11、体育祭の激闘(そんなのアリか?)
第一談話室には、けっこうな人数が集まっていた。
ここにいるのは、全員が女子生徒だ。
セブン・シスターズの面々。
そして次期セブン・シスターズの候補であるインデペンデンツの連中。
さらには、この前の学園祭で人気投票でベスト7に入った女子達。
「天辺さん、そこに座って」
雲取麗華は、あたしに一番端の席を指さした。
一つだけイスが空いている。
渋水理穂の隣だ。
あたしは言われた席に腰を下ろした。
渋水が嫌な目付きで睨んでいる。
「これで全員揃ったわね」
雲取麗華が全員を見回す。
「これから体育祭の運営方針、並びに特典について打合せを行います」
・・・
「と言うように、全ての女生徒は『抽選券』を一票持ちます。それ以外に各競技で一位となった人にも、賞品として『抽選券』が渡されるわ」
雲取麗華が説明した。
「抽選券は、最後の『女子騎馬戦』の出場資格となります。これを持っていない女生徒は騎馬戦に参加できない事になるけど、他人に預ける事も譲渡する事も可能よ」
雲取麗華が言った事を、セブン・シスターズの一人・竜宮翠子がホワイドボードに書いていく。
彼女は『雲取麗華の腹心』と呼ばれている。
竜宮翠子は雲取麗華の後押しがあったからこそ、セブン・シスターズに入れたと、もっぱらの噂だ。
しかし、抽選券ねぇ。
何の抽選をするんだろう。
当選者には『ハワイ旅行一週間』でもくれるんだろうか?
「当選者には『ハワイ旅行一週間』が贈られます」
ブッ、思った通りになった。
あたしの心でも読んだか?
「他にも『米国アイビーリーグ1ウィーク留学』『ルーブル美術館とベルサイユ宮殿を巡る一週間』『USJ特典付き入場券と宿泊券』『TDR内豪華ホテル宿泊券と入場券』『高級ブランド品』『高額商品券』などの景品があります」
ほぇ~、さすが慈円多学園。金があるなぁ。
高校の体育祭レベルの景品とは思えない。
こういうのも、卒業生や後援組織であるAWSSCからの援助で出来るんだろうな。
「でも最大の特典は『意中の男子への弁当お届け十連続達成の権利』と『他女子と交際が確定した男子を、フリーの状態に戻せる権利』って事になるわね」
あたしはもうちょっとで、イスからずり落ちる所だった。
マンガだったら間違いなく、ずり落ちていた事だろう。
なんだって?
『他女子と交際が確定した男子を、フリーの状態に戻せる権利』?
そんなの、今更アリなのか?
雲取麗華は続けた。
「これは言わば『意中の男子を獲得できなかった女子の敗者復活戦』。入学当初はどの女生徒も、どうしても学園一番人気の男子にしか目が行かない。しかし時間が経つにつれ、一番人気は無理と言う事が解り、二番手・三番手、そして身近な男子へと目が移って行くもの。そもそもこの学校の男子は容姿だけではなく、才能や家柄、財産などに恵まれた優良物件ばかりだからね」
あたしは唖然した状態のまま、雲取麗華の整った顔を見つめていた。
「しかしその時には『身近な妥協男子には、既に確定した彼女がいる』というのでは、あまりに他女子はやり切れない。その救済措置として『交際をリセットする権利』を賞品として与える事にするわけ」
いやいやいや、ちょっと、やめてよ。
あたし、今日でやっと兵太と
『お弁当連続十回達成』したばかりなんだから。
そんな権利、もし川上純子ちゃんの手にでも入ったら、また一からやり直しになってしまう。
・・・これは何か?雲取麗華と渋水理穂が、あたしを陥れるために仕組んだ事なのか?・・・
おまけに『意中の男子への弁当お届け十連続達成の権利』って、
この権利があれば、一回でも弁当を受け取ったら婚約確定ってこと?
あたしの目は、セブン・シスターズの一人・咲藤ミランの方に飛んだ。
彼女も最近、ファイブ・プリンスNo1の赤御門凛音様とうまく行っているはずだからだ。
だが咲藤ミランは腕組みをしたまま、目を閉じて黙っている。
どうやらこの件は、既に学校のルールとして決定してしまったものらしい。
しっかし、なんだよ、この話。
まるで『最終問題は特別に100ポイント!大逆転可能です!』ってバラエティ番組みたいな展開は?
あたしは呆然としたまま、『体育祭における特別ルール』を聞いていた。
・・・
「なんだ、美園は知らなかったんだ。その『リセット・ルール』」
あたしの最も仲のいい友達・如月七海はそう言った。
「それ、有名だよ。別に昨日・今日出来たルールでもないし。だからあたし達一年女子でも安心できるんじゃん。3年の先輩がダメでも2年。それがダメでも同学年って、チャンスはあるから」
どうやらあたしの情報収集不足だったらしい。
「そうなんだ・・・あたしはてっきり、また渋水理穂あたりが雲取麗華に頼んで、あたしに嫌がらせを画策したのかと思ったよ」
「渋水がそう思った所で、雲取麗華はそれに乗らないでしょ。腐っても『慈円多学園の女王』だからね。そこまで露骨なえこひいきはしないよ」
「でもそうなると、同学年で付き合っている場合は、たとえお弁当十回連続達成しても、次の運動会ではリセットされてしまう可能性があるんだよね」
あたしが暗い顔になると、七海が慰める。
「でもそこまで心配する必要はないんじゃない。そもそも『リセット・ルールの権利』なんて、そんなにたくさん無いはずだよ。一学年で5枚程度、だから全体でも15枚しかないんじゃないかな?」
う~ん、慈円多学園は1クラス女子が28人。それが12クラスだから一学年336人。
その中の5枚か。
確率は2%弱だから多くはないが・・・。
「でも美園の心配もわかるよ。相手が3年の先輩ならともかく、同学年だとあと3回もリセットされるリスクがあるんだからね。それに・・・」
「それに?」
「ここだけの話だけど、中上君ってけっこう女子に人気があるんだよ。見た目も可愛いし『優しそう』『誠実そう』ってね」
確かに兵太は、光るタイプではないが、見た目は可愛い系のイケメンかもしれない。
それに優しいのは当たっている。
誠実さも、まあマシな方か?
「あたし達1年女子も、そろそろ高嶺の花のファイブ・プリンスより、身近な男子に目が行く頃だしね。妥協彼氏ってところか?」
妥協彼氏とか言うな!
まるであたしが妥協したみたいに聞こえるじゃないかぁ!
しかも雲取麗華と同じ事を言いやがって。
「まぁそんなに心配する必要ないんじゃない?美園がしっかり中上君の気持ちを掴んでいれば、いいだけなんだから」
七海はそう言って笑いながら話をしめた。
こいつぅ、正論だけで話を終えやがって・・・
この続きは、明日7月8日(月)7時過ぎに投稿予定です。




