11、体育祭の激闘(レジスタンス結成!)
はあぁ・・・
あたしは内心ため息をつきながら、廊下を歩いていた。
やっと「兵太とお弁当十回連続達成!」が出来たのに、余計な心配事が増えちゃったよ。
そりゃ彼氏ナシ女子には運動会の件は朗報だろうが、
彼氏がいる女子にとっては頭痛のタネ以外の何物でもない。
『リセット・ルール』『お弁当十連続達成の権利』
マジでそんなの、止めてくれよ。
それ以外にも、体育祭で男子にお弁当を食べさせたら、それは5回分にカウントされると言う。
そこで事前に女子生徒にはWebで「誰とお弁当を一緒に食べたいか?」というアンケートを取り、
人気が一定以上ある男子には『臨時のお弁当お届けレース』が行われると言う。
そして七海が言うには、兵太はけっこう人気があるらしい。
マジであったま痛いぜ。
ドシン!
廊下の角を曲がった所で、誰かにぶつかった。
「痛~い」
そう言ったのは、斉藤カノンだった。
あたしも痛かったが、無言で自分の頭をさする。
心労で、今は痛みも鈍いみたいだ。
「どうしたの、ボーっとしていたみたいだけど?」
「いや、別に・・・」
あたしは言葉を濁した。
他の人にいくら言っても、仕方がない話だ。
「でもちょうど良かった。天辺さんの所に行こうとしていたのよ」
あたしに?
斉藤カノンは、疑問の目を向けるあたしの手を取った。
「一緒に来て。これから作戦会議をするから」
斉藤カノンに連れて来られたのは、またもや女子陸上部の部室だった。
既に咲藤ミランを含む主力メンバーが集まっていた。
「全員揃ったな、それじゃあ始めるとするか。カノン、頼む」
咲藤ミランがそう言うと、斉藤カノンは首を縦に振った。
「みんなももう知っていると思うけど、体育祭では女子には一人一枚、抽選券が配られる。この抽選券の賞品の中には、『交際をリセットする権利』や『意中の男子への弁当お届け十連続達成の権利』が含まれる」
斉藤カノンが全員の方を振り向いた。
「もっとも重要な点は、この抽選券が『他人に預ける事も譲渡する事も可能』という点。そして各種目の一番にはさらに抽選券が賞品として与えられ、それが最後の女子騎馬戦の出場資格となっている点」
斉藤カノンが一瞬、あたしの方を見た気がした。
「つまりこの体育祭は『いかに抽選券を集める事が出来るか?』という事が最大の焦点なの!」
ブッ!
マジ?そういう事なの?
正直、そこまで考えが回っていなかった。
だが確かに言われてみれば『預ける事も譲渡も可能』と言う事は、そういう意味になるだろう。
すると最大の焦点は・・・
「騎馬戦までに、どれだけの仲間を集められるか?」
答えは斉藤カノンが言った。
「一年生は知らないと思うけど、女子騎馬戦では、基本的にはそれぞれ武者役のハチマキに『抽選券』が貼り付けられる。武者がそのハチマキを取られるか、騎馬が崩れたら、その騎馬は負け。だけどこれには裏ルールが存在する」
みんな真剣に彼女の話を聞いている。
あたしも彼女が言う『裏ルール』の意味を知りたかった。
「抽選券は出場資格だけど、預ける事が可能。つまり必ずしも武者役が持っている必要はない。自分のチームが弱いと思えば、強い騎馬チームに預けておけばいい。自分が負けても、預けたチームが勝ち残れば抽選券は残る」
斉藤カノンは、ホワイトボードに簡単な絵を書きながら説明した。
「それだけじゃない。最初に約束をしておけば、強いチームが勝ち取った抽選券を、配当として受け取る事も出来る。これは弱いチームにとってのメリット。逆に強いチームのメリットは、抽選券を複数持つ事で、もし仲間の強いチームが負けた場合、そいつを復活させる事ができる。出場資格だからね」
そして斉藤カノンはもう一度全員を見渡した。
「つまりこの騎馬戦は『どれだけ仲間を集められるか』が最大のポイントになるの!」
あたしは呆然として、彼女の説明を聞いていた。
まさか、たかが体育祭の騎馬戦に、そこまでの深謀遠慮があろうとは・・・。
それまで腕を組んで黙っていた咲藤ミランがあたしを見た。
「天辺、おまえにもクラスの連中をまとめて、あたしの仲間になって欲しい」
「あたしが、ですか?」
ビックリして聞き返す。
「そうだ。天辺には人をまとめる力がある。自然にみんなの中心になっていく力だ。天辺になら出来るとあたしは信じてる」
いやぁ、あたし、そんなカリスマ性は無いよ。自信も無い。
咲藤ミランは立ち上がると、前にあるホワイトボードの前に出た。
「騎馬戦は基本はクラス単位の勝負だ。だがクラスだけではなく、クラブによる繋がりもある。それとセブン・シスターズを中心とした陣営が出来ると思われる。おそらくお互いに争いあう事になろうだろう」
そしてミランがホワイトボードに書き込む。
「雲取麗華が率いる3-Hにはおそらく、天女梨々花の3-Bのと竜宮翠子の3-Fが付くだろう。天女は本心では雲取麗華を嫌っているが、正面切って敵対はしないからな。同じくセブン・シスターズの京奈月理鈴の3-Lも向こう側だ。京奈月も勝ち馬に乗るタイプだ」
ホワイドボードに
『雲取麗華(3-H)、天女梨々花(3-B)、竜宮翠子(3-F)、京奈月理鈴(3-L)』
と書き込まれた。
「2年生のインデペンデンツの連中は、どっちに着くかはまだわからない。だが1年の渋水理穂は雲取に付くだろう」
雲取陣営に『渋水理穂(1-G)が追加される』
「それに対し、あたしの仲間はセブンシスターズでは少ない。菖蒲浦あやめと海野美月に声は掛けてみるが・・・どうなるかはわからない。確実なのはここにいる斉藤カンナの2-Gくらいだ」
ホワイドボードを真ん中で線を引き、さっきとは反対側に
『咲藤ミラン(3-J)、斉藤カンナ(2-G)』
と書き込む。
「ここで天辺のクラスが加わってくれれば、やっと5対3まで持ち込む事ができる。頼む、協力して欲しい」
あたしは即答できなかった。
別に咲藤ミランに協力する事がイヤな訳じゃない。
むしろ『雲取-渋水連合』に対抗する陣営なら、こっちからお願いしたいくらいだ。
だけどあたしが言ったくらいで、クラスのみんなが賛成してくれるだろうか?
そんな様子を見て、斉藤カノンが言った。
「天辺さん、あなた同じクラスの男子と付き合っているんでしょう?しかもその男子もかなりの有望株だって言うじゃない。これはあなた達カップルを守るためでもあるのよ」
うう、そう言われても、あたしにはどうにも出来ないよ。
そりゃあ、そんな一大決戦なら、単独でいるのは不利な事はわかるけどさ。
不安そうなあたしの様子を察したのだろう。
咲藤ミランが優しくこう言った。
「別に天辺にここで確約してくれ、とは言わない。もし天辺のクラスが『協力できない』と言うのなら、それも仕方がない。ただ天辺がここでアタシ達に協力する、という約束だけでいいんだ」
あたしは上目遣いに咲藤ミランの顔を見た。
クラス全体はわからないけど、あたしだけの協力でいいのなら・・・
「わかりました。ともかくあたしは咲藤さんに協力します。クラスのみんなにも、その事を勧めてみます」
「ありがとう。助かったよ。実は菖蒲浦あやめも『天辺が一緒なら協力したい』と言っているんだ。これで雲取達との差もだいぶ縮まった」
菖蒲浦あやめ?
あの紫光院涼様との『思い出の料理対決』で争ったセブンシスターズの一人が?
確かにあの時あたしは勝負に勝ったが、公平に二人ともお弁当を届ける事にした。
それを恩義にでも感じたのだろうか?
「大丈夫だ。天辺は自分が思っている以上に、人を引き付ける力があるよ。天辺ならみんなをまとめられる」
そう言って咲藤ミランは、あたしの肩を優しく叩いた。
・・・
「いいじゃん、乗ろうよ、その話」
クラスに戻ってあたしが真っ先に相談したのは、親友とも言うべき如月七海だ。
「セブン・シスターズが真っ二つに割れて戦う、慈円多学園最大の決戦!その内部から情報を取れるなんて、新聞部としては見逃せないじゃん」
そう、彼女は新聞部だ。
同時に『慈円多ジャーナル』という『学園の非公認新聞&サイトを運営するサークル』の一員でもある。
一緒にいた学級委員の佐野美香子も賛成する。
「何よりその陣営に加わらないと、あたし達のクラスは孤立して戦う羽目になるんでしょ。だったらどこかの陣営に加わらないと勝ち目がない。かと言って、あの渋水理穂の配下には付きたくない」
話を聞きつけて来たクラスの女子が集まる。
「そりゃ絶対に咲藤ミランの側に着くべきだよ」
「この前の学園祭で、渋水のG組には嫌な思いをさせられてるんだ。アイツの下は嫌だよ」
「迷う事なんてないよ。あたしらE組は咲藤ミランの陣営に入るべきだよ」
「そもそも美園を信頼して声をかけてくれたんでしょ。それに答えなきゃ」
「この前の学園祭は、美園のお陰であたし達はG組に勝てたんだし。今度はあたし達が美園に協力するよ」
特に後夜祭ステージ枠を奪われかけた、ガールズバンドのメンバーは熱心だった。
・・・良かった・・・
あたしはホッとした。
正直、みんなが賛成してくれるか、自信が無かった。
でもこの前の学園祭での売上勝負の一件があったおかげか、予想以上にあたし達の結束力が高かった。
まぁ『渋水理穂憎し』の思いが、だいぶ高いみたいだが。
「ありがとう、みんな!わかった。あたし達E組は、咲藤ミランの3-Jに協力する。彼女にもそう伝えるよ。何とか協力して雲取麗華と渋水理穂の連合軍を打ち破ろう!」
あたしはみんなを見回し、力強くそう言った。
この続きは7月8日(月)の朝7時過ぎに投稿する予定です。




