11、体育祭の激闘(女子騎馬戦・二回戦)
昼食はお弁当を食べ終わったら、早々にあたしは七海の所に戻った。
普通なら彼氏と一緒に体育祭の昼食を食べたら、
「今日の○○の時、すごくカッコ良かったよ!」
とか
「疲れたでしょ。甘いモノも用意してあるからネ!」
という、カップルの甘~い会話があるのだろうが、
慈円多学園ではそんな生ぬるい交際は許されていないのだ!
七海には午後の作戦と、あたしが第一回戦で敗退してしまった事について、相談に来たのだ。
もっとも相談と言っても
「後の事は咲藤ミランの指示に従ってくれ」
としか言いようが無いのだが。
しかし七海と一緒に、裏切り者・佐野美香子もいた。
あたしはけっこうムカついていたので、佐野美香子をスルーする。
あたしは七海に話しかけた。
「七海、悪いんだけど、あたしは一回戦で負けてしまったから、二回戦には出場できない。あたしに代わって七海が3-Jの咲藤先輩と連携を取ってくれる?」
「え~、美園、負けちゃったの?」
佐野美香子がそう言った。
だがあたしは完璧に無視する。
「今から一緒に咲藤先輩の所に行ってくれる?」
「あれ?私はシカト?」
佐野美香子が白々しい態度で会話に入ろうとする。
七海はそんな彼女を一瞬だけ見た後、あたしに視線を戻すと疑問そうな顔をする。
「でも美園は午前の競技で二回一位を取っているよね。クラス対抗リレーも二位だったでしょ。まだ抽選券はあるんじゃないの?」
「あたしはまだ二枚持ってるけど、他の騎馬の連中が無いんだよ。一チームで四枚の抽選券が必要でしょ?」
すると佐野美香子が話しに割って入ってきた。
「抽選券の一枚は、あたしがあげるよ。あたしの騎馬チームは負けてないし、借り物競争で一位を取った分があるから」
あたしは横目で佐野美香子を見た。
「だから、ねぇ、美園。怒らないで、もう許してよ。本気で美園から中上君を取ろうとした訳じゃないんだから」
彼女はあたしに拝むような仕草をした。
・・・本当か?あわよくば、とか思ってたんじゃないのか?・・・
「それでもあと一枚足りないよね。誰か余っている人がいれば」
「それなら、私のを使って」
そう声をかけて来たのは、後夜祭のガールズ・バンドの一人だった本城マキだ。
「私はさっき騎馬戦で勝って、相手の抽選券を一枚余分に持っている。学園祭の時のお礼もあるから、美園に使ってもらいたいの」
そう言って抽選券をあたしに差し出す。
「ありがとう。すごく助かる」
あたしはそれをありがたく受け取った。
「あれ?わたしには感謝はないの?」
そういう佐野美香子に、七海が肘で軽く小突く。
「美香子のは、お昼の謝罪でしょ。お礼を要求できる立場じゃないじゃん」
彼女は舌をペロッと出して、抽選券を一枚、あたしに手渡した。
「さあ、これで参戦可能となった。二回戦は必ずリベンジを果たしてよ!」
七海はそう言って、あたしの背中を叩く。
あたしも強く頷いた。
・・・
女子騎馬戦、第二回線。
現時点での陣営は以下だ。
【雲取連合軍】18クラス
<中核組>
雲取麗華(3-H)、天女梨々花(3-B)、竜宮翠子(3-F)、京奈月理鈴(3-L)
藤宮姫野(2-D)、ミリア・ザイツ・橋立(2-F)、夕霧玲奈(2-K)、日野原葵(2-B)
渋水理穂(1-G)、
<支援組>
3-D、3-E、3-G、3-I、
2-E、2-L
1-H、1-I、1-L
【咲藤同盟軍】12クラス
<中核組>
咲藤ミラン(3-J)、菖蒲浦あやめ(3-K)、海野美月(3-C)
鳳カンナ(2-A)、斉藤カノン(2-G)
天辺美園(1-E)
<支援組>
2-H、
1-A、1-B、1-C、1-D、1-F
【中立組】6クラス
エスティ・ロスナバーグ(2-C)
3-A
2-I、2-J
1-J、1-K
この内(1-L)は川上純子ちゃんのいるクラスなので、あたしのいる『咲藤同盟軍』に味方する事はまず無いだろう。
実質は『雲取連合軍の中核組の一つ』と言って過言ではない。
それと「中立組」とは言っても、完全に中立な訳ではない。
どちらか優勢な方に着こうとしているのだ。
よって場合によっては『突然に敵陣営』になる可能性がある。
全クラスの騎馬が運動場に集結する。
今度は、あたしが馬上の武者役だ。
「それではただいまより、女子騎馬戦の第二回戦を開始します」
アナウンスと同時に「うわぁーー!」という声が再び沸き起こり、女子騎馬戦が開始された。
あたしの騎馬は、あたしが軽い上に騎馬の三人は重量級で力もある。
よってそれなりスピードが出る騎馬チームだ。
しかしあたしは、無暗に突っ込まなかった。
乱戦状態になれば、第一回戦のように後ろからハチマキをかすめ取られる可能性がある。
あたしは後方から周囲を回り込むように様子を伺った。
そしてガチ戦闘をしている騎馬の後ろに回り込むと、その後ろを走り抜けるように指示する。
後ろを走り抜ける瞬間、あたしは身体を大きく横に伸ばして、狙った騎馬武者の頭からハチマキだけをかすめ取った。
あたしの騎馬は力自慢が揃っているから、上でこんな風にバランスの悪い体制でも持ちこたえられるのだ。
敵が気付いて追いかけて来た場合は、ダッシュで逃げる。
それほど力がある訳じゃないあたしとしては、ガチンコのタイマンは避けるのがベストだ。
開始から5分、「騎馬戦終了です」のアナウンスが流れた。
あたしが取ったハチマキは5本。
かなりの大勝利だ。
そして『咲藤同盟軍』としても、かなりの勝ちを収めていた。
やはりこちらは団結力が違う。
だが喜んだのも、そこまでだった。
みんなで集めたハチマキの封筒を開いて、あたし達は絶句した。
「な!」
なんと、封筒の半分は空だったのだ!
あたしは信じられない思いで、空の封筒を見つめた。
そこに斉藤カノンが慌ててやって来た。
「ハチマキの封筒、どうだった?」
「半分は空の封筒でした」
あたしは、空の封筒を差し出して答える。
「やっぱり・・・」
斉藤カノンが悔しそうな顔をする。
「あたし達も、他のみんなも、雲取軍から奪い取ったハチマキは半分以上が空だった。どうやらあいつら、一般兵士のハチマキは空にして、抽選券は大将レベルに集中させているらしい」
どうやらそういう事らしい。
確かに、あたしも余分な抽選券は強い騎馬であろう咲藤ミランの騎馬に預けていた。
だからこそ一回戦で負けても、こうして二回戦に参戦できた訳だ。
だが最初から兵士には空の封筒のハチマキを持たせ、大将の騎馬に抽選券を集中させるとは・・・。
確かに騎馬戦のルールは
『参加資格は抽選券を一人一枚は持っている事。抽選券は譲渡する事も預ける事も自由』
となっている。
だが最初から『抽選券なし』の騎馬を作るとは。
この方法なら、一般兵士の騎馬はいくら負けても、次の回には参戦できる。
だが大将レベルの騎馬がハチマキを奪われたら、一挙に大敗してしまうではないか。
「これも女王・雲取麗華がいればこそ、出来る作戦かもね」
斉藤カノンがため息交じりに、そう言った。
あたしは敵陣営を睨んだ。
確かにセブン・シスターズNo1で、慈円多学園の女王である雲取麗華があって、初めて可能な作戦だろう。
だがこの他を顧みない中央集権的なやり方は、雲取麗華だけの考えではないように思えた。
『目的のためなら手段を択ばない』
これは渋水理穂のやり方ではないか?
そして、あたしのこの考えは、後ほど正しかった事が判明する。
この続きは、明日7月16日(火)朝7時過ぎに投稿予定です。




