表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第二章 新たなる戦い?少女野獣編
31/116

EP3、慈円多学園、入学式!(前編)

「おい、急げよ!このままじゃ初日から遅刻だぞ!」


兵太はそう言って、あたしを焦らせた。


「わかってるよ!だから今、急いでるでしょ!」


あたしは不満を滲ませて言い返す。


確かに遅刻しそうなのはあたしのせいだが、

それにしても、もうちょっと労わりのある言い方ってもんがあるだろう。


男子と違って、女子は出発に時間がかかるのだ。

それも「華麗なる高校デビュー」のためにも、

初日のお洒落で(つまず)く訳にはいかない。


入学式早々から、あたしが遅刻しそうなのには理由があった。


その一、お母さんも入学式の身支度で、洗面所を長時間占領していた。

その二、お父さんが朝から長時間トイレを占拠していた。


だが最大の理由は、「今日着ていく制服選び」に時間がかかったためだ。


う~ん、どれにしようか・・・?

あたしは心底迷っていた。


ベッドの上には三着の制服が並んでいる。

全て慈円多(じえんた)学園の制服だ。


慈円多学園は、女子用に五種類の制服がある。

「可愛い伝統的なセーラー服」

「ベージュ色のボレロ風の上着と長めのプリーツスカートに、フリルのブラウスとリボンが付いたお嬢様風の制服」

「紺のブレザーとチェック柄ベストに、膝丈のスカートの平均的な制服」

「フランス貴族の服を思わせるような詰襟(つめえり)型の礼服」

「黒い細身のジャケットとロングのフレアスカートに、首が詰まったフリル付きブラウスとネクタイ(要するにメイド風)」

(ちなみに男子は、紺の詰襟一種類だ))


あたしはこの内「セーラー服」「ボレロのお嬢様風」「平均的なブレザー制服」の三つを買った。

さすがに「フランス貴族風詰襟」だの「メイド風」だのを着て、電車に乗って通学する勇気はない。

(でもメイド風はちょっと惹かれた。学校に行ってから周囲の様子を見て、追加で買ってもいいかも)


ボレロのお嬢様風があたし的には一番好みだが、初日くらいは真面目にブレザーにしておくか?

でも中学もブレザータイプだったからなぁ。

女の子らしいセーラー服にも憧れがあるし・・・。


と、まぁこんな具合で、前日から悩みに悩んでいたのだ。

朝になっても、三着をとっかえひっかえ着て見ている内に、時間ギリギリとなってしまった次第だ。

選択肢がありすぎるというのも、中々困り者だ。


さらに言えばブラジャーでも迷ったし・・・

少しでも胸が、形よく大きく見えるブラとの組み合わせも重要だ。


結局、あたしは当初の予定通り「ボレロのお嬢様風」をチョイスした。


そして今、学校の最寄り駅からランニングする羽目となっている。

兵太の奴は「急げ、急げ!」と言うが、

登校初日の女子が、汗だくで髪の毛を振り乱して、教室に駆け込む訳にはいかないのだ。


「おい、もうちょっと急げよ。マジでマズイって!」


兵太がまたブー垂れやがった。


うっせえ!

おまえも朝からシャワー浴びて、洗顔して、乾燥対策に乳液付けて、ドライヤーしてみろ!

少しは女子の苦労がわかるってもんだ。

寝ぐせのまま、顔と歯だけ磨いて家を出られるオマエとは違うんだよ。


「わかったわよ!急ぎゃいいんでしょ、急ぎゃ!」


あたしは兵太を置いて、急にダッシュした。

本気ならあたしは、かなり足は速い。

そして顔は軽く兵太を睨む。


美園(みその)、前っ!」


ボゴォ~~~ン


兵太の声と、顔面への衝撃と、激しい激突音が響いたのが、全て同時だった。

反動であたしは思わず後ろに尻餅をつく。


くっそ、誰だ?

こんな通りの真ん前に、乙女を弾き飛ばすような障害物を置いたのは?


涙が滲む目で前を見ると、大通りに出る路地に、真っ白で巨大なやけに長~い車が止まっていた。

今まで見たことが無いような、前後に長い車だった。


あたしが怒りを込めてその車を睨むと、その長い車の後ろのドアが開き、中から一人の男が出て来た。


「君、大丈夫か?」


そう声をかけてきた男性を見て、あたしは怒りも痛みも霧散するように吹き飛ぶのを感じた。

本当に息が止まった。


その男性は、マジで少女マンガか乙女ゲーから抜け出してきたかのような美少年だったのだ!

クッキリとした二重の目はアーモンド型で、あたしを心配そうに見つめている。

鼻筋はすっと彫刻のように通っている。そして外国人ほど大きくはなく、バランスの良い形だ。

それに釣り合ったバランスのいい口から、あたしを気遣う言葉が発せられている。

そして女にも中々いないくらい白く透明感ある肌。


全てが完璧な外見だった。

こんな男性、今までテレビでも見た事がない。


少女マンガでは、よくイケメンが出て来るシーンで

『バックに花を背負って登場』するが、

本当に背後に花が咲き乱れているかのように思えた。

この人の発する雰囲気が、オーラが、バックに花を連想させるのだ!


「ビックリしたよ。停車していたら、いきなり君が突っ込んで来るから」


美少年は柔らかく笑いながら、あたしに向かってそう言った。

あたしは彼に見惚れたまま、何も言う事ができない。


「すみません、そっちの車が止まっているのに、こっちから勝手に突っ込んで行ったので」


兵太が駆け寄って来ると、あたしの代わりにそう言った。


「いや、ケガさえ無ければいいんだけど。でも彼女、何も言わないけど、大丈夫かな?」


美少年の眼が、兵太からあたしの方に向く。

あたしは慌てて立ち上がった。


「だ、大丈夫です!こ、こちらこそ、ご迷惑かけて、す、すみません」


あたしはそれだけ言うのが精一杯だった。


「それならいいけど。ところで君たち、慈円多学園の生徒?」


美少年はそう聞いて来た。

よく見ると、美少年も兵太と似た制服を着ている。

が、所々で装飾や色が違うようだ。


「はい、今年度入学の新入生です」


兵太がそう答えると、美少年はニッコリ笑って言った。


「そうなんだ。僕は慈円多学園三年の赤御門凛音(せきみかどりおん)。君たちは後輩になるんだね。良かったら一緒に乗って行くかい?」


え?マジで?こんなイケメン先輩と一緒に、お車登校?

そんな夢みたいな話・・・


だがその夢は兵太がぶち壊してくれた。


「いえ、学校はもうすぐそばですし、大丈夫です。それに入学早々目立つのは嫌ですし」


赤御門先輩はそれを聞くと納得した様子だ。


「それもそうかもね。わかったよ。でも急いだ方がいい。もうすぐ時間のはずだ。新入生はクラス分けを確認して、自分のクラスに行かないとならないからね」


そう言って至高のイケメン先輩は、デカくてバカ長い車に乗って去って行った。


「にしても金持ちな人だな。ハマーのリムジンだぜ、あれ」


あたしは「ハマーのリムジン」が何かよくわからないが、兵太のその言葉を夢心地で聞いていた。


そう、あたしは慈円多学園初日の登校中に、王子様に出会って恋に落ちたのだ。

この続きは、4/1(月)7時頃に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ