10、セカンド・チャンス到来!神様は見放さなかった!(後編)
あとは100メートルの直線勝負だけだ。
ゴールはもう目前……
だがその時、あたしの目に入らなくていいものが、入って来た。
それは前を走る、咲藤ミランの揺れる巨乳だ!
後ろにいるあたしが分かるくらい、
彼女の豊満なバストが揺れ動いている。
あたしの中で、何かが切れた。
無意識の内に両脚に力が入る。
身体が勝手に前に出た。
咲藤ミランの横に並ぶ。
ちくしょう、乳のデカイ女には負けたくない!
それまで独走していた咲藤が、驚いたようにあたしを見る。
だがすぐに彼女も、より一層スピードを上げる。
さらに彼女の『胸の揺れ』が強調された!
この女、なに食えばそんな胸になるんだ!
あたしなんて毎日1リットルの牛乳を飲んでるけど、
その4分の1もないのに!
この学校のモットーは
『女子たるもの、野獣であれ!』だ。
『乳牛であれ!』じゃねーんだよ!
あたしは心の雄叫びを上げ、乳牛女との一騎打ちとなった。
赤御門様が教室から廊下に出て来る。
その赤御門様さえ、いつもよりも決死の勢いで走って来る女子二人に、驚きの表情を見せた。
あたしと咲藤ミランは、ほぼ同時にゴールに到着した。
……陸上競技だったら、胸の差で咲藤の勝ちだったろうな……
そう思いながら、あたしは息を整えて、お弁当を差し出す。
「赤御門さん、私の作ったお弁当、一緒に食べて下さい!」
その頃になって、やっと後続女子が追いついて来た。
雲取麗佳、天女梨々花、その他一名。
渋水理穂は入ってない。ザマーミロ!
赤御門様の目は、既にあたしの弁当のみに注がれていた。
あたしの創意工夫の賜物・蕎麦寿司を指さして
「これって、なに?」
と聞いてい来る。
あたしは自信満々に答えた。
「お蕎麦の巻き寿司です。麺つゆは別にあるので、それに漬けて食べてください」
「蕎麦」というキーワードを聞いて、赤御門様の目の色が変わるのを感じた。
「本当?僕もちょうど蕎麦が食べたいと思っていたんだ。蕎麦の寿司なんて変わってるね。今日は君の弁当を頂こうかな」
やったぁ!
計算通りだ!
あたしの知恵と努力の勝利だ。
あ、情報くれた兵太にも、ちょっと感謝。
その時、あたしの肩をポンと叩くヤツがいた。
咲藤ミランだ。
「中々やるな、オマエ。だけど次はこう行かないぜ」
そう笑顔で言うと、背を向けて去って行った。
もしかして、もしかして、今、あたしを激励してくれた?
そう思って彼女の長身を見つめる。
そのスラっとした背中も美しい。
咲藤ミラン、イイ奴じゃん!
慈円多学園 第一上級学生食堂 VIPラウンジ。
ここに2度座ることが出来た。
憧れの赤御門凛音様が、あたしの力作・蕎麦寿司を食べている。
「うん、本当においしいよ。蕎麦の巻き寿司なんて初めてだけど、かなりイケるね」
あたしは満足して、笑顔でうなずいた。
もちろん、可愛い女の子の笑顔でだ。
(普段の地で見せる笑い顔は封印だ)
赤御門様の前には、2つの麺つゆ用の容器が置いてある。
冷たい麺つゆ用と、温かい麺つゆ用だ。
「君、この前も美味しい弁当を持ってきてくれた子だよね。料理が上手なんだね。これからも時々頼むよ。君の弁当を食べると元気が出る」
ぃエイッツ!ヤッター!
これって最高の誉め言葉じゃない?
ついに言わせた「これからも時々頼む」!
”毎日”じゃないのが、あたしの計画と違って少し残念だが、まあそこは妥協しよう。
これから、これから!
赤御門様は、本当に美味しそうに、あたしの創作寿司を食べてくれた。
愛する人の食べる姿を見てるって、幸せ!
あ、そうだ。
あたしばっかり、幸せに浸っている訳には行かない。
腹を減らして屋上で待っているヤツがいるんだった。
あたしはスマホのSNSで、兵太にメッセージを送った。
>弁当お届け成功!
>あたしの弁当、すごく美味しいって食べてくれてる。これからも頼むって!
>もう兵太の口に入ることは無いかもね!
送信、っと。
これを見れば、兵太も学食にパンを買いに行くでしょう。
安心、安心。
しばらくして、兵太から返事があった。
>わかった
なんだ、素っ気ないヤツだな。
幼馴染が大戦果を挙げたんだから、もうちょっと祝福してくれてもいいだろ。
顔を上げると、赤御門様があたしにニッコリと微笑んでくれた。
あたしのハートは成層圏を突き抜けて、大気圏外まで舞い上がった。
これであたしの人生計画は、また一歩進んだのだ。
今日は一杯1万円のジャコウネコの糞コーヒーも、美味しく飲めそうだ。
この続きは3/15(金)7時に投稿予定です。




