やらかしの95
「ヒドラ、バランとはどのような奴だ?」
「ほほほ、申し訳ありませんご主人様、面識がありません。」
「おや、ヒドラは顔が広そうなのに。」
「ほほほ、バランはこの国の国王なので、会うには色々手続きが面倒なので・・・」
「そうか、どんな奴か知りたいんだが。」
「彼の派閥の者に聞けばよろしいのでは?」
「それもそうだな、紫炎、ダンサの店に。」
「はい。」俺はそこを潜った。
「ぐふふ、ご主人様、いらっしゃいませ。」
「おぉ、ダンサ、お前はバランと会ったことはあるか?」
「ぐふふ、いえ、ございません。」
「お前、バランの派閥だったよな。」
「はい、バラン様の腹心、ボルガ様に勧誘されました。」
「え? それだけ?」
「ぐふふ、それだけです。」
「え~っと、派閥の意味は?」
「バラン様の名前を出せば、たいがいはその場で済みます。」
「あ~、虎の威を借りる狐?」
「ぐふふ、その通りです。」
「ダンサ。」
「まさか、今もそれを使ってるのか?」
「ぐふふ、まさか、今はケイジ様の名前を使っています。」
「あ~、まぁ、良いか。」
「んじゃ、俺は行くよ。」
「ぐふふ、いってらっしゃいませ、ご主人様。」
「紫炎、ジフのガランの家に。」
「はい。」俺はそこを潜る。
「そこのお前、何者だ?」ガランの家を守る門番が、俺に刀を向けながら言う。
「あぁ、俺はケイジだ、ガランに話を聞きに来た、取り次いでくれないか?」
「なに、アポイントメントは?」
「おぉ、アポか、ないな。」(アポイントメントかよ、きっと転生者だな。)俺は思う。
「な、それでは、ここを通すわけにはいかない。」
「いや、職務に忠実なのは良いが、一応問い合わせをしてもらえないか?」
「いや、それは。」
「一応やった方がいいと思うぞ、もし後で、お前が俺を追い返したと分かったら、ガランから懲罰を受けるかもしれないぞ。」
「うむ、解った、おい、ガラン様に連絡を。」その男が、奥の男に言う。
「はい。」その男が屋敷に走っていく。
門番の男は、剣を抜いたままその場で俺に剣を向けている。
「何もしないから、剣を下ろせ。」俺が言う。
「いや、お前が信用できないから、それはできない。」
「あっそう。」
暫くすると、屋敷から走ってくる者があった。
その者は、俺の前に来ると傅いて、礼を取った。
「いらっしゃいませ、ケイジ様。」ガランが礼を尽くしていた。
「ひっ。」俺に剣を向けていた門番が固まる。
ガランは門番を見ると、怒鳴った。
「貴様、ケイジ様に剣を向けるとは何事だ!」
「え? あ、申し訳ございません。」
「あぁ、ガラン、そいつは優秀な奴だ、叱らないでやってくれ。」
「は、ケイジ様、勿体なきお言葉。ガランが平伏する。
「申し訳ありませんでした。」門番が土下座する。
「おぉ、励めよ。」俺はそう言いながら、門番の肩を叩く。
「はい~。」門番が平伏する。
「ケイジ様、この度はどのような?」ガランが頭を上げて言う。
「あぁ、バランのことを聞きたい。」
「バラン様の?」
「あぁ。」
「解りました、どうぞこちらに。」そう言いながらガランが屋敷に向かって歩き出す。
俺は、それに続いた。
「どうぞ、こちらへ。」ガランが屋敷の中の部屋に案内する。
「あぁ、邪魔するぜぃ。」
「あぁ、ケイジ様、お久しゅう。」ガランの妻が、その場で平伏する。
「いや、俺にそのポーズは不要だ、普通に接してほしい。」
「おぉ、なんという寛大なお言葉、お言葉に甘えさせていただきます。」ガランの妻が礼をして、立ち上がる。
「で、バラン様の情報と言うことでしたが。」ガランが椅子に座りながら言う。
「おぉ、会ったことはあるのか?」
「はい、何回か。」
「どんな奴だ?」
「直接のやり取りは有りません。」
「ほぉ。」
「腹心のボルガ様が、私達とのやり取りを行っていました。」
「ふむ、そのボルカと言う奴はどんな奴だ?」
「私には、底が見えませんでした。」
「へぇ。」
「表情からも、そのお言葉からも、まるで深い湖の底を見るような感じがしました。」
「ふうん、興味深いな。」
「ケイジ様?」
「あぁ、参考になった、バランに会うにはどうすれば良い?」
「おぉ、では、私が取り次ぎましょう。」
「おぉ、それなら楽だな。」
「おそらく、数日はかかるでしょうから、私の方からご連絡差し上げます。」
「どうやって?」
「ケイジ様の拠点をお教え頂ければ、そこに使いの者を送ります。」
「あぁ、そう言う事なら、ヤミノツウにある「水龍」と言う店に来るようにしてくれ。」
「ヤミノツウの水龍ですね、判りました。」
「報酬はどうしようか?」
「いえ、ケイジ様、報酬など不要です。」
「そう言う訳にはいかないだろう、仮にも国王様にアポを取ってもらうんだし。」
「アポ?」
「あぁ、繋ぎって事だ。」
「あ!」俺が思いつく。
「え?」
「ガラン、と奥さんは辛いのは平気か?」
「辛い?」
「私は、平気でございます。」ガランの奥さんが、何故か期待に満ちた目で俺を見る。
「私も、特に苦手ではありませんが。」
「そうか、食堂に行こうか」
「え?」
「食堂だよ。」
「ふふふ、ケイジ様こちらです。」奥さんが嬉しそうに案内する。
「おぉ、ケイジ様、ご案内します。」ガランも何かに気付いて先導する。
「おや、ガラン様。奥様、昼食の用意はまだですが。」そこにいた男が言う。
「いや、ここにいらっしゃるケイジ様が、用意して下さるそうだ。」
(おや、結構人数がいるな。)俺は思う。
「はぁ、この方がですか?」その男は明らかに不満そうな顔をする。
「先の領主前婚で、コカトリスを提供されたお方だ。」ガランが嬉しそうに言う。
「げぇ。」そこにいた男たちが全員ひれ伏す。
「え~っと、どう言う事だ?」
「領主前婚で、この者達も「あの」料理を口にしているのです。」
「うん、だから?」
「彼らは、あの料理を口にしてしまったのです。」
「?」
「コカトリスだけではなく、その調理法に魅了されたようです。」
(確かに、この世界ではスパイスはあまり使っていないからな。)俺は思う。
「あ~、だとしたら、今から出す料理は食わない方がいいと思うんだが。」
「おぉ、ケイジ様は私が未体験の料理を提供して下さるのですか?」ガランが食い気味に言う。
「あぁ、材料は普通に手に入れられる、作り方も隠すつもりはない、ただ、これを食べて、以前の料理を美味いと思えるか。」
「ふふふ、ケイジ様、自己責任と言う事ですか?」ガランの奥さんが言う。
「あぁ、それでよければ提供するよ。」
「ふふふ、是非に。」
「私からもお願いいたします。」
「ふう、知らないぞ。」そう言いながら虚無の部屋から鍋を二つとボールを2個取り出す。
「深めの皿はないか?」
「ございます、おい。」一人の男が、後ろの男に指示を出す。
「は、はい!」指示された男が、皿をもってきて言う。
「これでどうでしょう?」
「あぁ、それで良い、それをここにいる人数分用意しろ。」俺がその男に言う。
「分かりました。」そう言いながらその男は厨房に走り、人数分の皿を持ってきた。
「ガラン、奥さん、テーブルについてくれ。」
「はい。」
「喜んで。」
「二人だけ、手伝ってくれ。」
「はい、私が。」
「私も。」
さっき、男に指示をした者と、指示された男が手を上げる。
「私、当家の料理長をしております、ジア・シマウと申します。」
「同じく、副料理長をしている、イマウ・レコと申します。」
「あぁ、俺はケイジだ、宜しくな、早速だが、全員に冷水を用意してくれ。」
「冷水ですか?」
「あぁ、水に、氷魔法で生成した氷を浮かべて提供してくれ。」
「解りました、おい、レイ、スイ、座ってないで、皆さまに冷水を提供しろ。」ジア・シマウが指示する。
「「はい!」」指示された二人が、木のコップを用意して、氷水を入れていく。
「用意は良さそうだな?」俺はそういながら、更に虚無の部屋からあるものが乗った皿を取り出した。
「さぁ、盛り付けるから、皆の前に持っていってくれ。」そう言いながらカツカレーを用意する。
深めの皿に、ライシーを盛り、オークカツを4切れ乗せ、福神漬けと、ラッキョウを端に置いて、熱々のカレー、いや、カリーをかける。
「あぁ、食べるときは、これを使ってくれ。」そう言いながら、ミスリル製のスプーンとフォークを取り出す。
俺が盛り付けた人数分のカツカレーが、全員の前に置かれた。
「あの、ケイジ様、かなり刺激的な匂いがするこれは?」ガランの奥さんが言う。
「あぁ、自己責任で食べていただくものです。」
「凄く刺激的な香りですが、食欲をそそります。」そう言って奥さんがカレー、いやカリーを口にする。
「はぁう。」
「おい、お前、大丈夫か?」ガランが奥さんに言うが、奥さんは恍惚の表情を浮かべて、咀嚼している。
「な、それほどの物なのか?」ガランもそれを口にした。
途端に口の中にスパイスの暴力が広がった。
複雑な香りが鼻から抜け、舌の上には辛みの後ろに、やはり複雑な味が。
「なぁ。」ガランも奥さんも、いや、そこにいた誰もがその虜になり、それを口に入れる。
ライシーとカリーの調和。オークカツとカリーの満足感、ラッキョウや福神漬けでリセットされる辛み。
気が付くと、皿の上の物は奇麗になくなっていた。
「ガラン、報酬は受け取ってもらえたようだな?」
「え、あ、はい、ケイジ様。」ガランはうつろな表情で答える。
「んじゃ、繋ぎを頼んだぞ。」そう言いながら、ケイジ様が消える。
「お待ちください~。」
料理長のジア・シマウの絶叫を残して。
コッソリと更新したり。




