5、念願のポールポジション!(その2)
慈円多学園全女生徒の憧れ・赤御門凛音の婚約者となるべく「弁当お届けレース」を繰り広げる女子達。
ついに念願のポール・ポジションを引き当てた美園。
絶好のスタートを切り、最後の直線までトップで走る。
しかし、最後の100メートルの直線で、陸上部のエースでもある咲藤ミランが横に並んだ!
咲藤ミラン。
彼女はその長身から繰り出すコンパスの長さを活かし、100メートルの直線で見る見るスピードを上げてきたのだ!
悲しいかな、こっちは平均的日本人体型。
単なる直線スピード勝負なら、絶対に負ける!
だが今回は、前回にあたしの邪魔をした「フルメン・ザコメン軍団」が、彼女の足を止めてくれた!
多数現れる障害物に、さすがの咲藤ミランも、その脚力を十分に活かす事ができない。
やったぜ!
”復讐するは我にあり”、”昨日の敵は今日の友”
どっちも違うか?
目の前の廊下に、神々しく光る人物が現れた!
赤御門凛音様!
そこらの男子とはオーラが違う!
1キロ離れていたって、赤御門様なら見分けられるかもしれない。
あと少し、あと少しで、この弁当を、あの人の手に・・・・・・
だがそんなあたしの希望を討ち砕かんと、真横に現れた影があった。
咲藤ミラン!
もうあたしに追い付いたのか?
そしてすぐ背後にも迫る足音が聞こえる。
おそらく雲取麗佳と天女梨々香だろう。
最後の勝負だ!
あたしは既に乳酸が溜まりまくっている両足にムチを入れた。
太股の大腿四頭筋、ふくろはぎの下腿三頭筋、アキレス腱が悲鳴をあげる。
持ってくれ、あたしの脚!
そう必死の願いと共に、光輝くゴールが確実に近づいてくる。
だが咲藤は同一線上だし、雲取と天女もすぐ後ろだ。
赤御門様の直前3メートル前。
あたしは急制動をかけた。
これが西宮神社の福男みたいに、ゴールが抱き止めてくれれば最高なんだが。
このブレーキのかけ時が、また一つの勝負のポイントなのだ。
早すぎれば追い抜かれてしまうし、遅すぎればゴールである赤御門様を通りすぎてしまう。
だから暴走族のチキン・レースよろしく、『ちゃんとゴール前で止まれるギリギリのタイミング』でスピードを落とさねばならない。
だがこのタイミングで、追う者は追われる者より有利らしい。
雲取、天女が、あたしと咲藤に追い付いた。
ゴールの赤御門様の前に着いたのは、ほぼ4人同時だった。
競馬ならビデオ判定になるだろう。
「赤御門さん、私の作ったお弁当、一緒に食べて下さい!」
あたし、咲藤ミラン、雲取麗佳、天女梨々香、そして最後に5番目に入った渋水理穂の5人が、それぞれ自分の弁当を開いて、学園一の美男子で貴公子に差し出した。
「いつもありがとう。こんなに毎日おいしそうな弁当を作って貰って来て、一人しか選べないなんて、すごく残念だよ」
赤御門様、いや凛音様は、その爽やかな笑顔と心に響く渋みのあるテノールの声で、そう語りかけてくれた。
これだけでも、けっこう幸せかも。
「あれ?君は初めて見る子だよね?」
そう言われて、あたしはハッとした。
もしかして、あたしに話しかけてる?
あたしは怖々、顔を上げてみた。
そこには凛音様の澄んだ瞳が、優しい笑顔が、あたしを見つめていた。
ああ、男の人でこんなキレイな人が存在したんだろうか?
目はクッキリとしたアーモンド型の涼しげで、鼻も大きくも小さくもなく、それでいてスッと整っている。口もバランスのいい大きさで、唇だって天然の健康そうな赤い色だ。
肌だって男とは思えないくらい、白く透明感がある。
凛音様に比べたら、そこらの男子なんてジャガイモかカボチャにしか見えない。
「へぇ、君のお弁当、すごい美味しそうだね。ボリュームもあるし」
凛音様はあたしのお弁当を覗き込む。
「今日はお腹も空いているし、初めてだから君のお弁当にしようかな?」
凛音様の口からその言葉が出た時、あたしは思わず失神するかと思った。
更年期だったら尿失禁くらいしたかもしれない。
「ぁぁぁ、ありがとう・・・・・・ございます」
声が震えていた。
感動のあまり、顔を上げられない。
顔が発火するかと思うぐらい熱くなり、目が潤んでくる。
ヤバッ!ここは泣く所じゃない!
「うん、じゃあ学食行こうか?」
そう言って凛音様は自然に私の二の腕をつかんでくれた。
あくまで、優しく、そっと・・・・・・
あたしは凛音様から発せられる『幸福かつ至福のオーラ』に包まれていた。
あ~、この状況を誰か動画に撮っておいて欲しい!
だがそんな幸福のオーラさえ、突き破るような憎悪の視線を感じた。
もはや明確な殺気だ。
あたしはそっとその視線の発生源を盗み見た。
美しき3人の美女とその候補1名だ。
彼女達は、その視線であたしを焼き殺そうとしてるがばかりに、睨み続けていた。
この続きは、2/24(日)の投稿予定です。




