11、体育祭の激闘(第一回作戦会議)
その夜、早速あたしは咲藤ミランと斉藤カノンに
「1-Eは咲藤の陣営に参加する」とSNSのDMで伝えた。
当然、彼女達が喜んでくれた事は言うまでもない。
だが翌日、いやもしかしたら前日からかもしれないが、学校内の雰囲気は明らかに変わっていた。
各クラスでどちらの陣営に入るか、その話で持ち切りだったのだ。
セブン・シスターズがいるクラスは、もちろん彼女達の意思でほぼ決定するが、
それ以外のクラスでは喧々諤々と議論されていた。
何しろ高校生活はクラブ活動での繋がりが強い。
雲取麗華はテニス部で、咲藤ミランは女子陸上部だ。
クラスの中で所属する部が同数なら、当然意見は分かれる。
あたし達E組や渋水のG組のように、すんなり決まる方が少ないかもしれない。
だがそうは言いつつも、次期セブン・シスターズ候補である『インデペンデンツ』の連中を核に、
それぞれのクラスがいくつかの陣営に分かれて行った。
今の所は、以下の勢力となっている。
【雲取麗華の陣営】
雲取麗華(3-H)、天女梨々花(3-B)、竜宮翠子(3-F)、
藤宮姫野(2-D)、日野原葵(2-B)
渋水理穂(1-G)
【咲藤ミランの陣営】
咲藤ミラン(3-J)、菖蒲浦あやめ(3-K)、
斉藤カノン(2-G)、
そしてあたし、天辺美園(1-E)
【どちらに着くか未定、または第三勢力】
京奈月理鈴(3-L)、海野美月(3-C)、
夕霧玲奈(2-F)、ミリア・ザイツ・橋立(2-F)、鳳カンナ(2-A)、エスティ・ロスナバーグ(2-C)
他1年のEとGを除くクラス。
現時点では雲取6:咲藤4で、あたし達が不利だ。
実はセブン・シスターズが、体育祭騎馬戦でここまで二つに分かれるのは珍しい事だそうだ。
よってそれ以外のクラスは、どちらに着けば有利か、様子を伺がっているらしい。
その日の昼食、あたしは『兵太と一緒に屋上でお弁当』ではなく、
学食の最上階テラス『ホワイト・テーブル』に座っていた。
一緒にいるのはファイブ・プリンス・・・ではなく、咲藤ミランと菖蒲浦あやめだ。
咲藤ミランがため息がちに言った。
「やはり京奈月理鈴は、雲取麗華の方に着くか・・・」
菖蒲浦あやめが静かに頷く。
「彼女は常に勝ち馬に乗るから。今のところ優勢なのは雲取麗華の方だしね」
「天女梨々花はどうだ?本心ではかなり雲取麗華を嫌っているはずだが」
菖蒲浦あやめが静かに首を左右に振る。
「ダメでしょう。反感は持っていても、雲取に反抗するほどの気概は無いわ。特にこの騎馬戦では抽選券を多く集める事が目的だから、わたしたちの方には付かないでしょうね」
あたしは疑問に思っている事を聞いてみた。
「今まであまり名前が出て来ていないんですけど、海野美月さんはどうなんですか?」
海野美月、彼女もセブン・シスターズの一人だ。
だが他のセブン・シスターズのメンバーに比べると、どちらかと言うとパッとしない。
これは『美人じゃない』という意味ではない。
海野美月は美人だ。
しかも可愛い感じの『男子に好かれそうな美人』だ。
だが他のメンバーに比べると、オーラが無いのだ。
一言で言うと『普通っぽい』。
だが演奏となると雰囲気が変わる。
彼女の演奏を一度だけ聞いた事があるが、サックスを吹いている彼女は、周囲の雰囲気を一変させていた。
音楽に合わせて、まるで役者のように雰囲気を変えてしまうのだ。
彼女が『吹奏楽部の聖少女』と呼ばれていた理由が理解できた。
あたしがそう言ったのを聞いて、咲藤ミランと菖蒲浦あやめは顔を見合わせた。
やがて咲藤ミランが口を開く。
「おそらくダメだろ。海野美月は」
「どうしてですか?」
変わって菖蒲浦あやめが答える。
「彼女はセブン・シスターズの事には興味がないのよ。むしろ敬遠しているみたい」
「音楽の事しか頭にないみたいだからな。学園内での地位とか権力とか、そんなものには興味がないんだ」
・・・むしろソッチが普通だと思うが・・・
そんなあたしの考えを察したのか、
菖蒲浦あやめが付け加える。
「わたし達だって、何もセブン・シスターズの地位に固執し、権力を行使しようとは思っていない。だけどクラブの予算とか、部員達の立場とか、様々な点で有利な面もあるのは事実だから」
「『お弁当お届けレース』でもな」
咲藤が苦笑しながら言う。
そうか、セブン・シスターズでも、そんな女子がいるんだ。
みんなモデルか女優みたいな美人揃いだから、てっきりギラギラした人たちばかりかと思っていた。
その時、菖蒲浦あやめが、ふと思いついたように顔を上げた。
「もしかして、天辺さんなら・・・」
すると咲藤ミランも彼女の方を見た。
「なるほど、天辺ならもしかして・・・」
・・・なんだ、何を言っているんだ?あたしなら、何だと言うのだ?・・・
菖蒲浦あやめが、あたしの方を見た。真剣な表情だ。
「天辺さん、あなた、海野美月に会って、あたし達に協力するように話してみてくれない?」
「どうしてあたしなんですか?あたしは海野先輩とは、一度も話したことが無いですけど」
すると咲藤ミランが問いかける。
「天辺、おまえは本心では、セブン・シスターズになりたいと思ってないだろ?」
図星だ。
って言うか当たり前だ。
セブン・シスターズは、誰もが超ド級の美人ばかりだ。
あたしなんかが入ったら、それこそ
『六人の月の中に混じった、一人だけのスッポン』
になってしまう。
惨めな思いはしたくない。
「ええ、まあ、あんまり・・・」
あたしは戸惑いながらも正直に口にした。
「それだよ、それ」
咲藤が指をパチンと鳴らす。
「海野美月もセブン・シスターズにはなりたくなかった。最後まで断ろうとしていたんだ。オマエならきっと海野と話しが通じると思う」
「そうね、天辺さんなら海野さんとも話が合うかもしれない。私が海野さんに連絡を取るわ。セブン・シスターズの中では、私が一番彼女とは仲がいいから」
それで話は決まってしまった。
・・・本当に大丈夫か?海野美月とあたしじゃ、はるかに向こうの方が美人なんだけど・・・
この続きは、7月11日(木)7時頃、投稿予定です。




