やらかしの85
日が変わった。
「さて、カオズシのギルドに行くか。」
俺はヤミノツウの孤児院から、カオズシのギルドに潜る。
色々、微妙な雰囲気の中、俺はカウンターに行く。
「決済頼む。」
「はい。」獣人の娘がギルドカードを端末に刺す。
「ギルドマスター、個別依頼、労咳治療確認しました、1Gです。」
「コカトリス料理の提供確認しました、300Gです。」
「ギルドマスター、個別依頼、未確認対象対応確認しました、10Gです。」
「おぉ、決済宜しくな!」俺が言う。
「決済完了しました。」
「おぉ、サンキュウ、そういながらカードを受け取る。」
「で、聖女様は?」
「はい、昨日北に向かわれました。」
「よしよし、狙いどうりだ。」俺は悪い顔で笑う。
「さて、このギルドにはもう俺の案件は無さそうだな。」依頼ボードを見ながら言う。
「んじゃ、今日はマシクフのダンジョンで、肉狩りをするか。」
「紫炎、マシクフのダンジョンに。」
「はい。」俺はそこを潜る。
「お待ちください!」一人の女が俺に抱き着く。
「ちぃ、このタイミングで!」
俺は、その女ごとマシクフのダンジョンの前に転移した。
「あんた、色々非常識だな。」
「申し訳ございません、ケイジ様。」俺と一緒に潜った女が、その場で土下座する。
「で、あんたは誰で、俺に何の用だ?」
「出来れば、マシクフのダンジョンをご一緒に潜らせてください。」
「訳ありか。」
「はい。」
「何が欲しいんだ、対価によっては提供できるぞ。」
「はい、ミノタウルスの角を。」
「え? 角?」
「はい、角です。」
「其れは何のために?」
「ミノタウルスの角は、万病に効くと言い伝えがあります。」
(紫炎?)
(ガセネタです。)
「それ、嘘らしいぞ。」俺がその女に言う。
「え? 私はその情報を10Gで買いました。」
(あ~悪い奴がいるもんだな。)
「買ったやつ、解る?」
「え? はい、カオズシの副ギルドマスターです。」
「はぁ、またか、ギルマス連中腐りすぎだろう!」
「ふぅ、今回はダンジョン攻略見送りだ、」
「まず、あんたが治したい奴は何処にいる?」
「カオズシです。」
「紫炎。」
「はい。」
俺達は、カオズシに潜る。
「で、どこにいるんだ?」
「はい、こっちです」女が貧民街に走る。
「おっと、凄い匂いだな。」俺が鼻を覆う。
「ここです。」その女が、一軒の家のドアを潜る。
「う、あ、誰だ?」その奥にいた者が声を出す。
「あたしだ。」
「あぁ、ジアか。」
「あぁ、ジアだ。」
「来るなと言ったのに。」
「お前を治してくれる人を連れて来たぞ。」
「げほげほげぼぉ、そんな金は。」
(紫炎?)
(はい、これは、黒死病です。)
「おい、今すぐ離れろ。」俺はその女を掴んで後ろに放り投げる。
「え? きゃぁ!」
(紫炎、ラキュアで良いのか?)
(はい。)
「ラキュア!」
(紫炎、かなりの欠損部分があるが?)
(ライフで大丈夫です、)
「ライフ!」
「紫炎、後ろの女は?」
「未感染です。」
「ふぅ、これで一応問題がなくなったか?」
(はい。)
「おい、そこの女、ギルドにペストの治療依頼を出せ。」
「え? はい、解りました。」
「ギルド案件になるから、依頼料はいらないぞ。」
「はい、今からギルドに行きます。」そう言って女がギルドに向かう。
(紫炎、カオズシで病気の案件多くないか?)
(意図的な発生を指摘します。)
(つまり、誰かが其れを、撒いていると?)
(はい。)
「うわぁ、面倒くさい。」俺は思う。
(紫炎、大元は判るか?)
(はい、カオズシの領主が元凶です。)
(うわぁぁ、マジで嫌な案件来た~。)そう思いながら、俺はギルドに向かった。
「ギルマスを呼べ。」俺がギルドの受付嬢の獣人に言う。
「はいにゃ。」猫獣人がギルマスを呼びに奥に入る。
俺の周りには、数多くの冒険者が集まっていた。
「誰だ、俺を呼ぶのは?」ログマが奥から現れた。
「おぉ、俺だ。」
「おぉ、ケイジ様、昨日は世話になったな。」
「ところで、副ギルマスはどいつだ?」
「あぁ、そこにいるヤカザイだ。」ログマが横にいた男を指さす。
「おぉ、ヤカザイ。俺はケイジだ、宜しくな。」
「あぁ、俺に何の用だ?」
「ヤカザイ、お前がミノタウルスの角が万病に効くと、売った情報は偽物だ。」俺が言う。
「何を根拠に?」
「ミノタウルスの角は、ドロップしない。」
「そんな物が治療に使える訳が無い。」
「証拠があるのか?」
「ミノタウルスの頭は、舌を取るだけだ、その後魔石になる。」
「え?」
「角なんか、残るわけない!」
「ヤサガイ、お前は今から、ミノタウルスの角をギルドに納品するまでダンジョンを彷徨え。」俺はヤカザイを虚無の部屋に入れて言う。
「せいぜい、頑張って、ミノタウルスの角を探してくれ。」俺が言う。
「この男は、俺が責任をもって、ダンジョンに放り込んでおく。」ギルドカードを示しながら言う。
「あぁ、Aクラスには、逮捕権があるな、任せた。」ログマが言う。
「で、ギルマスに、良い情報だ。」
「ほぉ、聞こう。」
「今、この街には、結核と黒死病が蔓延しているらしい。」
「な? いや、結核は身に染みたな。」
「黒死病?」
「ペストだ、そう言えばペストの治療依頼が来ていないか?」
「さっき受けたニャ。」
「んじゃ、決済してくれ。」
「え?」
「さっき治してきた。」
「にゃ~、黒死病治療依頼、確認しました、20Gです。」
「結核とペストの患者を、いや、それ以外も、町中にお触れを出せ、今すぐだ。」ログマが叫ぶ。
「ログマ、其れを撒いているのは領主らしい。」俺が小声で耳打ちする。
「な、ケイジ様、どこでそれを?」
「精霊様に教えてもらった。」
「げぇ。」ログマは顔面蒼白になる。
「領主様を断罪する?」
「そうするべきだと思うぞ。」
「領主様を、捌けるのは同格の者だけです。」ログマが汗をしたたれせながら言う。
「ふ~ん。」
「え、いや、ふ~んって。」
「何人いれば良い?」
「え? 多ければ、多いほど。」
「うん、解った。」
(リアン。)俺はリアンに呼びかける。
(まぁ、マスター殿、お見限りではないですか。)
(少し力を貸してくれ。)
(はい、喜んで。)指輪からリアンが現れる。
「え、り、リバイアサンの主体?」周りにいた冒険者たちが後ずさる。
(ヒドラ、手を貸してくれ。)
(ホホホ、ご主人様喜んで。)
(シーレも呼んで良いか?)
(もちろんです。)
(紫炎、ヤミノツウの領主の部屋に)
(はい。)
「シーレ。」
「え? あら、ケイジ様ですか?」
「あぁ、悪いが、少しだけ協力してくれないか?」
「はい、もちろんです。」
「んじゃ、ここを潜ってくれ。」
「はい、仰せのままに。」
「け、ケイジ様、この方たちは?」ログマが俺に言う。
「あぁ、ルズイの領主、リアン。」リアンが水の服の裾を摘まみながらお辞儀をする。
「現、ヤミノツウ領主、シーレ。」シーレは腕を組んで、横を向く。
「元、ヤミノツウ領主、ヒドラだ。」
「ほほほ、ケイジ様に協力することを許します。」ヒドラが言う。
「け、ケイジ様、この方たちは、魔王様では?」ログマが震える声で言う。
「ん? そうだな、足りないならもう数人は「いやいやいや、充分すぎます、大丈夫です、問題ないです!」ログマが食い気味に俺に言う。
「んじゃ、今から領主を更迭しに行く、付いてきたい奴挙手!」俺が言う。
「面白れぇ、俺は行くぜ!」
「ははは、行かない理由がない!」
「わはは、俺は歴史に立ち会っているんだな?」
「ほほほ、楽しそうですわ。」
「にゃ~、ギルマス、フロント閉めて行っても良い?」
結局そこにいた全員が付いてくるらしい。
エゴワカの領主更迭以来だな。
かなり多い軍勢が、カオズシの領主邸前に集まる。
「何だお前達は?」領主邸を守る門番の男が道をふさぐ。
「領主様が、この街に疫病を流行らそうとしている。」俺が言う
「何を根拠に?」
「俺は、精霊様にご加護を貰っている。」ギルドカードを見せながら言う。
「なぁ、Aランク?」
「しかも、精霊様に直接ご神託頂いた。」
「な?」
(紫炎。)
「ケイジ、領主が疫病を撒いています!」
(紫炎さん、ナイスサポート。)
「ななな、精霊様のお声が聞こえた。」
「と、言う訳だ。」俺が言う。
「ご、ご案内します。」門番の男が門を開き、俺達を先導する。
俺達は、誰からも邪魔を受けずに領主の部屋の前まで着いた。
「領主様、お客様です。」門番の男が言う。
「おぉ、入れて良いぞ。」ドアの奥から声がする。
俺はドアをけ破った。
「な、乱暴な!」そこにいた男は俺を見てそう言う。
「おぉ、初めまして、俺はケイジだ、宜しくな。」
「あぁ、ずいぶん乱暴な訪問だな、私はカオズシの領主、メンキと言う。」
「あぁ、覚える必要は無いかな。」俺が言う。
「君が何を言っているのか、解らないんだが。」
「あぁ、精霊様のご神託だ。」俺が言う。
「この男が、この町に疫病をばら撒いています。」
紫炎さん、ないすサポート!
「精霊様のご意向に従い、お前を更迭する!」俺が言う。
部屋に雪崩れ込んだ冒険者たちも、獲物を抜いて領主に対峙する。
「くははは、何故バレたのだ?」
「あ?」
「俺には、悪魔様の加護があったのではないのか?」
「悪魔?」
「あぁ、悪魔ベルハインド様のご加護がなぁ。」メンキが両手を上げると、魔法陣が展開される。
「な、皆下がれ!」俺が叫ぶ。
「ふははは、俺を召還するのは誰だ!」そこには悪魔ベルハインドがいた。
そう、只いた。
俺は、聖属性の魔法を叩きこんだ。
「ホーリー!」
「聖、壊滅陣!」
「浄化の炎!」
「真、神聖ま「ケイジ様、オーバーキルです。」ヒドラが言う。
「最初のホーリーで、消滅してます。」
「何だ、たいしたことないんだ。」
「領主は?」
「そっちで、放心しています。」
「まず聞こう、何故疫病をばら撒いた?」
「病気で弱った奴を救済すれば、支持率が上がると教えられた。」
「誰にだ?」
「ベルハインド様だ。」
「では、お前は、救済するすべがあったんだな?」
「いや、聖女様がこちらに来ると聞いたから、大丈夫だと思った。」
「おい、其れで治療できなかったらどうするつもりなんだ?」
「聖女様なら、治療できると。」
「其れもベルハインドに聞いたのか?」
「あぁ。」
「お前、色々と駄目だ。」俺は言う。
「ほほほ、メンキ、私は貴方に不信任を出します。」ヒドラが言う。
「無駄な時間を使わせられた、私も不信任する。」シーレが言う。
「貴方の存在自体が罪悪です。」リアンも言う。
「おぉ、今この時点で、お前の領主をはく奪する!」ログマが宣言する。
「この男は、犯罪奴隷に。」俺がそう言いながら領主を虚無の部屋に入れる。
「ログマ、国王に打診して、新しい領主を迎え入れるようにしてくれ。」
「あぁ、ケイジ様、承った。」
「皆、悪かったな、来てもらって。」
「マスター殿の為なら。」
「ほほほ、ご主人様のお力になるなら。」
「ヒドラ様のお力になれるなら。」
各領主は、虚無の窓を潜っていった。
俺はその後、領主の館に赴き、領主の家族に選択を迫った。
すべての地位を捨てて、「普通の生活」に戻るか、全部を捨てて「平民の生活」になるか。
全員、「普通の生活」を願った。
平民なら、税がない生活だったんだがな。
「普通の生活」貴族の普通の生活、税金は月に5G。
「払えると良いな。」俺が言う。
2月未払いで、奴隷落ちだ。
「良い主人が、買ってくれると良いな。」俺はそう言いながら領主の館を後にする。
「え? 俺? 絶対買わないよ、そんな中古。」
カオズシの領主は、30年の犯罪奴隷に。
犯罪奴隷の行先は、重労働の鉱山だ、死亡率80%、30年勤めあげれば平民になれる。
「奴隷なら、自ら死ぬことはできないな。」そう思い、元領主の冥福を祈った。
そして、マシクフのダンジョンの10階層に、副ギルドマスターを放り出した。
「この階層のボスは、ミノタウルスだ、氷魔法を20回ぐらい心臓にぶち込めば倒せるぞ。」俺が言う。
「え? 氷魔法?」
「あぁ、ツンドラなら一撃だ。」
「わ、私は魔法は得意じゃない。」
「あぁ、じゃぁ剣で首を切り落とせば大丈夫だ。」
「え、あ、そんな。」
「ミノタウルスの角を持って、帰って来てくれ。」俺はそう言うと、虚無の窓を潜る。
「待ってくれ!」ヤカザイの言葉はダンジョンに消える。
「頼む、俺は、只、金が欲しかっただけだ。」
「ぎゃぁをををぅ。」ダンジョンの奥から、雄たけびが聞こえる。
ヤカザイの目の前で、モンスターがリポップする。
「お願いだ、助けてくれ。」
彼の願いは、敵わなかった。
「悪魔って、弱すぎないか?」
「マスターが強すぎるのです。」
「そうかなぁ?」
「上級魔法なら、一発で充分です。」




