やらかしの73
ラバオシの宿に帰った俺は、嫁さん達をそれぞれの場所に送り、ダンサの情報に有ったワシカのダンジョンに向かうことにした。
「ワシカに一番近いところは?」
「ベカスカです。」
「んじゃ、ベカスカに。」
「はい。」
「一応、孤児の様子も見ていくか。」そう言いながら孤児に向かう。
「リノ、おにぎりは。」
「できてるよ!」
「おぉ、朝から元気の良いことで。」
「ケイジ様、おはようございます。」
「おぉ、エスおはよう。」
「コボはどうなった?」
「全部の瓶が泡だらけです。」
「開けた時に、ガスは?」
「全部出ます。」
「うん、順調そうだな。」
「5日後にパンを作るからな。」
「はい。」
「んじゃ、頑張れよ。」
「はい。」
「紫炎、道具屋に。」
「はい。」
「邪魔するぜぇ。」
「邪魔するなら、帰ってくれ。」店主がこっちも見ずに言う。
「おぉ、すまんな。」俺は踵を返す。
(おぉ、ここのおやじだけはギャグを拾ってくれるな)
「おぉ、ケイジさん、待っていました、ミノタウルスですか?」
「すまん、そっちはまだだ。」
「そうですか。」がっかりしながら肩を落とすおやじ。
「こんなのはどうだ?」
「俺は、鉄を1重取り出す。」
「鉄ですか、1重1Gで買いますが。」
「どの位?」
「え? どの位あるんですか?」
「1190重。」
「はぁ? そんなに要りませんよ、ドワーフたちに売ってください。」
「ドワーフ?」
「あぁ、喜んで買うでしょう。」
「どこにいるんだ?」
「オカタのダンジョンを更に西に行った「バンテゴ」です、鉄や鉱石は喜んで買いますよ。」
「ドワーフって、この間買ったコンロを作った?」
「ええ、そうです。」
「なぁ、職人で腕のいい奴を教えてくれないか?」
「えぇ、良いですよ。」
「その前に、オーブンってあるか?」
「おーぶん?」
「あぁ、箱型で、中の温度を40度から300度にできるやつ。」
「ないですね、其れこそドワーフに造ってもらって下さい。」
「そうする、で、腕のいい奴は?」
「あぁ、ヤジカ親方が良いと思いますよ。」
「おぉ、ありがとう、又来るよ。」
「ミノタウルス、頼みましたよ。」
「よし、跳ぶか、ワシカまでどの位だ?」
「30kmです。」
「2跳躍だな。」
「はい。」
「わははは、楽しい!」
「のほほほ、爽快だ!」
「ここが、ワシカか。」
俺は、ワシカの入り口の門の前に立っていた。
門の前には、冒険者らしい門番が立っていて、街に入る者達を確認していた。
(ダンジョンだけの町じゃないんだな。)俺が思うと、入場チェックが俺の番になった。
「やぁ、こんにちは、身分を証明できるものはあるかい?」冒険者の男が俺に言う。
「これで良いか?」俺はベカスカのギルドカードを手渡す。
「あぁ、ベカスカのギルドカードか、おぉ、Aランク、ようこそワシカへ。」そう言いながらギルドカードを俺に返してくる。
「通って良いのか?」
「あぁ、良い旅を。」
「ありがとう。」そう言いながら門を潜った。
そこは活気がある街だった。
門を潜った先には広場があり、幾つもの屋台があった。
人々はその屋台で、思い思いのものを購入している。
更に、広場の中心では、どこぞの楽団が、楽しげな音楽を演奏しており、その前では、若い男女が思い思いにダンスを踊っていた。
「ははは、にぎやかな街だ。」俺はそう思いながら、近くにいた男に声をかける。
「すまない、ギルドは何処だ?」
「あぁ、この広場の反対側にある、赤い屋根の建物がそうだ。」
「おぉ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
俺は、喧騒を避けて赤い屋根を目指す。
「ここか。」俺はそこに入る。
中にいた者達が一斉に俺を見るが、一瞬で何もなかったかのように元に戻る。
(取り巻きがいないとこんなものか。)そう思いながら、カウンターに行く。
「ようこそいらっしゃいませ、ギルドにどんな御用ですか?」
「あぁ、ダンジョンの情報を聞きたい。」
「はい、喜んで。」
「このダンジョンは鳥の肉がドロップすると聞いてきたんだが?」
「はい、ただ、ドロップではなく、本体が残ります。」
「あ~、マシクフと同じか。」
「はい、そうです。」
「入るのに幾らかかる?」
「100Bです。」
「何階層だ?」
「5階層までしか攻略されていません。」
「え? たった?」
「6階層以降の入り口も確認されていますが、レベルが高すぎて誰も行っていません。」
「残った肉の扱いは?」
「ここでも買い取っていますが、持ち帰っても大丈夫です。」
「なるほど。」
「他に質問はございますか?」
「今から行きたいんで、決済してくれ。」
「現地で、担当者にお渡しください。」
「あぁ、そう。」
「あと、コアは壊さない方が良いんだよな?」
「はい?」
「ん?」
「コア?」
「あぁ。」
「え~っと、コアがある階層は判っていないんですが。」
「あぁ、最下層まで行ってくるよ。」
「あの、戯言はお止めいただきたいのですが。」
「マスターに対し不敬だろう!」サランが指輪から出て言う。
「げぇ、サラマンダーの主体?」
「サラン、穏便にな。」
「申し訳ございませんでした、宜しければ身分を証明できるものを。」ギルドのお姉さんが俺に言う。
「ん。」俺はギルドカードを渡す。
「なぁ!」お姉さんが挙動不審になる。
「ず、ずびばぜんでじだあぁ。」変な声で俺にカードを返してくる。
「コアは、壊さないでください。」
「ん~、了解。」俺はそう言うとギルドを出る。
「紫炎、ダンジョンの場所は?」
「ここから西に5kmです。」
「んじゃ、跳ぶか。」
「はい。」
「あはははは。」
「ここが入り口か。」
周り中に屋台が立ち並んでいる。
「縁日だな。」俺が言う。
「マスター、入り口はあっちだ。」サランが指をさしていう。
その方向に行くと、明らかに異質な場所があった。
「どう考えてもここが入り口だな。」
「おや、ダンジョン攻略?」
「あぁ。」
「ここで採れるのは何だろう?」
「おや、知って来たんじゃないんだ?」
「鶏肉が取れるとしか。」
「このダンジョンは5階層までしか攻略されてないんだ。」
「うん、さっき聞いた。」
「で、採れるのは、ランナー鶏、ロック鶏、金鶏だ。」
「全部食えるのか?」
「あぁ、特に金鶏は1重200Gだ。」
「へぇ、美味いのか?」
「食ったことがないのか、至福だよ!」
「おぉ、楽しみだ。」
「今から入るのかい?」
「あぁ、受付は何処だ?」
「あぁ、俺が受付だ。」
「証拠は?」
「あぁ、これだ。」
その男は、ギルドカードとダンジョン管理者のカードを見せる。
「おぉ、んじゃこれが入場料だ。」そう言いながら200Bを渡す。
「ん、100B多いぞ。」
「一応二人で入るんだが。」
「あぁ、1パーティ100Bだ。」そう言って100Bを返してくる。
「あぁ、そう言う事か。」俺はそれを受け取り、ダンジョンに入る。
「おぉ、頑張って来いよ!」
「ありがとう。」そう言いながらそこに有る階段を下る。
短い階段の先には安全地帯の広場があった。
そこには、数組のパーティが入場を待っていた。
「今入ったパーティが、フロアボスと戦闘中です。」おそらくギルドの職員なのだろう、俺達に説明してくる。
「一応、入って半刻で攻略できなければ強制送還となります。」
「あぁ、それじゃあ2刻ぐらい待つのか?」
「あぁ、今入っているパーティーが全滅しました。」
「え?」
「今入っていたの、レベル8の冒険者パーティーだよな?」俺達の前にいた冒険者が騒ぎ出す。
「残念なことに、高レベルのフロアボスが出たようです。」ギルド職員が無機質に言う。
「悪い、俺らキャンセルする。」
「俺達もキャンセルする。」前にいたパーティーが口々に言う。
「その場合、入場料は返金されませんが?」
「あぁ、良いよ、命あってのものだねだ。」そう言いながら前にいたパーティーが階段を上っていく。
「では、貴方達の番です。」ギルド職員が俺達に言う。
「おぉ、ラッキーだな。」そう言いながら、俺はそのフロアに入る。
「ひぎゃぁぁあぁ。」
「ランナー鶏の死体30、虚無の部屋に。」
「紫炎、死体をお肉に変えてくれ。」
「はい。」
「はいはい、サクサク行くよ。」俺はそう言いながら2階層に進む。
「安全地帯は無視して、即入場!」
「ひぎゃぁぁあぁぁ。」
「ランナー鶏20、ロック鶏12、お肉を虚無の部屋に。」
「よし、次だ、次!」
3階層のドアを潜る。
「ふぎゃああああああぁ。」
「ランナー鶏15、ロック鶏20、金鶏5虚無の部屋に。」
「よしよし、順調だな。」俺はそう言いながら4階層に進む。
「安全地帯は意味ないな。」俺は4階層の扉を開ける。
「みぎゃぁぁぁぁぁ。」
「うん、手抜きにしか見えないな。」
「マスター、誰に話しているのですか?」
「いや、気にするな。」
そして、俺は最下層に辿り着く。
最下層は15階。
フロアボスはマスターコカトリスレベル50だった。
当然のように殲滅。
数刻後、俺達はワシカのギルドで報告をしている。
「え~っと、すみません、もう一度言っていただけますか?」
「あぁ、このダンジョンの深さは15階、フロアボスはマスターコカトリス、レベル50だ。」
「あの、ドロップをもう一回。」
「あぁ、一階階はランナー鶏30。」
「二階層は、ランナー鶏20、ロック鶏12。」
「三階層は、ランナー鶏15、ロック鶏20、金鶏5。」
「四階層は、ランナー鶏10、ロック鶏23、金鶏12。」
「五階層は、ロック鶏30、金鶏15、フロアボスはコカトリス、レベル15。」
「六階層は、ロック鶏50、金鶏30。」
「七階層は、金鶏40、火食い鶏10.」
「八階層は、金鶏5、火食い鶏20、孔雀10。」
「九階層以降は孔雀が階層毎に10ずつ増えて言った。」
「つまり、九階層は孔雀20で、それ以降30、40、50、60、70だと?」
「あぁ、その通りだ、因みに十階層にいたフロアボスは、ハイコカトリス、レベル30だった。」
「なるほど。」
「なぁ、火食い鶏とか、孔雀って食えるのか?」
「えぇ、それが本当なら、至高の味です。」
「おぉ、其れはラッキーだな。」
「で、15階層ですが?」
「おぉ、さっきも言ったが、フロアボスはマスターコカトリス、レベル50、その前に孔雀100のドロップだな。」
「あの、ケイジ様。」ギルド職員が言う。
「なんだ?」
「ギルドカードは、それらの討伐を示していますが、いまいち信用できません。」
「あぁ、そう言う事か。」
「えぇ。」
「んじゃ、出せる処に案内してくれ。」
「はい、こちらに。」職員は奥の部屋に案内する。
「ここで出すって言う事は、買取で良いんだよな?」俺が聞く。
「はい、其れが本当のことなら。」
「おぉ、後悔するなよ。」俺はそう言って、そこに孔雀を半分置く。
「な!」ギルド職員が固まった。
「孔雀の肉は1重5000Gです。」
「おぉ。」俺が言う。
「ここにある孔雀から、どれだけの肉が取れる?」
「部位にもよりますが、60重位かと?」
「はぁ、300000G? そんなに払えるの?」
「販売後支払いを認めて頂ければ。」
「はぁ、良いよ。」
「では、ギルドマスターに報告して、販売を開始します。」
「あぁ、宜しく。」
そして、ダンジョンを攻略した俺には、ギルドからとんでもない報酬が入った。
「15階層のダンジョン踏破報酬は600Gです。」
「それとフロアボス情報ですが、112500Gです。」
「あぁ、とんでもないな。」
「えぇ、すぐには決済できないので、後日のお支払いになります。」
「では、用意が出来たら、ベカスカのギルドに連絡してくれ。」
「解りました。」
「さて、日も高いから、次だ、が、その前に。」
「おい、酒屋の場所を教えてくれ。」目の前のギルド職員に聞く。
「酒屋ですか、あぁ、ここを出て右に行けば酒を売っている店があります。」
「おぉ、ありがとうな。」俺はギルドを出て、言われたとおりに歩いていく。
少し歩くと、目的の店が見えた。
「おぉ、ここだよな。」
店の前で、赤ら顔をした男が、幸せそうに瓶を抱いて眠っている。
「邪魔するぜぇ。」
「邪魔するなら帰れ!」
(おぉ、ここのおやじもギャグを拾ってくれるのか。)そう思いながらその店に入る。
「ちっ、入ってきやがった。」心底いやそうに俺に言う。
「おやじさん、酒が欲しいんだが。」
「あぁ、どんな酒が欲しいんだ?」
「ドワーフが喜びそうな酒が良いな。」
「あぁ、ドワーフだと、あいつらは酒精が高ければ旨いと思う奴らだ、薬屋に行って消毒液でも買え!」
「ははは、面白い冗談だ。」
「ちっ。」
「テキーラとか、ウヲッカがないか?」
「てきら? うおか? なんだそれ?」
「蒸留して、酒精を上げた酒だ。」
「うちで一番酒精が高いのは、スピリだ。」
「おぉ、んじゃそれを5樽。」
「はぁ? 20Gだぞ。」
「良いよ、あと燗と冷に合う酒はあるか?」
「おい、兄ちゃん、あるかってのは疑う言葉だぜ。」
「おぉ、其れはすまないな、で、あるのか?」
「ちっ、うちの品ぞろえはワシカ一だ。」そう言って、店内を示す。
「おぉ、言われてみれば、ぽん酒、ラガー、ウイスキーらしきもの、焼酎らしきもの、果実酒やワインらしきもの、おぉ、梅酒もあるな。」
「兄ちゃん、酒の名前が全部違う。」
「あはは、俺はよそから来たんでな。」
「そうか。」
「んで、おやじ。」
「何だ?」
「ここに有るの、全部買って良いか?」
「はぁ? あほか、ここに有るのは全部で300Gだぞ。」
「ってことは、売ってくれると?」
「おぉ、払えるのならな。」
「カード使える?」
「おぉ。」
「これは?」俺はカードを渡す。
「おぉ、ベカスカのギルドカードか、問題ないぞ。」
「んじゃ、決済して。」
「へ、320Gだぞ。」
「うん、宜しく。」
おやじさんは、挙動不審になって、カードを決済する。
「おぉ、本当に決済出来た。」そう言いながらカードを返してくる。
「んじゃ、品物貰うよ。」
「あぁ。」
「紫炎。」
「はい。」一瞬で店内の品物が消える。
「な?」おやじさんが固まる。
「あと、スピリの樽は?」俺の声でおやじさんのフリーズが溶け、店の裏に案内される。
「ここにある。」倉庫らしき場所に入っていく。
「おや、まだ在庫あるじゃないか、ここのも買おうか?」
「いや、止めてくれ、明日から商売ができなくなる。」
「あぁ、其れもそうか。」
「この5個がスピリだ。」
「おぉ、紫炎。」
「はい。」その樽も一瞬で消えた。
「又寄らせてもらうから、珍しい酒を仕入れておいてくれよ。」
「あぁ、あんた、名前は?」
「ん? あぁ、俺はケイジだ宜しくな。」
「あぁ、覚えた、今後ともよろしく。」おやじが深く頭を下げる。
「紫炎、オカタへ。」
「はい。」
おやじが頭を上げると、目の前には誰もいなかった。
「天狗?」ぽつりとおやじが言う。
「バンテゴに近いのはここで良いんだよな?」
「はい。」
「距離は?」
「約80kmです。」
「4跳躍か?」
「はい。」
「ふふふ、では楽しい時を味わうか。」
「わははは。」
「あ~~、楽しい!」
「おぉぉ、距離が伸びた。」
「はははは。」
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「ここが、バンテゴ?」俺はその街を見て言う。
町は、巨大な石の壁で囲われている。
目の前には門が見えるが、そこには巨大な斧を担いだ背の低い男がいる。
え、男だよな、でも胸が膨らんでいる、でも、髭が生えている。
ドワーフって、女性でも髭が生えるって、元の世界の書物で読んだような気がする。
俺は気を取り直して、門に行く。
「あぁ、バンテゴに何の用だ?」
(女の人だった~。)
「あぁ、ヤジカ親方に会いに来た。」そう言いながらギルドカードを出す。
「ふ~ん。」そこにいた門番は、興味なさそうにカードを見る。
(ん、これは、あれか? つまり袖の下を渡せという事か?)俺はそう思い、さっき買った酒の中で強めのウイスキーを取り出す。
「おぉ、門番も大変だろう、これでもやって景気をつけてくれよ。」そう言いながらウイスキーの瓶を渡すと、途端に表情が明るくなって、俺を門の中に通してくれた。
「ははは、人間にしては判ってるじゃないか。」そう言いながら、その場でキャップを開けてラッパ飲みしている。
「はは、ドワーフが酒飲みなのは、この世界でもテンプレかよ。」そう思いながら、ギルドに向かう。
「と、思ったが、親方に直接売った方が、心証良くなるか。」わざわざ口に出して言うと、周りにいたドワーフに、ヤジカ親方の工房の場所を聞いた。
「ヤジカ親方なら、この道をまっすぐ行った突き当りの工房だ。」
「おぉ、ありがとう。」俺は安いウイスキーの瓶を渡して言う。
「なに、いつでも聞いてくれ。」そいつもそこで蓋を開けて飲み始める。
(ドワーフ、どんだけ酒好きだよ。)
しばらく歩くと、その工房があった。
すげぇ、熱気を感じる。
(これは、窯の熱ですね。)
俺は、深呼吸をすると、その工房に入った。
「ぐふふ、本当にいろいろなものが入っていますね。」
「おや、これは?」
「ぐふふ、色々な漬物がありますね、少しだけ貰っておきましょう。」
と、最近紫炎のレベルが上がり、奥様達に解禁された虚無の部屋をこっそり物色するダンサだった。




