11、体育祭の激闘(序章)
「行くぞおっ!」
あたしは騎馬上から力強く号令をかけた。
「行くぞおっ!」
「行くぞおっ!」
「行くぞおっ!」
周囲から、同じような掛け声が響く。
鬨の声、という奴だろうか?
敵は眼前に広がる、同様の騎馬軍団。
だが敵は、あたし達の二倍以上だ。
あたしの、いやあたし達の、最大の戦いが始まった。
その一週間前。
あたしは兵太と一緒にお弁当を食べていた。
その日が、十日目のお弁当。
長くかかったが、やっと兵太にお弁当を連続して十回食べさせることに成功したのだ。
ここまで色んな事があったなぁ。
最初は、学園人気No1赤御門凛音様のお弁当お届けレースに参加していた事。
川上純子ちゃんが、兵太にお弁当を届けるようになった事。
そして最後の日に、あたしが兵太にお弁当を一緒に食べてくれるように告白した事。
だけど川上さんが、再戦を要求して来た事。
そして兵太のドタキャンにより、あたしは一度別れを決意した事。
その間に、学園人気No3・剣道部の紫光院涼様に助けられた事、そして紫光院先輩とお弁当を食べるようになった事。
だが真・生徒会によって、紫光院先輩とお弁当を食べる権利は、思い出の料理を再現する対決で決める事になった事。
その後、兵太と川上さんが富士急ハイランドにデートに行った事。
そして・・・そして、あたしが病気だと聞いて、兵太は川上さんではなく、あたしを選んでくれたこと。
だがその後すぐに夏休みになった事や、定期試験や学園祭があったりで、
中々十回、つまり二週間分、一緒にお弁当を食べる事が出来なかった。
それが今日、やっと達成する事が出来たのだ。
「へ~いた!」
あたしは呼びかけた。
兵太と肩が触れるくらい近寄る。
二人とも弁当を食べ終わった所だ。
「ん?」
弁当を片付けながら、兵太があたしの方を向いた。
「わかってる?今日が連続十回目のお弁当なんだよ!」
兵太がちょっと恥ずかしそうに、あたしから目線を逸らした。
「うん、わかってるよ・・・」
「これで兵太は『あたしの一生に責任を持つ前提で交際』しないとならないんだよ」
「わかってるよ、そんなの」
兵太はあたしから、目線だけでなく顔も逸らして、弁当を片付け始めた。
・・・なんだ、コイツ。あたしと結婚前提の交際が確定して、うれしくないのか?・・・
あたしはちょっと不満になった。
色んな事があって、交際確定したんだ。
もっと嬉しそうな顔をしろよ。
兵太は弁当を片付けると
「これは洗って返すから」
と、いつものように自分のバッグに入れる。
しばらくあたし達は無言だった。
・・・兵太の奴、何を考えているのかな?・・・
・・・あたしと結婚前提で付き合うって、イヤなのかな?・・・
あたしは不安になった。
この学園のルールでは
『女子からはいつでも交際終了できるが、男子からは出来ない』
となっているからだ。
女子にはメリットしか無いが、男子には重荷なのかもしれない。
突然、兵太が低いがハッキリした声で言った。
「こんなルール無くたって、俺はいつでも美園の一生を責任持つつもりで付き合うよ」
・・・突然の告白!・・・
あたしはビックリして、兵太の方を振り向いた。
予想外に近くに、兵太の顔があった。
真剣な眼差しだ。
あたしも兵太も、お互いの目を見つめ合う。
兵太がそっと、だけど力強く、あたしの両腕をつかんだ。
あたしもそれに抵抗しない。
兵太があたしを引き寄せるように力を込めた。
兵太の顔が近づいてくる。
あたしは目を閉じた・・・
兵太の、息が感じられる・・・
心臓がドキドキと高鳴る感じがした。
スッチャラ、スチャラカ、チャッチャッ!
スッチャラ、スチャラカ、チャッチャッ!
突然『笑点』のテーマ音楽が流れた。
あたしは慌てて目を開けた。
これは・・・あたしのスマホの着信音だ。
それも『登録外の人間』から着信した場合の!
兵太の驚いた顔が、目の前にある。
数秒、あたしと兵太はそのままの姿勢で固まる。
だが兵太は顔を逸らすと「ぷぷっ!」と笑い始めた。
「なんで笑うのよ」
「いや、だって、この状況で『笑点』の音楽とか、あり得なさ過ぎだろ?」
仕方ないじゃん、あたし、笑点けっこう好きなんだし。
第一、あたしのスマホに登録外の人間から電話が来る事など、まず無いのだ。
『笑点のテーマ』を設定していた事さえ、忘れていた。
「出なくていいのか?」
笑いを堪えながら兵太がそう言った。
あたしはそんなヤツを睨みながら、電話に出た。
電話から響いた声は、あまりに意外な相手だった。
「天辺さん?雲取です。突然の電話でごめんなさい。緊急で伝えたい事があって。あなたにだけ連絡が伝わっていなかったみたい。今すぐ『第一談話室』に来られるかしら」
「どんな要件ですか?」
あたしは不安になって聞き返す。
まさかまた『懲罰』とか言いだすんじゃないだろうな?
「来て貰えれば解るわ。あなたにとっても不利益な話ではないから」
言い方は一応お願い形式だが、雲取の話し方は事実上の命令だ。
仕方がない。
「わかりました。行きます」
「急いで来てね。みんな待ってるから」
雲取麗華はそう言って通話を切った。
仕方ない。
兵太とのキスはお預けだ。
あたしはため息と共に立ち上がった。
この続きは、明日7月7日9時くらいに投稿予定です。




