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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
115/116

13、16歳の誕生日(第三章、最終話)(後編)

 時刻はまだ九時だが、ベッドの中に潜り込む。

電気を消した。

顎まで布団に潜って、目を閉じる。

だが眠れない。

昼間はコキ使われたので、けっこう疲れているはずだが・・・。


「へっ、誕生日なんてくだらねぇ」


・・・一つババアになるだけじゃん!・・・


 昼間に何度か繰り返したセリフを、もう一度呟いてみた。

だいたい、この歳になって誕生日が嬉しい訳じゃない。

お姉ちゃんだって二十歳になる時は


「二十歳になるの嫌だ!これ以上、歳を取るのは嫌だ!」


って、大騒ぎしていたし。

あたしだってずっと十代でいたいぜ。

だから誕生日なんて、忘れちまってもいい存在だ。


・・・でも・・・


・・・誰からも祝って貰えない16歳の誕生日って、何なんだろう・・・


 ジワっと寂しさが胸の内に沸いた。

だって誕生日って、絶対に変えられないものじゃない。

あたしは大人になっても、この先、一生、

誰にも誕生日を祝って貰えない気がする。


・・・あたしって、日本一可哀そうな誕生日だな・・・


 静かに上半身を起こすと「はぁぁ~」って感じで、静かにため息をついた。

こういう時、大人だったらヤケ酒なんだろうな。


 ふと窓の外を見ると、カーテンの隙間から「チロリ」と白い物が見えた。

そっとカーテンを引き開けてみる。

すると窓の外には、フワフワと白い雪が舞い降りていた。

一つ一つが小さな白い天使のように思える。


「空だけは祝ってくれたかな?ホワイト・バースデーだ」


窓に顔を寄せてそう言うと、口の近くが白く曇った。

窓ガラスに自分の顔が写る。


・・・あたしの誕生日を覚えていてくれるのは、アタシしかいない・・・


そう言っているような気がした。


ジワッ


涙が込み上げて来た。

そのままツツーッと、頬を伝って零れ落ちる。


・・・このまま、16歳の誕生日を、誰も祝ってくれない、覚えていてもくれないなんて・・・


あたしは窓辺に顔を埋める。

小さな嗚咽が漏れた。


 その間にも、雪はどんどんと強くなっていく。

どのくらいの時間が経ったのだろう。

いつの間にか、窓から見える外の世界は真っ白だ。

顔を上げると、今度は目の周りが赤い、あたしの顔があった。


――ブーッ、ブーッ、ブーッ!――


 突然、枕元に置いたスマホが鳴りだした。

あたしは涙を拭うと、スマホを手に取る。

時刻は既に、十時半を過ぎていた。


スマホにはSNSのメッセージが着信したと表示されている。

兵太からだ。

メッセージを開いた。


『窓の外を見て』


あたしはもう一度、窓の外を眺めた。

さっきは遠くしか見ていなかったが、家の前の道路に何かが描かれていた。

 楕円?それとも円板?

いや、書かれていたのは

『大きなバースデーケーキ』だ。

その横には、グレーのコートの上に、白く雪を被った人影があった。


・・・兵太!・・・


あたしはパジャマの上にダッフルコートをまとうと、一目散に階段を下りた。

玄関を飛び出す。


 玄関の門の前に、兵太は立っていた。

あたしが顔を見ると、兵太は少し照れたように笑って言った。


「誕生日おめでとう、美園」


「兵太、どうして?合宿中じゃないの?」


あたしは嬉しさよりも、兵太がここにいる状況に驚いていた。


「だって美園、今日が誕生日だろ。だからみんなに『アレルギーの薬を取りに一度家に帰る』って言って、強引に戻って来たんだ」


「大丈夫なの?そんなことして」


兵太を頭をかきながら苦笑いした。


「水上先輩(おしゃべり先輩の事!)は『今から帰って明日の反省会に間に合うのか?』って難色を示したんだけど、赤御門先輩が『いいよ』って言ってくれたんだ。だから深夜バスで、またすぐに戻らなくちゃならないんだ。たぶん、赤御門先輩には俺が戻った理由もバレてるだろうし」


「バカ、そんなに無理しなくてもいいのに・・・」


あたしはそう言いながらも嬉しかった。

あたしのために、わざわざ合宿を抜け出してくれるなんて・・・


「あ、これ、誕生日プレゼント。合宿中だから大きな物は持ってこれなくて」


そう言って兵太は、ポケットから小さな箱を取り出した。

あたしは両手で、それを受け取る。


「ありがとう。開けていい?」


「どうぞ」


中からは小さなハートに囲まれた、蒼い宝石が付いたネックレスが出て来た。


「タンザナイトって言うらしいんだ。十二月の誕生石はコレだって言われたから」


兵太は自信なさそうに、あたしの顔色を伺いながら、そう説明した。

普段の兵太には見られない態度だ。

そんな兵太が、とっても愛おしく感じられた。

あたしは、自然に兵太に抱き着いていた。

彼の胸に顔をうずめる。


「ありがとう、大切にするよ。高くなかった?」


「大丈夫、俺、まだ入学祝いとか、使ってないから・・・」


兵太もそう言いながら、おずおずとあたしの背中に両手を回した。

冷たい、冷え切ったコートが、とっても温かく感じられる。


 あたし達はしばらく、そのままでいた。

あたしは顔を上げる。

兵太の顔もすぐ近くにあった。

だが兵太は残念そうな顔をして、こう言った。


「もう行かないと。バスに遅れちまう。ごめんな、たったの三十分も一緒にいられなくて」


「ううん、いいよ。少しでもあたしに会うために戻って来てくれたなんて、とってもうれしい・・・」


素直にそう言えた。


「じゃあ」


そう言って駅の方に戻ろうとする兵太の頬に、あたしは素早くキスをした。

 軽く、羽のように微かなキス・・・

兵太が少し驚いた表情で、あたしを見る。


「今はこれしか、気持ちを表せないから・・・」


あたしがそう言うと、兵太はすごく嬉しそうに笑った。


「ありがとう、十分だよ。これだけでも来た甲斐があった。帰ったら、また連絡する」


「うん、連絡して」


兵太は雪の中を走って戻って行った。

あたしは、その後ろ姿をいつまでも見送っていた。


・・・今日は、最高にハッピーな誕生日だ。

今まで長い間、ご愛読いただき、本当にありがとうございました。

途中、何度か止めようかと思った時もありましたが、

ここまで続ける事が出来たのも、

読んでいただいた方のお陰です。

PVやポイント、ブックマークなどが増えていくのは、

本当に心の支えになりました。

改めて御礼申し上げます。


また「あなたにこの弁当を食べさせるまで」のエピソードが浮かんだら、

今度は単発・不定期になると思いますが、

話を書き綴りたいと思っています。


しばらくして、精神面が復活しましたら、また新しいお話で

皆さんにお目にかかれれば、と思っています。


本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました! もうやめられない止まらないで一気に。 美園ーーっ!!渋水さん、七海、ミラン先輩、川上さん……ファイブ・プリンス、セブン・シスターズ、兵太。川上さんは初め初…
2020/09/09 19:17 退会済み
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