしは包囲の中央に倒れてしまった。
クソッ、甘かった。
雲取麗華から受ける懲罰は、ある程度までは仕方がないと覚悟していた。
だがあたしを同じような罠にかけた渋水理穂に、こんな仕打ちを受けるなんて!
それにまさか学校外の人間を使うとは、予想もしていなかった。
この慈円多学園のお坊ちゃま連中なら、大した事は出来ないと踏んでいたのだが・・・
アホは手加減を知らないから怖い。
・・・最悪、レイプとか・・・
さすがのあたしもゾッとした。
周囲の男達が口々に罵倒しながら、あたしの頭を押さえたり、小突き回したりする。
「リホピンにケガさせやがって!」「タダじゃ済まさねぇ」
「この卑怯ブス!(これは心にダメージが来た!)」
鼻ピアス・唇ピアス・眉ピアスの凶悪そうな連中が「リホピン」とは笑えるが、今は笑っている場合じゃない。
あたしは頭を抱えて、防御しているしかなかった。
もう隙間をついて逃げ出すことは出来ない。
あたしは悔し涙が滲んで来た。
テレビドラマなら、ここで颯爽と、彼氏とかイケメンヒーローが助けてくれるシーンなのだが、
頼みの彼氏(候補)の兵太は、今は屋上で川上さんと『楽しいお食事中』だ。
アテにできない。
そしてイケメンヒーローは現実には存在しない。
あたしは絶体絶命のピンチだ!
ああ、神様、仏様。お願いだから助けて下さい。
もうこの際、イケメンヒーローでなくても、
ご当地ヒーローでもいいですから・・・
誰か、あたしを助けて!
「おい、ここで何をやっている!」
その声により、男達の動きが止まった。
あたしも思わず、その声の主の方を見る。
そこにいたのは「田植え戦士・タウエイダー」でも「稲刈り戦隊・イネカリオン」でもなく、
正真正銘・まさしくイケメン・ヒーローだった!
この続きは明日4/7(日)8時頃に投稿予定です。




