11、体育祭の激闘(寝返り)
そこに七海が駆け込んで来た。
「大変!1-A、1-Bが、雲取陣営に寝返った!」
「「なんだって!」」
あたしと斉藤カノンが、ほぼ同時に声をあげた。
「それだけじゃない。様子見だった1-J、1-Kも雲取陣営に着いたんだよ!」
あたしはギリギリと歯噛みしながら、雲取と渋水がいる陣営を睨んだ。
・・・クソッ、このままじゃ負けは確実だ・・・
既に雲取・渋水の陣営は、勝ちを確定させようとしているのか、自分達に着いたクラスを集結させているようだ。
「斉藤さん、すぐに咲藤先輩の所に行きましょう!みんなで対策を!」
・・・
咲藤ミラン、菖蒲浦あやめ、海野美月、鳳カンナ、斉藤カノン、そしてあたしの6人が、咲藤ミランの元に集まった。
念の為、情報に通じている如月七海にも一緒に来てもらう。
「現状の勢力はこうだ」
咲藤ミランが紙を広げた。
【雲取連合軍】22クラス
<中核組>
雲取麗華(3-H)、天女梨々花(3-B)、竜宮翠子(3-F)、京奈月理鈴(3-L)
藤宮姫野(2-D)、ミリア・ザイツ・橋立(2-F)、夕霧玲奈(2-K)、日野原葵(2-B)
渋水理穂(1-G)、
<支援組>
3-D、3-E、3-G、3-I、
2-E、2-L
1-H、1-I、1-L
<後追い組>
1-J、1-K
<寝返り組>
1-A、1-B、
【咲藤同盟軍】10クラス
<中核組>
咲藤ミラン(3-J)、菖蒲浦あやめ(3-K)、海野美月(3-C)
鳳カンナ(2-A)、斉藤カノン(2-G)
天辺美園(1-E)
<支援組>
2-H、
1-C、1-D、1-F
【中立組】4クラス
エスティ・ロスナバーグ(2-C)
3-A
2-I、2-J
その紙を見つめた菖蒲浦が言った。
「クラスだけで見ても、敵側22クラスに対し、コッチは10クラス。中立組4クラスが動かないとしても、コッチが圧倒的に不利なのは間違いないわね」
さらに海野美月が追い打ちをかける。
「しかもコッチが二回戦で負けた騎馬を失っているのに対し、雲取側は抽選券を温存していたから、負けた騎馬もほとんど復活できる」
咲藤が難しい顔でうなずいた。
「そうだ。向こうは復活したゾンビ騎馬がいる。こっちは集めた抽選券で復活させても、なお及ばないだろう。実際の騎馬の数では22対8くらいの差がある」
菖蒲浦がため息をついた。
「この圧倒的な数の差で押し囲まれたとしたら、私達は全滅、ってことになるのかしら・・・」
あたしはその会話を聞きながら、歯を噛み締め、拳を握り締めた。
・・・このまま渋水の軍門に下るなど、絶対に納得できない。何とか逆転する方法はないのか・・・
「見ろ、雲取の方はもはや勝利確定のつもりか、向こう側に味方の陣営を全て集めているぞ」
その言葉を聞いた時、あたしの頭の中に何か響くものがあった。
雲取・渋水陣営を眺める。
敵は大群となった自陣営を、横に長く展開している。
・・・圧倒的な数の差、押し囲んで全滅、横に長く展開・・・
「咲藤先輩、2-Cのエスティ・ロスナバーグは、まだ完全中立なんですか?他の中立クラスは?」
突然のあたしの勢いに、咲藤ミランは一瞬おどろいていた。
「え、ああ。おそらくエスティは完全中立だと思う。あたしはエスティとはけっこう交流があるんだ。それから2-Iと2-Jはわからないが、3-Aはクラス全体が反・雲取派なんだ。あたしらに味方はしないまでも、雲取の陣営には付かないだろう」
「2-Iは大丈夫よ。それはあたしが確認している」
斉藤カノンが、そう補足した。
「それ、もう一度確認して貰えますか?それから以前に『京奈月理鈴に最初は静観して動かない』って約束、アレはまだ有効か確認できますか?」
「一応まだ有効だと思う。なんだ、天辺。何か策があるのか?」
全員の目が、期待と不安を持ってあたしを見る。
「ええ、中立組が中立を保ってあたし達を攻撃せず、京奈月理鈴が最初静観してくれれば、もしかしたら勝てるかもしれません」
あたしは不敵に笑った。
それを見て咲藤ミランが満足げに笑って、あたしの肩に手を置いた。
「よし、わかった。ここは天辺の作戦に賭けるとしよう。天辺、今からオマエがこのチームの総大将だ。頼んだぞ!」
あたしも力強くうなずく。
渋水理穂なんかに負けてたまるか!
・・・
「京奈月理鈴の3-Lは、抽選券を20枚にするなら、最初の3分はある程度なら静観してもいいって」
如月七海がそう連絡してきた。
新聞部の先輩が3-Lにいるため、七海が交渉役を買って出たのだ。
「わかった。それで手を打つ。そう伝えて」
あたしは電話を切った。
京奈月理鈴、セブン・シスターズの一人の割には、セコい野郎だ。
「エスティ・ロスナバーグと3-Aは、三回戦も中立を貫くと言っている。こっちが攻撃しない限り、向こうも手を出して来ない」
「2-I、2-Jも同じよ」
咲藤ミランと斉藤カノンがそう言った。
いまここに居るのは、咲藤ミラン、菖蒲浦あやめ、海野美月、鳳カンナ、斉藤カノン、あたしの6人だ。
あたしは作戦の全容を説明した。
「敵は大部隊だから、三回戦が始まる直前には、部隊を展開できない。だから今から陣営の準備をしている」
あたしは紙を広げた。
「敵の陣営はコレです」
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[竜宮3-F]
[雲取3-H]
[渋水1-G]
[京奈月3-L][藤宮2-D][ミリア2-F][夕霧2-K][日野原2-B][天女3-B]
[1-J][1-K][2-E][1-H][1-I][3-D][3-E][3-G][3-I][1-L][2-L][1-A][1-B]
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
(攻撃方向)
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「この陣形は『鶴翼の陣』。大部隊が敵を包囲して殲滅するのに適した陣形と言われています。しかもこの陣形は『Y字型』にして、大将のいる本陣を後ろ側にして、正面からの防御にも強いです」
あたしはこれでも『微妙に歴女』だ。
戦国時代なら上杉謙信を描いた海音寺潮五郎の『天と地と』、武田信玄を描いた新田次郎の『武田信玄』、斉藤道三と織田信長を扱った司馬遼太郎の『国盗り物語』くらいなら読んでいる。
決して『ラノベしか読んでいない』訳じゃない。
菖蒲浦がそれを見てうなずく。
「なるほど、天辺さんの言う通りね。するとこちらは『魚鱗の陣』で挑むのかしら?」
さすがは華道部部長、彼女もわかっている。
「ええ、あたし達の陣形はこれです」
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(攻撃方向)
↑↑↑↑↑↑
[天辺1-E]
[1-C][1-D]
[1-F][鳳2-A][2-H]
[斉藤2-G][菖蒲浦3-K][咲藤3-J][海野3-C]
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「『鶴翼の陣』に対しては『魚鱗の陣』が有効と言われています。実戦でも武田信玄が三方ヶ原の戦いで徳川家康を打ち破り、逆に家康は関ヶ原の戦いで西軍の鶴翼に魚鱗で対峙してます」
咲藤ミランが広げた紙を指さして指摘した。
「歴史上の話はわかったが、この状態でも敵と圧倒的な戦力差がある事は変わらないだろう。取り囲まれたら、どうにも出来ないんじゃないのか?」
菖蒲浦も意見を述べる。
「天辺さんの言う通り、『鶴翼の陣』には『魚鱗の陣』で挑むのがセオリーだけど、雲取側も強引な突進を警戒して、『Y字型』にしている上、鶴翼の展開も前後の二段構えにしているわ。そう簡単に雲取の本陣まで切り込めると思えないけど?」
あたしはニヤリと笑って説明した。
「確かに『鶴翼の陣』が包囲して殲滅する陣形に対し、『魚鱗の陣』は突進突破型の陣形。だけどあたし達の狙いは、その突進突破型である事が重要なんです」
そう言って敵の陣形を書いた紙を指さした。
「雲取側は、後から参加した1-J、1-K、1-A、1-Bは最前列の両端に配置してます。つまりこの4クラスは雲取に信頼されていない。同じ理由で二列目の最右翼と最左翼は、天女梨々花と京奈月理鈴。この二人も信頼されていない。実質、雲取麗華に信頼されているのは、本陣前の渋水と背後を守る竜宮だけです」
あたしは全員の顔を見渡した。
「この点と『中立組』があたし達の左側に陣取っている点が、あたし達の勝機です」
この続きは、明日7月17日(水)投稿予定です。




