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あなたにこの弁当を食べさせるまで!  作者: 震電みひろ
第三章 仁義無き戦い!少女戦国編
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11、体育祭の激闘(吹奏楽部の聖少女)

慈円多学園女子の最大の決戦である体育祭の「女子騎馬戦」

これには豪華賞品の抽選券以外に、

「結婚前提の交際をリセットする権利」が含まれていた。


学園の女王である雲取麗華は、他2人のセブン・シスターズと、

一年でありながら人気ランキングベスト3の渋水理穂と「連合軍」を結成した。


それに対し、美園はセブン・シスターズの咲藤ミランと菖蒲浦あやめと同盟する。

その中で、あまり権力には興味がないセブン・シスターズの一人

海野美月を美園が説得することになった。

 放課後、あたしは音楽ホールに向かった。

慈円多学園には、通常の講堂以外に小規模な演奏会やライブが出来るように、音楽ホールがある。

菖蒲浦あやめから『海野美月は音楽ホールで待っている』と言うメールを貰ったのだ。


 地下一階に降り、音楽ホールのドアを開いた。

中はちょっとした階段状になっていて、百人くらいなら入れる小規模なホールになっている。

 そのステージの上で、海野美月は一人でバイオリンを弾いていた。

有名な「ロミオとジュリエット」のテーマ曲「A Time for us」だ。

演奏の邪魔をしては悪いので、あたしは客席に座ってしばらく彼女の演奏を聞いていた。


 バイオリンを弾く彼女の姿は、優雅で清楚だった。

昔の洋画に出てくる女優のようだ。

いつの間にか、あたしは彼女の中に「ロミオとジュリエットの有名な一シーン」を見ていた。

なるほど『吹奏楽部の聖少女』と呼ばれるだけのことはある。


 やがて演奏が終わった。

海野美月があたしの方を見て、恥ずかしそうに微笑んだ。


「ごめんなさい。待たせてしまって」


「いいえ、こちらこそ素敵な演奏を聴けて、ラッキーでした」


あたしは素直にそう言った。

彼女はステージから降りてきて、あたしの隣に座る。


「ありがとう。それから演奏が終わるまで待っていてくれた事も。演奏を中断されるのは嫌いなの」


彼女はそう言いながら、バイオリンをケースに仕舞った。


「今日はサックスじゃないんですね」


あたしがそう言うと


「吹奏楽部では、あたしはサックスの担当だから。吹奏楽では弦楽器はコントラバスしか使わないし。でもバイオリンは昔から習っていて、今でも一人の時は弾いているの」


と静かに答える。

大人しい人だなぁ、と改めて思う。


 海野美月は、身長はあたしと同じ156cmくらいだ。

女子としては平均的だろうが、セブン・シスターズの中では一番低い。

見た目も他の6人に比べると幼い感じがする。

『ショートカットの広瀬すず』とでも言えばいいのだろうか。

雰囲気だけ言えば映画『レオン』の時の、ナタリー・ポートマンにも似ている。


「話って言うのは?だいたいの予想は着くけど」


彼女の方から先に切り出してきた。


「え、あ、はい、すみません」


なぜかあたしは激しく動揺してしまった。

彼女の静かな声の前で、これから言う『権力争いみたいなもの』が恥ずかしく感じたのだ。


だが言うしかない。

辺に取り繕っても仕方ないだろう。

あたしはストレートに言う事にした。


「今度の体育祭の騎馬戦、海野先輩にもあたし達の味方になって欲しいんです」


「咲藤さんや菖蒲浦さんの味方?それって雲取さんや天女さん、竜宮さんとは敵対しろって事?」


「・・・はい・・・」


「あたしは、そういうの嫌だな」


彼女は独り言のように、だがハッキリと言った。


「セブン・シスターズだとか、学園の支配者だとか、男子だけ一生縛る婚約者だとか。普通の高校生は、そんなことしないでしょ」


あたしは虚を突かれた思いがした。

確かに、海野美月の言う通りだ。

あたしもこの学園に染まっていたから、こんな事を普通に話していたが、確かに普通の高校生はこんな事はしていない。

さらに彼女の言葉は続いた。


「権力闘争みたいな事って、あたしには向いていないの。みんながどう言おうが、あたしは普通の子だから。あたしは誰の味方だとか、誰の陣営とか、そういうのには関わりたくない」


あたしは下を向いた。

彼女は大人しいけど、芯は強そうだ。

人に言われて自分の意見を曲げるタイプには思えなかった。


・・・仕方ないな・・・


「わかりました。咲藤先輩たちにもそう伝えます。練習中に邪魔して、すみませんでした」


あたしは立ち上がると、頭を下げた。

何となく、自分が恥ずかしい気がした。


あたしが立ち去ろうとすると、「待って」と彼女の方から声をかけて来た。

あたしが振り返ると、海野美月も立ち上がる。


「天辺さん、あなたはセブン・シスターズになりたいの?」


「いえ」


あたしは頭を左右に振った。


「じゃあどうして、一年生なのにそこまで熱心なの?」


 そう言われて、あたしもハッとした。

なぜあたしはこの件に熱心なのか?

咲藤ミランに頼まれたから?クラスのみんながあたしに協力してくれたから?渋水理穂がムカつくから?

それらもあるかもしれない。

だけど本心は・・・


「・・・あたし、付き合っている男子がいるんです。と言っても確定したのは、つい数日前なんですけど・・・」


海野美月は小首を傾げた。


「それはファイブ・プリンスか、インデペンデンツの誰か?」


「いえ、同じクラスの男子です。同じ中学の出身で、あたしの幼馴染です」


「それで?」


「はい。体育祭の最後の賞品の中には『交際をリセットさせる権利』があると聞きました。それが恐くて・・・」


 その思いを口に出したのは初めてだった。

そう、あたしはそのために少しでも多くの抽選券を集めようとしているのだ。

兵太を、誰かに奪われないために。


 そんなあたしを、海野美月はしばらく黙って見つめていた。

そしてゆっくりと口を開いた。


「わかった。あたしもあなたに協力する。セブン・シスターズではなく、あたし個人として。戻って咲藤さんと菖蒲浦さんに、そう伝えて」


あたしは驚いて顔を上げた。

だが海野美月の表情は本気だった。


「でも言っておくけど、これはあくまであたしが協力するって意味だから。あたしのいる3-Cのみんなが協力してくれるかどうかは解らない。みんなにお願いはするけど。それでもいい?」


「はい、もちろんです」


あたしは何となくうれしかった。

味方をしてくれる事もそうだが、海野美月があたしと同じような考えでいた事がだ。

彼女が同じ学年だったら、いい友達になれたような気がする。


「あたしたち、似てるかもしれないね」


海野美月も、そう言って最後にニッコリと笑った。

この続きは明日7月12日(金)7時過ぎに投稿する予定です。

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