やらかしの9
そこは凄く豪華な部屋だった。
「おや、ようこそいらっしゃいました。」
部屋の主、レベル60の吸血鬼が部屋の奥で出迎える。
「な、がははは、吸血鬼か。」
「久方ぶりの客人です、どうぞお席に!」
扉の横にいた使用人らしき男に、目の前のテーブルに案内される。
(この使用人も、レベル50のバンパイヤです。)
「最上級の紅茶をどうぞ。」
吸血鬼が言う。
「悪いな、俺は今番茶の気分なんだ。」俺はそう言うと虚無の部屋から、お茶っ葉と急須、数個の碗を出す。
ミーニャが、又、見事に番茶を煎れる。
「この世界にも番茶があるんだ。」
「いつも飲んでるのがこれにゃ。」
「主、どうぞにゃ。」
「おぉ、さんきゅ。」俺は碗を持ち一口すする。
「美味いなぁ。」
「がははは、俺は頂くぜ。」カッターが目の前吸血鬼の使用人が煎れた紅茶のカップに手を伸ばす。
「カッター、チャレンジャーだな。」
「がはは、この程度は日常茶飯事だ!」
カッターが一口すすると、目を見開き、口から紅茶を吐きながら机に倒れ込む。
「カッター、体張ってるよな!」
「おや、お口に召さなかったようですね。」吸血鬼の口元が歪む。
そう言いながら、吸血鬼は同じ紅茶を口に含む。
「やはり、マンドラゴラと人面草をブレンドした紅茶は至極ですね。」
「さて、末期の茶は堪能できたか?」俺が言う。
「えぇ、貴方達、非力な人間の末期を見届ける意味であれば、堪能させていただきました。」
「ベカスカの領主の娘に対する求婚を、取り消すことは?」俺が言う。
「ふははは、今夜にもお迎えに行くつもりですよぉ。」
「ふぅ。」俺はため息をつきながら立ち上がる。
途端に、使用人が、本性を現す。
血走った赤い目、全身を覆う体毛、下等吸血鬼の正体だ。
俺は刀を一閃する。
刃には血潮も付いていない。
首を切られた使用人は、己の首を抱きかかえながら塵になる。
「カリナ、首のペンダントを私に貸して下さい。」
「はい、旦那様。喜んで!」カリナは首にかかっていたペンダントを俺に渡す。
それは、地球で言う処の十字架に似た物であった。
「一応確認だけど、ほれ!」
俺はそのペンダントを吸血鬼に見せる。
「それがなんでしょう?」
「あぁ、やっぱりか。」
「十字架やニンニクが、吸血鬼に効くのは疑わしいと思っていたんだよね!」
「何の話でしょう?」
「いや、気にしないでくれ!」
「カリナ、返します。」
「はい旦那様!」
「では行きますよ!」
「お手並み拝見いたしましょう。」吸血鬼が口元に哀れみに似た笑みを浮かべながら言う。
「ホーリーライト!」
「な、聖属性の最上級・・・」
俺はホーリーライトを吸血鬼の頭上に出現させる。
「で、これはここに浮かせておいて。」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ。」
吸血鬼はその光に肌が焼かれるが、その場で再生していく。
「ぐはぁ、身体が動かせぬ!」
「おや、辛そうですね。」
「なに、この程度、お前の魔法力が尽きた瞬間に屠ってくれる!」
「おぉ、怖いですね。」
「では、もう一個追加しますね。」
「ソドム!」
聖属性の裏魔法
最上級を凌ぐ魔法の為、伝承者が途絶えた魔法。
闇の属性はその光に焼かれ、塩の塊になる。
「ぎゃぁぁぁぁ。」吸血鬼が二つの光りに焼かれる。
再生が始まった瞬間に、塩の塊になり、そのまま焼かれていく。
俺は、机に座り番茶を飲む。
「止めが欲しかったら、言ってくれ。」
「な、そんなことは、ありえん!」全身を炎に包まれながら吸血鬼が言う
「いや、自分でやっておいてあれだけれど、凄く辛そうだが。」
「ふふふ、これしき、私の再生能力があれば。」
「へぇ、結構すごいんだ。」俺が言う。
「んじゃ、もう一個行くよ!」
「な、ま、待て。」
「待たない!」
「ゴモラ。」ソドムの対局、聖属性でありながら、闇属性に干渉する魔法。
「へぎゃあぁぁぁぁああ。」
目の前の吸血鬼の四股が、塩に変わり、炭になって粉砕されていく。
「おぁ、痛そう!」
「マスター、これはくるものが有る。いっそ止めを。」
「んー、でもあいつ望んでないよな。」
「そうですが。」
「M属性なんだろ。」
「旦那様、それを言う事もできないのでは?」
「え?そうかな?なぁ。止めがいるか?」
「みぎゃぎゃぎゃ。」
「楽しんでるぞ。」
「主、声も出せないんだにゃ。」
「そうなのか?んじゃ止めが欲しかったら、瞬きを三回しろ。」
吸血鬼は弱弱しく瞬きを三回する。
「なんだ、本当に止めがいるんだ。」
「おい、サラマンダー。」
「マスター、私も名前が欲しい。」
「な、このタイミングで言うか、贅沢な奴だな。」
「んー。では、お前の名前はサランだ!」
「おぉ、マスター感謝致します。」
「サラン、止めを刺してやれ!.」
「解りました、マスター。」
「苦しませるなよ。」
「はい!」
「ヘルファイア。」
吸血鬼の身体を炎が包む。
「おぉ、我を包む炎の暖かき事、至高の極み。」
そう言うと、吸血鬼は存在が消える。
同時に、部屋が消滅する。
「魔力で作っていたのか。凄いな。」
机にうつぶせていたカッターが、地面に転がる。
「カリナ、カッターを回復してやってくれ。」
「はい、旦那様。」
「主、ドロップ品は虚無の部屋に入れたにゃ。」
「おぉ、ミーニャ。ありがとう。」そう言いながらミーニャの頭を撫でる。
「にゃ、当然の事にゃ!」ミーニャが気持ちよさそうに俺にすり寄る。
「どれ?」俺はドロップ品を確認する。
「何だこれ?」
不死の王のアンクレット
光属性半減。
装備時、一歩ごとにHPマイナス1
HPが0になった時、一度だけHP満タンで復活する。
「呪いのアイテムだよ,これ!」
(カリナ様にお渡しした、生命の護符と合わせれば、一回限定の復活アイテムです。)
「虚無の部屋の肥やしにしておいて、カリナが駄目そうなときに渡せば効果ありって事か?」
「その使い方がベストです。」
「ぷはぁ、凄い紅茶だった!意識が飛んだぜ!」
「カッター、自重しろ!お前、今日だけで3回死んだぞ!」
「がはは、報酬を上乗せするから勘弁しろ!」
「まぁ、良いけどな!」
「主、此処にコアがあるにゃ!」
「カッター、このダンジョンは危険だと判断するが、どうだ?」
「2階層でミミックの上位、3階層でレイス。一般の冒険者じゃ無理だろ?」
「確かにそうだな。」
「んじゃ、此処は完全に消滅で良いな?」
「え?あぁ、出来るなら其れで良い。」
「言質獲ったぞ。」
俺はそう言うと、ダンジョンコアを完全に破壊する!
コアの原型が無くなるくらい破壊した。
陸王のダンジョンでは、コアを貫き、その力を弱体化させた。
だから、浅い層、3階層より上では魔物がリポップする。
だが、このダンジョンは完全に破壊した。
二度と復活しない、ただの洞くつになった。
まぁ、野良の魔物が入り込むかもしれないが、危険なものではなくなった。
ダンジョンを出ると、業者とムーニャが待っていた。
「主様、お帰りなの。」
「おぉ、ムーニャ、ただいま!」
「これ、お土産だ。」
「え?なんにゃ?」
最愛のローブ
渡された者に渡した者の愛情度×5の防御力
(最愛のローブの防御力は35です。)
(マジか、一番高いぞ。俺、ロり・・か?)
(一応補正しますが、父性が加味されています。多分。)
(多分はやめてくれ!)
「本当の事なので、否定できません。」
「声に出すの止めてくれ、俺のHPはもうゼロだよ。」
「主様、嬉しいにゃ。」ムーニャがローブを抱きしめて言う。
あぁ、もうロりでも良いや。ムーニャは可愛いよ。
「さて、討伐の報告に行こうか!」
俺達は、業者の馬車でベカスカに戻った。
「主様、ムーニャはいつから夜伽をすれば良いですにゃ?」
「いや、ミーニャにもさせてないから。」
「にゃ?では、子孫を残さないにゃ?」
「いや、そうじゃなくて、今はまだ必要ない!」
「ニャ?主様はババ専ですか?」
「何処でそんな言葉を覚えてくるんだ?}
「主様、ムーニャたち獣人は、10歳で成人になって、残りの寿命は20年ぐらいにゃ。」
「え?そんなに?」
「だから、濃い人生を送りたいにゃ!」
「うぅ、すごく重い!」
「主様、ムーニャは愛してほしいにゃ。」
「主、ミーニャもお願いするにゃ!」
「主!メームもお願いする!」
「メーム、お前だけは無理!だよ、多分、生物学的に。。」
「な、兄者、努力すれば叶うと聞いたぞ!」
「メーム、叶いません!」
「ま、マジですか!兄者!」
「マジだ。」
「誰か、こいつを躾けてくれ~。」