やらかしの87
ある日ヒドラが、孤児院の庭で作業をしている俺のところに来て言った。
「イースより、エゴワカの平定が終わったと連絡が来ました。」
「ほぉ、あれから半年もたっていないのに、凄いな。」
「んじゃ、行ってみるか。」
「ほほほ、お供しますわ。」
「マスター、言うまでもない。」
「ムーニャも行って良いですか?」
「今回は、これだけか?」
「ミーニャはお留守番するにゃ。」
「んじゃ、紫炎、頼む。」
「はい。」
虚無の窓を潜り、エゴワカの入り口に辿り着く。
「エゴワカにようこそ、通行料は一人100Bです。」門番が言う。
「おぉ、町に入るのに料金がかかるのか?」
「商売をするのなら、更に100Bが必要です。」
「あぁ、商売はしないよ。」俺が言う。
俺は400Bを門番に払う
「な、ケイジ様!」
「ん?」
「おい、そのお方はエゴワカの救世主様だ。」
「え?」俺に対応した門番が頬ける。
「このお方は、前領主を滅してくれたお方だ。」
「え?えぇ?」門番が固まる。
「し、失礼いたしました、お返しいたします。」通行料を返そうとするが、俺は優しく言う。
「おいおい、そんな特例作っちゃダメだろぅ?」
「え? はい。 いやでも。」
「ケイジ様!」
「いいよ、受け取れ。」
「な、は、はい、ではよい旅を。」門番が言う。
「おぉ、いきなり金を払うようにしたのか?」
「ほほほ、市政はどう変わっているのでしょうか?」
「よし、早速調査だ。」俺はそう言いながら、屋台に向かう。
(前回、イモの天ぷらが一人前3000B(3G)した屋台だ。)
「親父、又来たぞ!」
「おぉ、この前のあんちゃんか?」
「一人前いくらだ?」
「30Bだ。」
「はぁ?」
「ん?」
「以前の100分の一だな?」
「これが、適正価格だよ、たかがイモだぜ。」
「ははは、自分で言うか?」
「んじゃ、4人前な。」
「あいよ。」
「おゃじ、これに合う飲み物は何だ?」
「へへへ、聞いて驚け、チチバハローの乳だ。」
「へぇ、其れも4人前な。」
「あいよ、40Bだ。」
「んじゃ、ここに置くぞ。」俺は160Bを置く。
「毎度。」
「おぉ、来た来た、前回は味わう暇もなかったからなぁ。」
「ほほほ、美味しそうです。」
「んにゃ、熱いにゃ!」ムーニャが叫ぶ。
「おぉ、嬢ちゃん、揚げたてだから気を付けてくれよ。」
「遅いにゃ!」
「ははは。」俺は笑いながら、其れを口にする。
サクッ、ホクホク!
「おぉ、まさしくイモの天ぷらだ!」そう言いながらコップを煽る。
「おぉ、チチバハローの乳が味をまろやかにする。」俺はうっとりとする。
「忘れていた、サランに奉納を。」
「うぅ、放置プレイかと思ったぞ。」そう言いながらサランが、天ぷらとチチバハローの乳を飲んで感動している。
「まぁ、前にも思いましたが、本当に美味しいですね。」ヒドラが普通に感心する。
「こうなると、前回食えなかった鰻も食うべきだな。」俺が言うと。
「おぉ、其れならここの道を真っ直ぐ行った突き当りにある、マルイチがお勧めだぜ。」おやじさんが言う。
「あぁ、解った、マルイチだな、行ってみるよ。」
「おぉ。」
イモの天ぷらを平らげた俺達は、マルイチに行く。
「俺の記憶が正しければ、鰻は注文してからかなり待たされる、其れを忘れるなよ。」
「解った、マスター。」
「ほほほ、待つのも味の内と言う事ですね。」
〈流石はヒドラだ。〉
「美味しいものが食べられるのなら、待ちます。」
ムーニャは、食優先か。
「邪魔するぜぇ。」俺はその店に入っている。
「いらっしゃいませ!」
(ち、ギャグの回収は無しか。)
俺はそう思いながら、「4人だ、席は開いてるか?」と言う。
「はい、どうぞこちらへ。」と、庭園が見渡せる席に案内してくれる。
「どうぞ。」そう言いながら、熱いお絞りを手渡してくる。
(おいおい、この店も転生者か?)そう思いながらお絞りを受け取る。
「あぁ、サランに奉納を。」俺が言うとサランもお絞りを受け取った。
「あ~。」俺は、そう叫びながら、お絞りでガシガシと顔を拭く。
その後、首や耳の裏を拭いて机に置く。
そこにいた皆が真似をするが、化粧をしている奴いないから、別にいいよね。
俺が思う。
「お~い、注文良いか?」
「はい。」
「まず、熱燗3個、オレンジジュース1個。」俺はわざと元の世界の注文をする。
「はい、熱燗3個とオレンジジュース1個、承りました。」
(あ~、転生者確定。)
「うな重4個、その前に、白焼き4人前、肝焼き4人前な、あと、うな巻一個。」
「はい、うな重4個、その前に、白焼き4人前、肝焼き4人前、うな巻一個承り。」
「はは、ダンサを連れてきたら喜びそうだ。」
「主様、呼べばいいのでは?」ムーニャが言う。
「あぁ、其れもそうか。」
「紫炎。」
「はい。」
「あらあら、ご主人様、此度はどのような?」ダンサが恰好付けて言う。
「あぁ、エゴワカで鰻を食べる、食いたければ来い。」
「ぐふふ、大好物です。」そう言いながら、ダンサが虚無の窓を潜ってきた。
「おやじ、さっきの注文、白焼きと、肝焼き、うな重追加な。」
「へ~い。」
「熱燗も1本追加な。」
「へ~い。」
「おや?」ダンサが気づく。
「気づいたか?」
「ぐふふ、熱燗はこの世界にはありませんから。」
「そう言う事だよなぁ。」
「そう言う事ですねぇ。」
「ん~?」俺はテーブルの隅にある、ひょうたんに気が付いた。
「これは?」俺はそれを手に取ると、蓋を開けて手のひらに少し出して舐める。
「山椒だ。」
「おや?」ダンサも反応する。「ぐふふ、この世界では初めてです。」
「確定だな。」
「ぐふふ、その様ですね。」
「へい、熱燗とオレンジジュース、お待ち。」熱燗とオレンジジュースがテーブルに置かれる。
「あぁ、大将を呼んでくれないか?」
「え? はい、お待ちください。」
「大将、お客様がお呼びです。」
「はい、どのような?」
「ゴジラの好敵手は何だろう?」
「はい?」大将が怪訝な顔をする。
「え?」俺とダンサは顔を見合わせる。
「ドラえもんの秘密道具は、何が欲しい?」
「あぁ、死んだ爺様が言っていました、たしか、「たいむてれび」とか?」
「あ~、お亡くなりになっているのか?」
「おや、爺様のお知り合いでしたか?」
「あぁ、いや、違うかな。」
「そうですか、いや、懐かしいお話を聞けて嬉しかったです、後でサービスの品をご用意しますね。」大将はにっこりと笑いながら奥に引っ込む。
「あ~、3代前か。」
「ぐふふ、でも、かなり多くの転生者がいるようですね。」ダンサが熱燗を飲みながら言う。
「ダンサ。」
「はい、何ですか、ご主人様。」
「チーズは何処で手に入れた?」
「普通に売ってますよ。」
「主様、ベカスカでもヤミノツウでも売ってます、虚無の部屋にもありますにゃ。」ムーニャが言う。
「なに?」俺は虚無の部屋をのぞく。
普通にあった。
いや、ゴーダ、チェダーをはじめ、モッツアレラ、カマンベール、ブリー、ゴルゴンゾーラまで。
(何で、元の世界の名前なんだ?)
(この世界では、チーズの名称が決まっていないので、解りやすいように付けました。)
(おぉ、流石紫炎さん。)
(お褒めに頂き光栄です。)
「はい、白焼き、肝焼き、うな巻お待ち。」テーブルにそれらが置かれる。
「サランに奉納を。」
「ありがとうマスター。」
「ぐふふ、久しぶりです。」
「主様、これはどうやって食べるにゃ?」
「あぁ、肝焼きと、うな巻はそのまま食べて良いぞ、白焼きは山葵醤だな。」
「ほれ、ダンサ。」俺は徳利を差し出す。
「ぐふふ、ありがたく頂戴します。」
「ヒドラも。」
「ほほほ、ご主人様ありがたく。」
「サランも。」
「はい、マスター。」
「俺は肝焼きから行くぜ!」
「ムーニャは、うな巻です!」
「ほほほ、白焼きはどのような味でしょう?」
「ぐふふ、白焼きを山葵だけで食べるのが好みです。」
「おぉ、ダンサ。」
「ぐふふ、何でしょう?」
「お前、俺の嗜好と被ってるな。」
「ぐふふふ、ぐふふふ、ご主人様、今更嫁を口説いてどうするのですか?」
「いや、別に口説いてないぞ、俺と同じ食い方をする奴なんだなって思っただけだ。」
「ぐふふ、天然ですか、でもそれが愛おしい。」ダンサが身をくねらす。
「?」俺が疑問に思うが、スルーされた。
「美味いな!」俺が肝焼きを頬張りながら言う。
「にゃー、うな巻も美味しいにゃ。」
「ほほほ、白焼きの淡白さが癖になりそうです。」
「ぐふふ、山葵最強!」
「うな重お待ち!」先程平らげた皿をかたずけながら、うな重と肝吸いの椀が置かれる。
「おぉ、サランに奉納を。」
「ありがとう、マスター。」
「さぁ、食うぞ。」そう言いながら、俺はさっきの瓢箪から山椒を多めに振りかける。
「ぐふふ、ご主人様、次は私に。」
「おぉ、ほれ。」俺は瓢箪をダンサに渡す。
「あの、主様、それは?」
「おぉ、香辛料だ、振りかけると痺れを味わえるぞ。」
「痺れ?」
「あぁ、無理しないで、試しながら食べればいい。」
「はいにゃ。」
「ほほほ、では一口食べてから決めましょう。」
「マスターが奉納してくれたもの、どんなものでも食します。」サランは、何と戦っているんだ。
「うみゃい!」サランが噛みがちに声を上げる。
「主様、山椒は辛くてだめにゃ。」
「ほほほ、山椒の刺激は癖になります。」
(思った通りの結果だったな。)俺はそう思いながら、うな重を満喫した。
「へい、こちらサービスです。」大将がアイスクリームを持ってきた。
「おぉ、凄いな。」
「サランに奉納を。」
「あぁ、甘いにゃ。」
「ほほほ、これは。」
「ぐふふ、美味しいですね。」
「なぁ、大将。」
「はい、何でしょう?」
「山椒は何処で手に入る?」
「家の庭で育てています。」
「ほぉ。」
「祖父が、どこぞの山の奥で自生していたものを持って帰ったそうです。」
「もし良かったら、枝を少し売ってくれないか?」
「いえお代は結構です、お譲りしますから、少しお待ちください。」
大将は、奥に行くと、しばらくして枝を一本持ってきた。
「お待たせしました、どうぞ。」そう言って枝を机の上に置く。
「あぁ、ありがとう、お愛想してくれ。」
「へい、6番さん、お愛想!」
「ぐふふ、お愛想も解りますか。」
「6番さん、きぼしです!」
「お会計、2Gです。」
「カードは?」
「大丈夫です。」
「決済宜しく。」
「ありがとうございます、またお越しください。」
「ぐふふ、ごちそうさまでした。」
「主様、美味しかったです。」そう言いながらダンサとムーニャが虚無の窓を潜る。
イース達と面会するのに、いてもしょうがないから二人は帰した。
「俺達が行くことは伝わっているのか?」
「ほほほ、ご主人様、通行税を払い、領内の飲食店で食事をしているのですよ、これで報告がいっていなかったら、無能です。」ヒドラが扇で口元を隠しながら言う。
「さて、会いに行こうか。」俺が言う。
「ほほほ、ご主人様のそう言う所、大好きですよ。」
「あぁ、ヒドラ、俺もお前のその理解してくれる事が大好きだ。」
「なぁ!」ヒドラが淡い光に包まれる。
「あ~、またやっちまったな。」俺は確信する。
「ほほほ、ご主人様、ヒドラは鳳凰種に昇華いたしました。」
「おぉ。」
いや、「おぉ。」じゃないよ、これ、駄目な奴じゃん。
「ほほほ、そこにいるサラマンダーの主体と同じように炎の熱さはコントロールできますよ。」
「んじゃ、サランと同じように、熱さを感じないようにしてくれ。」
「はい、仰せのままに。」
「んじゃ、エゴワカの領主に会いに行くか。」
「ほほほ、お供いたします。」
「マスター、影からお守りします。」サランは指輪に消えた。
「さて、どうしたもんだか。」俺はそう言いながらエゴワカ城に向かう。
「エゴワカ城は相変わらずでかいな。」そう思いながら、城門を潜る。
「お待ちください、エゴワカ城にどのような御用で?」門番が俺達を止める。
「おぉ、イースに呼ばれたんだがな。」俺が言う。
「え? イース様に?」
「あぁ、俺はケイジだ。」
「あ、あ、あ、あの? ケイジ様。」門番が挙動不審になる。
「お待ちしていました。」奥から、鎧を纏った者が出てくる。
「イース様の命で、お待ちしておりました、どうぞ此方へ。」その男が俺達を案内する。
(門番の人、ドンマイ!)俺は心でエールする。
俺達は、以前来た領主の部屋に通される。
「おぉ、ヒドラ様、ケイジ様、お久しぶりです。」イースが良い顔で俺達を出迎える。
「ほほほ、イース、エゴワカの平定、大儀でした。」ヒドラがイースを労う。
「おぉ、キシリアーナ様もご喧噪で何よりです。」俺が言う。
「はい、ケイジ様の御心のままに。」そう言いながら俺の前で跪く。
「ちょ、キシリアーナ様、そういうのは止めてください。」
「いえ、この町をお救い頂いた、御方に対する当然の礼です。」
「いや、いや、いや、この町の膿を出したのは、騎士たちだ。」
「でも、その機会をお与えくださったのは、ケイジ様です。」
「まぁ、良いや。」俺は話題を変える。
「イース、中々いい仕組みにしたみたいだな。」
「おぉ、ケイジ様、お判りいただけますか?」イースが嬉しそうに言う。
「町に入る際の税、その他に、住民税、販売税、地権税ってところか?」
「おぉ、流石はケイジ様です。」
「其れだけで、維持できるのか?」
「えぇ、此処エゴワカは、観光都市なので、人が来れば税収は上がります。」
「成程。」
「今現在、公共事業の支払いは滞りなく、又税収も上がっている状態です。」イースが良い顔で説明する。
「何にしても、エゴワカの予算、年間一千百十五万Gを賄えるシステムは、構築できたという事で良いか?」
「はい、ケイジ様。」
「よくやった。」
「ありがとうございます。」
「そして、もう一つご報告が。」
「ほほほ、何でしょうか?」
「私、イースは、此処にいるキシリアーナ様と婚姻をしたいと思います。」
「おやおや。」
(想定の範囲だ。)
「ヒドラ、領主が結婚する場合は、どうするんだ?」
「ほほほ、国王の前で宣誓するか、精霊教会で宣誓するかです。」
「え~と、どっちが楽?」
「国王様の前で、宣誓する方が良いかと。」
「因みに、何で?」
「ほほほ、精霊教会の場合、執拗な勧誘があります。」
「ほぉ。」
「そこで勧誘を受けないと、異教徒と呼ばれ、迫害を受けます。」
「国王一択じゃないか。」
「でも、国王前婚の場合、それなりの対価が必要です。」
「ふ~ん。」
「コカトリスではダメかもしれません。」
「なんで?」
「一貴族が、使ったからです。」
「ほぉ。」
「イース、頑張ったな。」
「な、ケイジ様、恐れ多い。」
「んじゃ、後は頑張って。」そう言いながら、虚無の窓を潜ろうとした。
「待ってください。」イースに足を掴まれた。
「なんだよ?」
「国王婚、依頼させて下さい。」
「ぐふふ、ぎどらですか?」
「いや、モスラ一択だろう?」
「ぐふふ、何故?」
「ギドらを単体でやっつけたのはゴジラとモスラだけだぞ。」
「しかも、ゴジラはモスラに負けてるし。」
「ぐふふ成程。」
「まぁ、俺としては、ヘドラも捨てがたい。」
「結構、アンギラスも人気ありますからねぇ。」
「おぉ、異論は何時でも受け付けるぞ。」
「ぐふふ、ご主人様!」




