11、え?あたしのお弁当・・・
やっぱり二連覇は難しいか……
あたしはお弁当を抱えて、トボトボと4階・赤御門様のいる教室前を立ち去る。
今日のお弁当も、食べて貰えば自信はあったんだけどなぁ。
そう思ってお弁当を見つめる。
今日のごはんは、鶏そぼろ、シラスのバター炒め、炒り卵の三食ご飯。
おかずの方は、サバ缶を使ったコロッケ。
コロッケ自体に味を付けているので、ソースなしでも食べられる。
サバ缶の汁は全部使うと生臭くなるので、量は調整した。
三回も作り直したのになぁ。
それと竹輪にツナマヨを入れて揚げたもの。
ピーマンの肉詰め。
ナポリタンを包んだオムレツ。
アボガドとトマトとマグロのサラダ。
別口でスティック野菜とバーニャカウダだ。
目新しい物は無いかもしれないが、味には絶対の自信がある。
赤御門様は昨日の弁当をすごく気に入ってくれたから、
今日も選んでもらえる可能性は高いと思っていた。
しかし……
今日はスタート位置も悪かった。
5列目1番。
既に全員にマークされているあたしは、スタート直後に妨害役に取り囲まれていた。
今日はいつも通り、セブン・シスターズ間の争いだったようだ。
気に入らないことに、そこに渋水理穂も入っていたが……。
あたしは結果を見ないで、屋上に向かった。
誰が勝ったかを見ても、ムカつくだけだ。
階段を昇り、屋上へのドアを開ける。
と、屋上ドアのすぐ横に兵太がいた。
いつも屋上端の柵沿いにいるのに。
「今日もダメだったよ」
あたしは明るく話しかけた。
だが兵太は無言だ。機嫌でも悪いのかな?
「はい、今日のお弁当」
あたしはいつものように、兵太に向かって手作り弁当を差し出した。
だが兵太は、ドアの横に寄り掛かったままだ。
いつもなら腹ペコで、すぐに手を出すのに。
不思議に思って兵太の様子を見る。
兵太は下を向いている。
時々あたしの方を見る。
何か『言いたい事があるけど、言いにくい』、そんな様子をしていた。
「どうしたの?」
あたしがそう尋ねると、兵太は壁から身体を起こし、あたしの前に来た。
なんか雰囲気がおかしい。
しばらく黙っていたが、やっと兵太は口を開いた。
「ゴメン。悪いけど、美園の弁当は食べられなくなった……」
ん、何でだ?
今日は昼飯代を貰い忘れたか?
それともサイフを落としでもしたか?
「お金、無いの?じゃあいいよ。明日まとめて払ってくれれば」
だが兵太は、さらに言いにくそうな態度を取った。
こいつがこんな態度を取るのは、珍しいことだ。
「いや、そうじゃないんだ。明日からも、美園の弁当は食べられない。たぶん……」
あたしが疑問に包まれていると、「ガチャ」と言う音がして、入口のドアが開いた。
そこにやって来たのは、川上純子ちゃんだ。
手には可愛らしいお弁当を2つ持っている。
「あっ」
川上さんはあたしの顔を見て、そう小さな声を上げた。
……そうか、そういう事か……
ここであたしは、ようやく事態を把握した。
川上さんが兵太に、お弁当を持ってくることになった訳ね。
そして兵太もそれを了承した、と。
「そういうことね」
あたしはニッコリ笑って言った。
別にあたしと兵太は付き合う前提で、お弁当を一緒に食べていた訳じゃない。
兵太は美味しい弁当を食べられる。
あたしは、余っている弁当をお金に換えられる。
それだけだ。
ビジネスだからね、ビジネス。
兵太が川上さんと付き合う気になったんなら、
あたしの弁当を食べていたんじゃ、川上さんも気分が悪いだろう。
彼女を焚き付けたのは、あたしだし。
川上さんは兵太の隣に立った。
その行動にも、彼女の意思を感じる。
「わかった。じゃあ契約解消ね。これからは2人、仲良くね」
あたしはそう言って2人に背を向けた。
そのまま屋上のドアに手をかける。
「……悪いな……」
あたしは、その言葉を聞き終わるか終わらないかの内に、屋上のドアを閉めた。
その日、あたしは作った弁当を、初めて家に持って帰った。
学校で捨てるのは、流石に惨めな気がしたのだ。
中身がぎっしり詰まったお弁当は、やけに重く感じられた。
家に入る。
家族が誰もいない内に、あたしは弁当をゴミ箱に捨てた。
ドサッ
何か、心に響く音だ。
ゴミ箱の中に、あたしが一生懸命作ったお弁当が捨てられている。
あたしが工夫して、前の夜から準備して、
朝5時に起きて作ったお弁当……
色とりどりのご飯の合間から、コロッケやピーマンの肉詰めや、オムレツが顔を出している。
コイツラが、何か寂しそうに見えた。
ポロン
右目から何かがこぼれた。
指で拭うと濡れている。
涙か……
あたしは捨てられたお弁当を見て、声を出さずに泣いていた。
この続きは3/17(日)朝8時頃に投稿予定です。




