12、あたしは自力で幸せをつかむ!(前編)
兵太のことなんて、気にしてられない!
あたしには「学園きってのイケメン御曹司の婚約者になる!」という、
崇高かつ壮大な目的があるのだ!
そもそも昨日まであたしの特製手作り弁当を
”たったの三百円”で食べさせてもらっていてヤツが、
他の女の子にちょっと
「あたしのお弁当を食べて下さい」
って言われたくらいで、
すぐに乗り換えるか?
少しは躊躇しろっつーの!
あんな薄情者、別に惜しくも何ともない。
川上さんが兵太を好きだって言うなら、喜んで譲ってあげるよ。
別にあたしの彼氏じゃないしね。
お弁当を捨てた時にちょっと涙が出たのだって
「一生懸命作ったお弁当を捨てた」
という事実が悲しかっただけ。
別に兵太がどうこう、って話じゃない。
これでより一層、赤御門様に食べてもらわなければ、ならなくなった。
でないとお弁当はゴミ箱行きになる!
あたしはお年玉と高校入学祝の残り全てを銀行から引き出し、
キャビアを買った高級スーパーに行った。
そこで松坂牛すき焼き用肉、飛弾牛のステーキ用肉を買う。
どちらもA5ランクの最高級品だ。
そして魚は鮭児!
鮭児は、普通の鮭一万匹に対して一匹程度しか漁獲されない。
「幻の鮭」と言われる、大変美味な鮭だ。
さらには本マグロの大トロ。
もちろん冷凍物じゃない、近海で獲れたものだ。
鮭児も本マグロの大トロも、値段は時価だ。
他にも野菜は国内産有機野菜を買う。
翌朝は3時に起きた。
さっそく昨日買った高級食材達をお弁当に入れるべく、
調理を開始する。
まずは松坂牛のすき焼き用肉。
醤油・砂糖・酒・味醂で作ったタレに浸けておく。
(松坂牛の旨味を活かすため、あまり長時間は漬け込まない!)
そして下茹でしてあったゴボウを肉の幅に切って、松阪牛を巻く。
最後にタレと一緒にフライパンで熱を通すように焼く。
これで”牛肉のゴボウ巻き”が完成。
飛弾牛はステーキ用の肉として最高だと聞く。
ただ弁当なので、分厚い食べ応えのある塊り肉のステーキには出来ない。
それでも厚さ1センチ近いお肉だ。
肉全体に細かく包丁による切れ目を入れておく。
その上で叩いて伸ばす。
そして塩・コショウを満遍なく振る。
それを熱して牛脂を溶かしたフライパンで、軽く両面を焼く。
肉が薄いので、火を通し過ぎないように注意した。
ステーキソースには、醤油とタマネギのみじん切り、すり卸したニンニクに、
同じくすり卸したリンゴ、バター、赤ワイン、最後に肉を焼いた肉汁を入れて、火を通したものだ。
これらはご飯がベトベトにならないように、別容器に入れ、
食べる直前に肉にかけるようにする。
鮭児は、下にマイタケやタマネギ、ジャガイモの細切りを敷いて、アルミホイルで包む。
上から塩・醤油とオリーブオイルを少し垂らす。
それをトースターで5分ほど焼く。
”鮭のホイル焼き”の完成だ!
本マグロの大トロは、シンプルに表面だけ炙り焼きにする。
その横にワサビ塩を別に入れる。
もちろんワサビも、本物をすり卸したものだ。
これにスティック野菜とバーニュカウダ・ソースを付けて、
本日の特製ステーキ弁当の完成だ!
どうだ!
この内容なら、セブン・シスターズのブルジョワ弁当にだって負けやしない!
原価だって、いくらかかっているか、考えるのが嫌なほどだ!
今までの料理の腕と、これ以上はないという程の高級食材の合わせ技!
これで赤御門様に食べて貰えれば、彼のハートと胃袋は鷲掴みだ!
どんな傑作弁当であろうと、赤御門様に食べて貰えなければ意味がない。
モナリザだって、レオナルド・ダ・ビンチのアトリエに眠ったままなら世紀の傑作とは呼ばれなかっただろうし、
モーツァルトだって楽器が無い時代に生まれていたら、ただの変わり者で終わっていたかもしれない。
あたしは4時間目の授業はサボった。
イケメン御曹司の婚約者になる事に比べれば、
数学や英語の一時間くらい、何だと言うのだ!
あたしは必勝のための作戦準備を行っていた。
12時過ぎ。
あたしは図書館前に移動する。
クジを引く。
ふむ「3列目、5番」か。
あたしはほくそ笑んだ。
今日のあたしは何番だろうと、さほどの影響はない。
出走位置に着く。
一列目は、3番が天女梨々香、4番が渋水理穂、5番目が雲取麗佳、6番目が咲藤ミランだ。
よし、目標は決まった。
渋水理穂だ。
この前の借りは、キッチリ返してやる!
この続きは明日3/18(月)に公開予定です。




