9、汚い!「敵は本能寺」だった(後編)
友人の如月七海から、憧れの赤御門が「部活の後に食べられるサイドイッチもいい」
と言っていたと言う情報を手に入れた美園。
新たにサンドイッチ弁当を手に、2列目2番という好位置でスタートできることに。
しかしライバルの渋水理穂は、美園を見て不気味な笑いを浮かべる。
その時、4時間目終了のチャイムが鳴った。
スタート・ゲートが開かれる。
全車一斉のスタート!
じゃない、全女生徒一斉のスタートだ!
あたしは1列目2番の女を、素早く追い抜いた。
咲藤ミランの後ろにピッタリ付ける。
F1で言う、スリップ・ストリーム走行だ。
もちろんスリップ・ストリームと言っても、車のように本当に空気抵抗を避ける訳じゃない。
咲藤ミランの後ろにピッタリ着くことで、他の妨害役が前を塞ぐことを避けているのだ。
さすがに学園の支配者たるセブン・シスターズの妨害は、
よほど心臓が強い奴でないと出来ないだろう。
予想通り、トップは咲藤、ほぼ並んで雲取、そしてあたしと天女だ。
好位置スタートだった渋水は、少し出遅れている。
左コーナーを曲がり、階段を4階まで駆けかけ上がる。
だが中3階の踊り場から4階までの最後の階段で、
あたしの右側に陸上部女子と渋水が並びやがった!
マズイ!ここで一番左側なのは非常にマズイ!
階段を上がると、水道場を右に曲がって渡り廊下だ。
つまり右側2人にインを取られて、あたしは前に出られなくなる!
あたしは一瞬、全脚力を解放しようかと思った。
だが躊躇する。
今日のお弁当はサンドイッチなのだ!
しかもブルスケッタもある。
あまり振り回すと、サンドイッチとブルスケッタが崩れてしまうかもしれない。
不覚!見映えを捨てて、一つずつラップで包んでくれば良かった!
階段を昇りきる。
水道場のところを右に曲がる。
少しでもインに入りたいあたしと、入らせまいとする陸上部女子と渋水。
しかも運が悪いことに、早めに教室を出たのか、
3人のザコメン男子がこっちに向かって歩いてくるではないか?
幸い縦一列なのでそこまで邪魔ではないが、あたしのいる廊下の左側を歩いてきやがる。
だが右側に避けるには陸上部女子と渋水が邪魔だ。
仕方ない。
縦一列で歩いてくる男子を、直前で右に避けようとする。
しかし一番前の男子も、一瞬あたしと同じ方向に避けようとした。
「え?」と思って、さらにあたしは走行ラインを変える。
だが2人目男子も横に出てきたせいで、軽く身体が接触した。
思わずバランスを崩しかける。
そこへ3人目男子が、拳から何かオレンジ色の小さいモノをばら蒔いた。
あたしのシューズが、そのオレンジ色の物体を踏んだ瞬間、大きく足が滑る!
「!」
何を思う時間もなく、私の身体は吹っ飛んだ。
横倒しになったまま、水道場に叩き付けられる。
・・・ちっくしょう、何だ、これ?・・・
あたしの足を掬ったオレンジ色の小さい物体を手に取る。
BB弾だった。
あの3人目の男子は、あたしの直前で、このBB弾をばら蒔いたのだ。
あたしはキッと、その三人の男子を睨み付けた。
3人ともニヤニヤ笑いを浮かべて、立ち去っていく。
クソが!このクソザコメン共が!
1人目があたしの走路を惑わせ、
2人目がぶつかってバランスを崩し、
3人目がトドメでBB弾のマキビシで転ばせるってか?
某ロボットアニメの三人一体みたいな攻撃をしやがって!
テメーらは昭和世代か?
あたしは怒りに任せて立ち上がろうとした。
「痛っ!」
すぐに座りこんでしまった。
膝と右腰を強く打ってしまったのだ。
立とうとしたら、強い痛みが足と腰に響いた。
だが被害はそんな所じゃなかった。
お弁当だ。
水道場の前、一面にあたしの作ったサンドイッチ弁当がブチ撒けられている。
見るも無惨な惨状だ。
廊下の向こうには、今日の勝利者の姿が見えた。
渋水理穂だ。
ムカつく事に、赤御門様の腕にかじりついている。
その渋水がチラっと、あたしの方を見た。
またもやニヤリと不気味に笑う。
その瞬間、あたしは全てを理解した。
そうか、この罠を仕組んだのは、渋水だったのか。
スタート前の笑いも、この結果を予想しての事だったのだ。
あの3ザコメンは、渋水の親衛隊か!
あたしの中に押さえきれないくらいの怒りが込み上がって来た。
・・・必ず、必ず、この借りは返す!・・・
そう心の中で誓う。
あたしは痛みを我慢して立ち上がると、
周囲にブチ撒けられたサンドイッチの残骸を拾い集め始めた。
横を通る一般男子生徒達の声が聞こえた。
「あ~あ、こんなにしちゃって」
「いつも全力疾走してる女子達だろ?いつかこうなると思ってたよ」
「ハッキリ言って迷惑なんだよな」
あたしは目が熱くなるのを感じた。
クソッ!こんな所で泣いてたまるか!
あたしは下を向いたまま、黙ってサンドイッチの残骸を拾い集めていく。
その時、一人の男子生徒の手が視界に入った。
その手も、ゴミと化したサンドイッチを拾っていく。
視線を上げると兵太だった。
何も言わずに、一緒に拾い集めてくれている。
全て拾い集めると、兵太は言った。
「屋上、行こうぜ」
あたしは兵太と一緒に、いつもの屋上に上がった。
兵太が言った。
「サンドイッチ、どのくらい無事だったんだ?」
あたしは箱の中を見る。
「プチサンドが4つだけ・・・」
これはお届け用と、自分の分とを合わせてだ。
一人分の半分にも足らない。
「じゃあ、2つは俺の分だな」
そう言って三百円を差し出して来た。
あたしは驚きの目で兵太を見る。
「一回三百円って約束だから。別に量が決まっている訳じゃないだろ」
あたしはマジで爆泣するところだった。
息を窒息寸前まで止めて我慢する。
・・・
あたし達は4つのプチサンドを、2つずつ分けて食べた。
この続きは3/12(火)7時頃、投稿予定です。




